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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
血の重さ
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後片付け

無事にヒューイを拘束し、光る浮き輪君をはめて軽々と引っ張っていく。髪の毛一本抜き機は役目を果たしたのでしまっているが、つんつんこちょばし棒と催しちゃう君はいつでも動けるように待機している。


「でもこの人って次男坊なんだよね? 貴族の力が使えるのって家長だけじゃなかったっけ? なんで使えたんだろうね?」

「うーん、家長を交代したんでしょうか? でも、そうなるとおかしいですよねぇ」

「なにか目覚めたんだよぉ、きっと」


セリナはともかく、ミミ、それは無いと思うんだけど。なんにせよ、このまま皆のところへ連れて行ってふんじばっておけば、後で何かわかるだろう。ヒューイを捕まえて気が抜けていたんだろう。気付けば目の前に炎の球が飛んできていた。


「っ!?」


咄嗟に逃げようとしたけど、それより早くミミが僕とセリナを突き飛ばす。


ゴガンッ!


これは球魔法?! って事は・・・


「エドッ!?」

「・・・そうだよコージ、その兄さんは返して貰うよ。悪いけど」


気がつけばエドが静かに佇んでいた。球魔法の爆発のせいでヒューイは僕達から離れた所へ吹き飛び、エドは悠々とヒューイを助け起こす。


「・・・遅いぞ、このガキ。あとでどうなるか分かってるだろうな?」

「すみません」


無様な姿を晒していながらもヒューイはやっぱり貴族で、エドに対して尊大な態度を崩さなかった。その尊大な態度からあいつがエドの弱みを握っているとしか考えられない。


「コージちゃん! あ、ここに居たか。逃げられないぞそこの坊主!」


ぞろぞろとやって来たのは、エディさん達。エドを追ってここまで来た?


「コージ、そこの坊主は「777」に乗ってた奴なんだ。絶対に逃がしちゃ駄目だ」

「なるほど・・・」


真似の印を持つエドワード。彼なら父ちゃんの何かを真似て「777」に乗る事ができる。コックピットが丸見えになった時、動きが鈍ったのはフレームに乗って戦っていたのが僕だって分かったから逃がそうとしてくれたんだろう。だけど、ヒューイという駄目貴族に協力させられてるのは見逃せない。


「エディさん。悪いのはあそこのツルピカのヒューイなんです。あいつがエドを脅して戦わせていたんです」

「・・・あいつヒューイなのか」


その言葉を合図にエドは何事か呟く。


「コージ。悪いけど俺逃げるから。じゃあな」

「ちょっと、エドッ! 待って!」


その台詞が終わるか終わらないかぐらいに、エドとヒューイの姿が掻き消える。転移魔法か?! エドは一体どれだけの引き出しを持ってる?


「どこへ転移したか分かりますか?」

「いや、無理だろうな。これだけ町の中がごったかえしている状況だと波が分からん」


普段であれば追跡できたであろう転移魔法は、戦闘の余波のせいで追いきれる物では無くなった様だ。僕のアイテムでもエドかヒューイの血か何か無いと探せない。ヒューイの髪の毛はどこかに落ちてるかもしれないけど、エドの炎の球魔法で吹き飛ばされてるみたいで、全くわからない。エドがヒューイに使われているとは言ってたけど、まさかこんな形で出会うとは思っても見なかった。


僕達がうなだれていると、父ちゃんの声が響いた。父ちゃんの無事を伝えるのと、今回の騒動は無事解決した事を告げる宣言だ。町のあちらこちらでファウンデルス卿の言葉を信じて戦ってた人達も、これでひとまずは落ち着くだろう。


だけど、ヒューイが逃げおおせたのは残念だ。家長ではないあの男が何故貴族の力を使えたのか謎のままだし、エドがヒューイのいいなりになってるのも解決できない。でも、とりあえずの平和はこれで取り戻せた。


あとはグレイトエースの後始末を済ませ、ハイローディスの軍勢を国から追い払う事だ。向こうは一応こちらの要請を受けて国内を自由に移動しており、事態が収拾された今では早々に国に帰って貰う必要がある。そもそもがクーデターの首謀者のファウンデルス卿が呼んでいたので、正当な王の父ちゃんの要請ではない。そこらへんも含めて、今回の騒動の補償をどうするか決める必要もあるそうだ。


現在ハイローディスの軍勢がグレイトエースを出て四日目。この距離であればまだ飛行ユニットで簡単に追いつける距離である。なので、父ちゃんの「777」にも飛行ユニットを付けて追いかけさせ、交渉をする必要があった。勿論、グレイトエースには事態が収拾された事を知らない貴族たちが押し寄せる可能性がある。そいつらを叩きのめす為には僕がグレイトエースに居残る必要があった。


「じゃあ行って来る。すぐに帰ってくるから無茶はするんじゃないぞ」

「うん、分かった。一応、言われた道具は作っておいたけどずっとは使えないから気をつけてね、父さん」

「分かった。じゃあな」


そう言葉を残し「777」に乗り込む父ちゃん。アラン隊長や今回突入に参加した人達のほとんどを引き連れハイローディスの軍勢を追いかけていった。ちなみにエディさんは僕と一緒に居残りである。


「コージちゃんと居るほうが、色々ありそうだしね」

「失礼な。僕はトラブルメーカーじゃありませんよ?」


エディさんは、どうも僕をからかって遊ぶのが楽しいようだった。ロバスから呼び寄せたエース級の人はエディさん以外居なくなったんだけど、元々グレイトエースに駐留していたパイロット達が居るので、安心は安心だ。


さて、この間にセリナと話をしようと思う。


昨日からセリナの様子が何か変だった。僕が何かしたせいで落ち込んでるのかとも思ったんだけど、そうではないみたい。あと白夜についても何も突込みが無いのも変だ。いつもなら真っ先に問い詰めてくるはずなのに。すごく元気が無くて落ち込んでるんだよねぇ・・・セリナが落ち込んでるから、慰めるとかじゃないんだけど、話をしない事には何も解決できない。


セリナの部屋の前で一度深呼吸をする。


すーはー


「セリナ、良い? 入るよ?」

「はい、どうぞ」


ノックをして返事を聞いてからドアを開けて、部屋に入る。今回どっきりイベントはなしだ。部屋に入ると、ベッドに腰掛けているセリナとくつろいだ様子でベッドに転がっているミミが居た。


「あ、コージいらっしゃぁーい。どうしたのぉ? お出かけするのぉ?」

「ううん、違うよミミ。それは後で。今はセリナとお話しようと思って来たんだ」

「ミミ、邪魔ぁ?」

「ううん、そんな事ないよ。だけどちょっとだけセリナと二人きりにさせて貰えるかな?」

「うん、分かった・・・」


そういって、部屋から出て行ってくれるミミ。後で埋め合わせしないとね。


「えっとセリナ。どうしたの? 昨日から変だよ?」

「その・・・」


やっぱり元気が無い。


「僕には言えない事? それならヒロコでも呼んでくるけど・・・」

「違います。いえ、そうなんですけどヒロコに言っても駄目なんです」


そこで観念したのかセリナは僕をまっすぐ見て話し始めた。


「私は貴族が怖いのです、コージ。昨日の戦いでも貴族が正面に出てきただけでどうしようもなく怖くてたまりませんでした」

「うん、それで」


僕はその場面は知らないので、セリナがどういう状態になったか分からない。


「今までもそうです。何かするときに貴族が敵に居るというだけで、絶対に勝てないと思ってしまうのです」

「そんなに怖いなら仕方ないんじゃないのかなぁ? 貴族ってそういう怖い存在なんだって聞いたし」


この世界では貴族というのは絶対とも言える権力を持ち、傍若無人にふるまう種族とも言えるほど無茶を繰り返しているようだし。そりゃ怖くて当然だよね。


「いえ、昨日のファウンデルス卿もわたしが力を十分に発揮できれば、なんとかできる相手でした。だけど、貴族に立ち向かう事ができなかったばっかりに、皆を危険にさらしてしまって・・・」


そういって静かに泣き始めるセリナ。


「いくら気持ちを奮い立たせようとしても駄目だったんです。どうしても、あの貴族の空気を感じた途端に何もかも考えられなくなってしまうんです・・・」

「それじゃあ戦わなくて良いんじゃないかな」


僕のその言葉にセリナが息を呑むのが分かった。


「貴族と戦えないんじゃ、コージの役に立てないじゃないですかっ! 私はもう要らないって事なんですかっ!?」


普段もの静かなセリナが大声を上げて怒っている。だけど、僕はそんな事を言いたいわけじゃない。


「ううん。セリナが要らないとかそんな訳ない。貴族とかと戦うのは父ちゃん達に任せて僕達は裏方に回ればいいし、無理に戦う必要なんて無いんじゃない? セリナは凄い魔法を使えるのは間違いないんだけど、それ以外は普通の女の子じゃないか」

「うっ・・・」

「何か勘違いさせちゃってるみたいだけど、僕はセリナが魔法を使えるってだけで一緒に居るわけじゃないんだよ? だから、魔法が使えないってだけで自分に価値が無いとか思わないで? ね?」

「う、うぅぅ・・・」


セリナと居ると楽しい。それが僕の一番の理由。タタ村を出てまで僕達に一緒に付いて来てくれて、この世界に疎い僕を馬鹿にもせずに色々と丁寧に教えてくれるセリナ。むしろ僕達が負担をかけすぎてるせいで、逃げられてしまわないかと考えたりするぐらいだ。


「じゃ、じゃあ、これからも一緒に居ていいって事ですか?」


しゃくりあげながらそんな事を聞いてくるセリナ。いまさらなんて事を聞くかなぁ?


「当たり前だよ。というかセリナが居ないと駄目なんだ」


主に知識の足りない僕達のアドバイザーとして。なんでも馬鹿にせずに教えてくれる人ってすごく貴重だなって僕は思うんだ。色々知っている人間って、こんな事も知らないの? ってすごく馬鹿にしてくる人も居るから嫌なんだ。まぁ向こうからしたら、それぐらい自分で調べろって気持ちなんだろうけどね。


「はいっ、コージに一生付いて行きます!」

「う、うん」


先程までの泣き顔と違い、すごい満面の笑顔で元気よくそう答えてくれるセリナ。一生はどうかと思うけど、恋人とかできたらいくらなんでも離れるよね?


「それじゃあ、早速なんですが・・・」


さっきまでの、明るい雰囲気がまた何か不穏な空気へと戻る。いや、何故に?


「昨日連れてきた黒髪の女の子のお話をじっくり聞かせて貰いましょうか、コージ」


そうやってにっこりと微笑むセリナの顔はひさしぶりだった。目が笑ってなくて怖くてたまらないけど、いつものセリナが戻ってきてほっとしている僕がそこには居た。



これでバルトス国動乱は終結です。


これから学園編に突入していく予定です。たぶんきっと・・・


前半が大幅に抜け落ちてました。読み返してびっくりです・・・ごめんなさい。(七月二十二日修正)


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