ここで会ったが百年目
クーデターの首謀者ファウンデルス卿を捕らえ、一応の決着がついた今回の騒動の最後の締めを行うべく、玉座の間へと向かう。この国の王様である父ちゃんが玉座の間から国民に対して終結宣言を行うそうだ。それでようやくファウンデルス卿に付き従っていた兵士達も沈静化し、安全になるようだった。
「雨・・・降るのかな」
湿った空気が水の匂いを運び、しばらくすれば雨が降りそうな気配を届けてくれる。そういえばこっちの世界に来て雨が降るのは、初めて見るかもしれない。今回の事件の首謀者ファウンデルス卿は、父ちゃんの右腕としてずっと働いてきてくれた功労者で、かなりの事を取りまとめてきたそうだ。大貴族にも拘わらず、貴族を排除したい父ちゃんの意向を汲んで法案を作成し根回しをしてきた人物だったらしい。だけど、今回の件で露呈した貴族の血の呪縛。これがある限り、いくら父ちゃんの言う事に賛同している貴族であっても結局は反対する事になってしまうようだ。むしろ反旗を翻す様になる。
「困ったもんだなぁ、色々と。貴族っていうもんをまだまだ舐めて見ていたようだな、俺は」
父ちゃんもその事を考えていたのだろう。いかにも困ったように頭をかいている。それにもう1つ懸念事項が。
「父さん、印が無いと貴族って抑えられないんじゃない・・・? 大丈夫?」
「それも困った事なんだよなぁ。王の印に貴族達は逆らえないっていうのは伊達じゃ無かったんだなぁ・・・はぁ困った困った」
おおよそ人対人での戦いで、でたらめな強さを発揮していた貴族。あんなのがうじゃうじゃ居るとなると、面倒な事になるのは間違いないよねぇ。何故か貴族に対しては、平民の人達は力を十全に発揮できないようだったし。この世界がそういうルールに縛られてるように見える。
「で、父さん。この印って父さんに返す事ってできないの?」
「俺の時は、おまえに渡したいって中の奴に頼んだらできたけどな。中の奴に頼める?」
「え? 中の奴って何? 印に誰か居るの?」
「あー・・・おまえって印の力って、ほとんど使ってないんだっけか。それじゃあ中の奴は出てこないよなぁ。精霊はともかくとして」
そもそも印の力をどうやって使えばいいか分からないし。ファウンデルス卿との戦いでは自動で攻撃を無効化してくれてたけど、意識的にしていた訳じゃないからなぁ。もっと攻撃を受けて、中の人? が出てくるまで粘ってた方が良かったのかな?
「まぁ、中の奴が出てくるまではそういった事はできないと思うぞ。それにおまえにはあんまり印の力を使って欲しくは無いんだよなぁ。事情は言えないんだけどな。」
「前もそんな事を言っていたよね。でもどうするの? 印が無くても言う事聞きそうなの?」
「難しいだろうなぁ。あやしいと思ったら即、貴族の力を試してくる奴も居そうだし。光司はそういった力をぱっと防御できるアイテム作れない?」
「あー・・・」
どうだろ? あの力って魔法とか物理的になにか飛んできてるって訳じゃ無さそうなんだよね。セリナやミミに渡していた結界がまったく意味無かったようだったし。結界が効かないとなると違う方法で無効にするか、魔法だろうと超能力だろうと、力であれば無効にしてしまう装置を作るか。何が有効になるか分かんないので両方作ればいいか。
「なんとかなるかも? だけど、魔力をどか食いしそうだからずっと使いっぱなしとかは難しいかもしれないよ」
「いや、一時的にでも防げればそれで良い。助かるよ光ちゃん」
嬉しかったのか、僕の頭をなでぐりする父ちゃん。ひさしぶりに撫でられるけど恥ずかしいから止めて欲しい。
「ちょっと、止めてよ父ちゃん! はなせー」
「わはは、わりぃわりぃ。嬉しくてつい」
そんな僕達の様子を参加するでなく、止めるでなく、じっと見守っているセリナ達。こういう時は助けて欲しいなぁ。ふとセリナと目が合うが、ついと逸らされてしまう。なんだろう? セリナの様子がちょっとおかしい気がする。僕何かしたのかな・・・?
「セリナ、大丈夫?」
僕が声を掛けると、びくっとしてからこくこくと頷くセリナ。なんだかぎこちない動きだ。アバターシステムを使っているせいでは無いと思うんだけど、どうしたのかな?
「はい大丈夫です、コージ」
「でも、なんだか元気が無いみたいだけど・・・? その・・・僕なんかした?」
「いえっ、そんなっコージが悪いんじゃなくて、わたしが・・・そのっ・・・」
少し涙ぐんだ表情でこちらを見上げるセリナ。ん、あれっ? あいつは!
バシュン!
何かが僕の前で霧散した気配があった。貴族の力か!
「待てっ! 逃げるな! そこの貴族!」
奇襲に失敗した奴は、即座に逃げ出した。あいつはセリナを攫った奴だ! 名前は・・・忘れた! どこかの次男坊! 屋敷を出払ってたのはここに来てたせいなのか。あいつを野放しにしてたら、またなにか悪さするはずだ。
「あいつは、エディン家の次男坊ヒューイか。貴族の力は家長にしか受け継がれないのに何故だ? 油断するなよ光司」
「うん、分かった。セリナ、ミミ行くよ!」
「「はいっ」」
父ちゃんは事態を収束させる為に、宣言をしに行くのでここで別れる。白夜は念の為、父ちゃんに着いて行って貰った。
「ここで会ったが百年目! 今までの借りを返させて貰うよ!」
テンション上がってきたぁ! あいつ用に作っておいた色々な道具が今役に立つときが来た! まずは、これだ。
パシュパシュ!
逃げながらも、何度も僕に向かって力を揮うヒューイだがそんなのは効かないよ。そろそろこっちの攻撃を喰らえぇ~~~! そして、ぽいっと手に持ったアイテムを投げつける。
つんつんこちょばし棒。
とってもくだらない物だと思う。だけど、考えて見て欲しい。逃げている最中にただでさえ必死に走っているのに、こちょばされた時を。到底まともに走る事なんてできないだろうし、きっと物凄く腹が立つと思う。そう僕はあの貴族を徹底的におちょくる事にしたんだ。ぶんぶんと飛び回る棒は、的確にこちょばすポイントをつつきまくり、逃げ回る。笑いながら逃げる姿は物凄く滑稽だ。
「ぷっ」
「うふふふ」
現にセリナもミミもおかしくてたまらない様子で、追いかけている。
「くそっ、わはっやめっやめんかっ! はっこのがっき、うひゃひゃ」
もう無茶苦茶です。だけど、もっと馬鹿になって貰わないと! いけっ第二弾!
髪の毛一本抜き機!
説明しよう! これは、髪の毛を一本だけ抜いていく優れ物のアイテムなのだ、以上! あ、髪の毛が全部抜けるまで止めないジェノサイドモードもあるよ。そして勿論これはジェノサイドモード発動だぁあああああ!
一機だけだと、時間が掛かりそうなので20機ほど一斉に投げつける。きっとあっという間に太陽が拝めるね。
「いっ、なんだ、わはぁっ、えぇぃやめっ、ちょっ、なんだ、おいぃ」
ぷちぷちと髪の毛を抜かれると痛いよね。だけどこちょばしは続行してるし何がなんだか分かっていないようで、滅茶苦茶に動きまくっている。そして、少しずつうっすらになっていく髪の毛。変な風に残してる部分があるのが、見てて楽しい。
でも、これってあれだね。見てる方も可笑しくて堪らない。今までなんでこんな奴が怖かったのか不思議なぐらいだ。一応、ヒューイも力を使って追い払おうとしているんだけど、この道具はどれもこれも小さい上にすばしっこいので、全然当たってない。
そして、さらに非道な道具を使おうと思う。
これを作る時さすがに人間としてどうなんだ? と思って一応人間の尊厳を守れるようにはしたんだけど、それでもやっぱりその姿は人に見せられないと思う。でも使うよっ!
いけっ! 催しちゃう君!
つるんとした球のような形をしていて、それを見ていると和むようにふよふよとした形になるようにし、色もきらきらと変わるようにしている。だけど、こいつにぷすっと刺されると途端に便意が襲ってくる。2秒ぐらいで収まるんだけど、かなり強烈なのだ。実際には何かが出ちゃうって事は無い筈なんだけど、現在我慢してる最中ならきっと出ちゃう。
「はおっ!? くっひひゃっ? いっ、ほひっ?!」
なんだかすごい事になっているヒューイ。ちょっとやりすぎたかもしんない。ちょっと人としてどうか? という姿になっちゃってるし。これぐらいで反省するかな? すでに逃げる事などできずに、寝そべって時折びくびく動く塊になっちゃったヒューイ。貴族もこうなれば何もできないだろう。
気付けば、「777」を捕獲している場所までやってきていた僕達は、ヒューイを拘束して王宮へと連行していった。結局何がしたかったんだろうね、この貴族は。
くだらないアイテムです。個人的に髪の毛抜かれるアイテムは恐怖です。はげになっちゃう。