そして決着
「その狂気と一緒に勇者を消して貰えリュート!」
そう叫んで僕は「グッドラック」をリュートに突き刺した。
「グッドラック」は、リュートに吸い込まれるように消えて無くなりリュートは気を失ったようだ。これで、リュートは正気に戻るんだろうか? だけど今は「グッドラック」に任せるしかない。
「グッドラック」が無くなってしまい、僕には武器が無い。だけど、まだ魔法の力が使える。白夜を助けないといけないけど、とりあえず他の皆を動けるようにしないと。白夜が抑え込んでくれている間に一人ずつ回復していき、体勢を整える。だけど、ミミやセリナはアバターシステムのダメージが大きかったのか、まだ復帰できないようだ。なのでミミの「月詠」を借りておいた。
「光司助かった。正直かなりやばかった」
「ううん、間に合って良かったよ。こっちも白夜が居なかったらやばかったし」
お互い危ない状況で進んでいたようで、本当に白夜が居なければどうしようもない状況だっただろう。僕たちは非常に運が良かったのだ。この運を逃さないためにもすぐに動かなければ。
「あのファウンデルス卿の攻撃は僕には効かないはず。さっき何かしたみたいだけど、何も起きなかったし」
「そうだ。お前にある王の印。それがあいつの攻撃を無効化する。だが・・・」
「この印って本当は父ちゃんにあったんでしょ? でも今は僕にあるんだからこの役目は僕にしかできないんだってば。任せてよ」
さっきから見てると、ファウンデルス卿は動くたびに何か見えない力を出しているようであれを食らうと、かなりダメージがあるようだ。さっきからこの部屋がちょくちょく壊れていってるのは、そのせいだ。
「じゃあ、行くよ。援護お願い!」
「分かった、任せたぞ光司」
勇者一行の攻撃は、さすがに食らってしまうから援護して貰わないと危ない。
「白夜、ありがとう! そしてお待たせ!」
「ようやく来たか主よ。殺さずに戦うのはほんに骨が折れるのぉ」
「このおじさんと一騎打ちするから、サポートお願い!」
「わかったのじゃ、まかせろ」
とりあえず、白夜が居れば安心して背中を任せられる。
「お前の所為で、ユージンを貴族にできなかった!お前が来なければ・・・」
「なんと言われようと関係ないよ。大人しく捕まって貰うよ!」
いろんな事情があるとは思うけど、父ちゃんを信じて捕まえるだけだ。向こうの攻撃もそうだけど、僕の魔法も相手に効かない。となると、武器を持って戦うしか無い。「月詠」を構えファウンデルス卿に突撃する。ファウンデルス卿は腕を動かすけども、その度に攻撃は僕の目の前で弾けて消えるようで、実害は無い。
「くっ、厄介なやつめ」
「褒め言葉と思っておくよっ」
偉いさんっぽい人なので、こういう接近戦に慣れていないと思ってたけど、思った通りだった。「月詠」をバットのように振り回して攻撃しているんだけど、さっきから当たってばかりで、逆に怖い。当たる度に、「うっ」とか「ぐっ」とか言うし。痛いだろうから当たり前だろうけど、こうなるとなんだか弱いものいじめしてるようで嫌だなぁ・・・
ファウンデルス卿は、よろめきながら執務室の奥にある扉へと逃げていく。途中で机にぶつかったりしてフラフラになっている。僕はいい加減諦めて貰う為にその後を追いかけた。扉から逃げられては困るので、急いで先回りをする。
「待て光司、その扉に近づくな!」
「え?」
父ちゃんの厳しい声にはっとして振り向いている隙に、ファウンデルス卿が僕を扉に押し付けるように拘束した。そして僕の首には何か鋭利な物。
「ぐっ、このっ放せ!」
「うまい具合に掛かってくれてありがとう。さぁユージン。この扉の意味は分かるか?」
扉の意味って・・・大方どこかに脱出する魔法でも掛かってると思ってたんだけどそうじゃないんだろうか? なにかのトラップなんだろうか?
「この扉には転移装置が二種類あってな。今はどうなってるんだろうなユージン」
「くそっ、やっぱりか・・・ ワザとらしくそっちへ行くと思ったらそういう訳か」
どうやら父ちゃんが扉に何かを仕掛けていたらしい。なら安全なんじゃないの?
「一つは城の外へ脱出できる装置で、何かあった時に非常に役に立つものだ。だが、もう一つは危ないものでな。使えば確かに一時的に助かるだろうが、普通なら使おうとは思わない代物だ」
「それは一体・・・?」
助かるけど使おうと思わない? なんだろ、なぞなぞか?
「異世界に通じるのだよ。この世界に見切りを付けた時にでも使おうとしたんだろうな。ユージン陛下は、いざという時に異世界に旅立とうとしていたのだよ」
「くっ・・・そういうつもりで作ったんじゃねぇ!」
「いいや。この世界から逃げるつもりでも無ければこんな物作るわけが無い。言い訳は見苦しいぞユージン」
心底、あきれ果てた口調で父ちゃんを詰るファウンデルス卿。捕まってるから顔は見えないけどもきっと見下した目で見てるんだろう。
「どこの世界に飛ぶか分からないが、万が一でも元の世界に帰れる可能性に賭けたかっただけだ! 元居た世界に戻ろうとして何が悪い!」
「それが既に逃げだと言うのです。この世界で王となり責任が無いとでもお思いか! この装置の存在を知った時の私の思いが分かりますか!」
ファウンデルス卿はかなり怒っているようで、僕を捕まえる力が強まっていく。
「だが、もういい。とりあえずあなたのご子息を放り込めば私の溜飲も少しは下がるというものです」
「待て! 何が望みだ!」
「あなたが苦しみ、私がこの国の王になる事ですよ。ご子息が異世界に行けばそれが簡単に実現する」
王の印を持つ人間が居なくなれば、ファウンデルス卿を止める人間は居なくなる。そうなれば父ちゃんも他の皆もやられてしまい、ファウンデルス卿の思い通りになる。色々な思惑が交じり合い、じりじりと扉周辺に敵味方が集まり隙を見逃すまいと息をつめている。
そして、その静寂を破ったのはリュート。勇者リュートであった。
まさかリュートが動くと思っていなかったのか、ファウンデルス卿はあっさり吹き飛ばされ、僕の拘束を解いてしまう。そこをすかさずリュートが引っ張り、ファウンデルス卿から引き離してくれた。
「あなたが誰かは知りませんが、親子を引き離そうというのは感心できません!」
相も変わらず澄んだ声で、堂々と言い放つリュート。何時の間に気付いたのかは知らないけど、どうやら憑き物が落ちたように晴々とした顔をしていた。
「大丈夫ですか? とりあえず助けましたけど・・・良かったですよね?」
「うん、ありがとうリュート助かったよ」
「え、あ、僕の名前を知ってるんですね」
どこか、頼りなげな瞳を向けてくるリュート。「グッドラック」は一体何をしたんだろう?
ファウンデルス卿が、何か動いているようだけどそれは全て僕の前で霧散している。リュートの事も気になるけど、ファウンデルス卿をどうにかするのが先だ。あまり追い詰めると何をしでかすか分からない。先ほどの出来事は情けをかけていてはこっちがヤラレルというのが良くわかった。もう何もできないように「月詠」を思い切り叩きつけファウンデルス卿を気絶させ即座に拘束し、床に転がしておく。
「これにて一件落着・・・だよね? もうどんでん返しは無いよね、父ちゃん」
「よくやった光司。あとは、俺が宣言するだけで一応落着だ。みんなおつかれ!」
なんともあっさりな終わり方に、呆然としていた皆だったけど、父ちゃんの宣言でそこにいる皆が沸き立った。ようやく、一応の決着がついたのであった。
ちょっと色々消化不足のままで終わります。毎日暑くてパソコンも熱くて、汗だくになってます。クーラー? そんなものは家には無いのです!