勇者とは
喜々とした表情で向かってくるリュート。だけど僕は攻撃するわけにもいかず、避けて避けて避けまくる。時折、威嚇のために射撃するけども、どうも見抜かれているようで、全く動揺していないリュート。むしろ当てて見ろと言わんばかりに無防備な姿をさらしてくる。
そこでビームガンを「ノーミス」にこっそり持ち替えて、リュートに連射してみた。
「あぁ、何をしているのかな。僕には状態異常は効かないよ。あと軽い怪我なんかも時間が経てば回復していくし。僕を倒すなら、一撃で意識を刈り取るとか、全身消し炭にするとかしないと倒せないと思うよ?」
なにせ勇者だしね、とリュート。さすが勇者というだけあって規格外だ。だけど、ビームガンを撃つわけにはいかない。
「ほらほら、どうしたの? 傷がどんどん増えてくばっかりだよ? お仲間もまだ寝てるようだし、邪魔だから片付けようか? そっちの方が本気出してくれそうだしね」
「リュート待って!」
「待てないよ、ほらっ!」
ちらほらとようやく立ち直りかけて来てる皆に向かって、斬撃を飛ばすリュート。その延長線上にはミミやセリナも居る!
「アクセル! “我が身の魔力よ、我が身を巡り我に無敵の力を与えたまえ! オーディス!” おぉおおおおおおりゃあぁ!」
全速力で斬撃に追いつき折れた「月光」で、なんとか相殺する。
「エンド!」
アクセルを使いっぱなしだと、リュートが何を言ってるか分からなくなって危ないので即座に解除する。でもどうしよう。今のを見てリュートが、凄く怖い邪悪な笑みを浮かべている。
「今のは何かな? コージもやればできるじゃないか」
「もうほんと、勘弁してよ。どうすれば満足するんだよ」
「それは、動けなくなるまで叩きのめされたら。だねっ!」
さっきより凄い速さで踏み込んでくる。
「アクセル!」
ここまで速いと、僕の体を精密に動かさなければ捌ききる事は難しくなる。鍛えてる人間というのは、やっぱり尋常じゃない速さを持っているのだ。アクセルを掛けていても、ワンミスで攻撃を食らってしまうぐらいの速さでリュートは動いている。応戦しようにも、リュートの攻撃に隙がなく防戦一方になる。
だけど、やっぱり勇者は恐ろしい。右上から袈裟切りに来たので、回避する為に右へと身体を動かしたんだけど、それがリュートの狙いだったようで、袈裟切りが途中から横なぎに変化しあっという間に、僕は吹き飛ばされてしまった。
「エンド!」
アクセルをかけっぱなしでリュートと戦闘をしていると、集中力が物凄く必要になり頭がぐらぐらしてくる。正直すでにグロッキー状態だ。ふと白夜の方をみればファウンデルス卿と勇者のお付の女の子たちを一人で、こちらに来ないように捌ききっている。だけど、殺さずに倒すという事ができないようで、誰一人倒れている者は居なかった。でも、あの集団がこっちに来ないというだけで恩の字だけどね。
“・・・ぃて・・・さ・・・”
少し朦朧としてきた僕の耳になにか声が聞こえてきた。幻聴・・・?
“おね・・ま・・・き・・くだ・・・”
目の前のリュートが、つぎはどうやっていたぶろうかな、と物騒な事を呟いている。だけど、頭の中に声が響いてきて、そっちに意識をとられる。
“お願いします。わたしの話をきいてください”
意識をはっきり向けると、声がはっきりと聞こえてきた。なんだろう?
“やっと届きました。勇者を助ける為に手伝ってほしいのです。王の印を持つ人よ”
えっと、どちらかと言うと僕の方が助けてほしいんだけど、助けるっていうのは正気に戻すって意味でいいのかな?
“はい、そうです。いまの勇者は狂気にとらわれてしまっています。そのせいで私を使う事ができなかったのです。本当の持ち主はあの人なのに”
なるほど。「グッドラック」の声なのね。と、腕のブレスレットを見ると淡く輝いていた。
“今から剣を出します。名前は「グッドラック」私の本体と言える武器です。それで勇者を斬ってください”
ごめん、人殺しをしたくないからそれはできないよ。
“いえ、わたしが切るのは勇者の狂気のみです。あんな姿になった勇者を正気に戻したいのです。あの悪の権化と言われても仕方ない姿に我慢できないのです”
リュートは傷つかないんだね? それは本当?
“はい、勇者の狂気だけを斬ります。やって貰えますか?”
分かった。できるだけ頑張るよ。じゃあ、始めよう。
どうやら呆けていた時間はほんの一瞬だったようで、目の前にはまだリュートがにやにやとしていた。
パシュッ!
腕に収まっていたブレスレットは、光を放ち一本の剣に変わった。その剣は装飾などはなく無骨なデザインながらも静謐な雰囲気が当たりに漂い、ただ事ではないオーラを放っている。
「うっ!? 何をしてるコージ! まぶしい・・・」
「グッドラック」が僕の手に収まり、光は収まっているのだがリュートにはまだ眩しく見えているようで、こちらをまともに見る事ができないようだった。
「リュート、君はその力のせいでおかしくなっているんだ。本当の君はもっと優しい人のはずだ」
「おためごかしを! コージに何がわかるって言うんだ!」
僕の言葉を聞いて、激昂するリュート。だけど、あてずっぽうで言ってるわけじゃないんだ。
「リュートは、コージもそう言うのかと言ったよね」
「あぁ、それがどうした!」
余裕がなくなってるのか、口調が荒々しいものになっているリュート。
「そして、勇者だからってなんでもできるわけじゃない。とも言った」
「そうさ! 勇者と言っても僕だって人間なんだ、神様なんかじゃないっ!」
「だけど、リュートは人に頼られてがんばって叶えようとしたはずだ。だけど、一度叶えるとどんどんと人の願いはエスカレートしていく」
「・・・人は身勝手さ。自分さえ良ければそれで良いやつばかりだっ!」
何かを思い出したように、涙交じりで叫ぶリュート。
「そんな目にあっても、勇者ってだけでリュートは頑張った。だけど、だれもかれもがリュートに頼るようになって、誰もリュートの事を考えなくなった。それで君は優しさを失ったはず」
「・・・」
こちらをまぶしそうに見ながら、僕の言葉に返事をしないリュート。
「もう勇者を止めても良いんじゃないかな? 君だって幸せになってもいいはずだよ」
「・・・うるさい。黙ってれば綺麗事ばかり! ふざけるんじゃない!」
「綺麗ごとと言われようと、僕は教えて貰った事を言ってるだけだ。大人しくしろリュート」
そう「グッドラック」からリュートの事を教えて貰っていたのだ。聞けば聞くほど、彼は人に良いように利用されてきたのが理解できた。
「いまさら勇者をやめられるものかぁああ!!!」
こちらがまぶしいようで、片手で目を隠しながら突っ込んでくるリュート。
「その狂気と一緒に勇者を消して貰えリュート!」
そう叫んで僕は「グッドラック」をリュートに突き刺した。
よくよく考えたら、投稿をはじめて約一ヶ月が過ぎました。
意外と毎日続くものですねぇ。自分に驚きです。