勇者の理
部屋に飛び込んだ僕が見たのは、床に倒れている皆と、相変わらず笑顔のリュート。それと、なんだか目が正気を失ってるようにしか見えない、怖い雰囲気を持つおじさん。
「“満ちるマナよ、彼の人達を癒せ! リフォーガ!”」
危ないおじさんから目を離さずに魔法を唱える。たぶん、あのおじさんがファウンデルス卿なんだろう。そして、リュートはその手下。いや勇者が手下っていうのも表現的になんかしっくり来ないけど立ち位置的にそうとしか考えられない。
「いらぬ事はせぬことだ、少年」
ファウンデルス卿がそういって、手を振る。なんだ?
パシュッ!
「あつっ」
なんだ?! 一瞬胸が熱くなったかと思うと、目の前で何かが掻き消された気配があった。一体何が起きたんだ・・・?
「そうか、おまえが印を持つ者か。・・・ユージンの息子かっ! リュート、あいつを先に片付けろ!」
凄く怒った感じで僕を睨み付けるファウンデルス卿。初対面なのに何故?
「あ、動いて良いんですね良かった。あの子知り合いなんですけど、仕方ないですねぇ」
などと、ちっとも仕方ないとは思ってない様子で僕を見るリュート。なんだろう、今の彼からは非常に危ない何かを感じる。回復魔法をかけたけど、みんなはまだ少し苦しそうに倒れている。だけど、持続性がある魔法だから、しばらくすれば動けるようになるだろう。
「主よ。あれは貴族じゃが、やって良いのか?」
「ホ・・・白夜、死なせるのは駄目ってのは分かってる?」
「むぅ、難しいのぉ。じゃが、やっていいのは間違いないのじゃな。では、わしがお役立ちな所を見せるとしようかの」
そうやって、軽く笑ってからファウンデルス卿に向かい合う。
ガキン!
「ほらっ、余所見してると危ないよ、コージ!」
「ちょっと、ほんと止めてよ?!」
今、咄嗟に剣を受け止めなかったら、首が飛んだであろう攻撃をしてきた。躊躇なくそんな事をするなんて、何か操られてるの? リュートって。
「“炎よ! 我が手より出でよ! フレイム!”」
リュートがひょいと身をかがめると、その瞬間に勇者の仲間が僕に魔法を撃ってきた。
「おっと、一騎打ちを邪魔するなど、無粋な真似を。おぬし達もまとめてわしが面倒見るぞ」
白夜がなにかしたのか、フレイムの軌道があらぬ方向へと向かう。
「また新しい娘を連れてると思ったら、なんか凄い娘を捕まえたんだねコージ」
「だから、なんでっ、攻撃してくるのっ!?」
リュートは軽口を叩きながらも、激しい攻撃をしてくる。口元は笑っているんだけど目が笑っていない。本気で怖い。
「いい加減、本気だしなよ。じゃないと死ぬ事になるよ?」
「くっ」
生まれて初めて、まともに殺気を受けた僕は一瞬怯む。しかもリュートとは少しとはいえ顔見知りだ。そんな相手を躊躇無く殺そうとするなんて、まともじゃない。
「僕はね、勇者なんだ。魔王なんかもうこの世に居ないのにね。なのに、勇者としての化け物じみた力はいまだに僕に受け継がれてる。君だって、おかしな力を持ってるんだろう?さっさと本気だしなよ!」
いつまで経っても攻撃をしてこない僕に腹を立てたのか、リュートは怒りの形相で僕に向かって来た。だけど、それでも僕は剣を受けるので精一杯だ。リュートは異常な力で剣を叩き込んでくる。なんとか耐えてるけど、このままだといつか倒されるだろう。
「僕におかしな力なんて無い! それに勇者ってのは、その力で弱い人を助けるもんじゃないのか? こんな所で何をしてるんだよ!」
「コージもそう言うのか! 勇者だからってなんでもできるわけじゃないんだよ!!!」
ガキンッ!
「あぐっ!」
リュートが僕の「月光」の剣部分を斬り落とし、その勢いのまま僕の左腕を切り裂いた。モード雷のようだったけど、防御魔法のおかげで麻痺せずに済んだ。だけど痛い。焼けそうに痛くて、うずくまってしまいそうだ。
「どうしたの? このまま切り刻まれたい? ちょっと切れたぐらいで大げさだよコージは。そんなんじゃ、これからの僕の攻撃は耐えられないんじゃない?」
「うるさい! “満ちるマナよ、我を癒せ! リフォー!”」
回復魔法のおかげで、少し楽になる。だけど、僕が魔法を唱える瞬間も黙って僕を見ているリュートが不気味だ。
「回復魔法って便利だね。だけど、結局は僕に斬られるのにおかしな事をするねぇ」
「傷を治すのが何がおかしい?」
「だって、僕に斬られて死ぬのは分かってるのに、無駄に痛い時間が延びるだけじゃない?回復なんかしなかったら苦しむ時間が短くて済むじゃないか」
どういう理屈だ。リュートは自分が負けるとは微塵も思っていないらしい。確かに強すぎてどうやって大人しくさせようか、悩む。強化と加速の重ねがけで、一気に決められるだろうか・・・?
「その理屈はおかしいね」
「どうしてだい? 君もわかってるだろ? 僕には勝てないのが」
「確かに手加減されてる気はする。だけど、こういうのはどうかな?」
「グッドラック」からビームガンを出し、リュートの傍を威嚇射撃する。
バジュッ!
一瞬光ったかと思うと床を溶かした。ビームだけあって、攻撃速度も威力も申し分ない。いや威力は強すぎて僕は、人に向けて撃ちたくない。お願いだから、これで大人しくしてくれリュート!
「へぇ、おもしろい物を出したね、今。それが君の・・・コージの能力って訳か。なるほど、余裕があるわけだ・・・」
「もう止めろリュート、これが当たったらただじゃすまないぞ?」
「ふふふ。それは楽しいだろうなぁ・・・ 勇者なんだよ? 死にそうになっても、すぐに元気になっちゃうんだよ? くくく」
なんだか余計に、リュートのいけないスイッチを刺激したようだ。
「だから、もっと楽しもうか、コージ!」
目をらんらんと輝かせてリュートが向かって来た。
ずっと戦ってばかりで大変だす。はやくガチ戦闘は終わりたいです。
話数が伸びてきました。どこまで続くのでしょうか。自分で書いといてなんですが、もう少しうまく書きたいもんです。