幸運と不運と勇者と
はぁっはあっはっ・・・はぁっはぁっ・・・
自分の呼吸する音がやけに耳につく。目の前には青く輝く機体「777」が静かに佇む。エディさんは、気絶して動けない。僕だけ離脱すればエディさんは即座に撃破され、その後に僕も同じ道を辿るだろう。かといって、このまま戦うには分が悪すぎる。
・・・? おかしい。さっきの攻撃から「777」がまったく動いていない・・・?両手を自然に下げた形で、まっすぐ立ったままこちらを見ている。ナノマシンが効いてるなら確かに動けなくはなるけど、不自然だ。でも、このままにらめっこしていても始まらない。
スッ
「777」が黙って腕を水平に上げ、王宮とは反対の方向を指差すようにゆっくりとそちらへ腕をむける。まるで逃げるなら追わないとでも言うように。僕達では止める事などできはしまいと高をくくっているように。
「そこまで挑発されて、僕だって黙ってられない!」
こうなったら、反転弾を捕捉してからぶちかましてやる。至近距離で撃てばこちらも効果範囲に入るが問題ない。いや問題はあるが、こっちは反転弾の効果を知っているから向こうより早く立ち直る事ができるはずだ。
エディさんの機体から手を離し、VMAX発動。手を広げ目前の「777」へと迫る。悔しいかなすでにVMAXを見ている「777」は、優雅な動きですでに回避行動をとりつつある。だが、とりあえず手が届けばそれでいい!「777」が回避したせいで、真横を通り過ぎようとした瞬間に、地面を蹴り付け無理やり軌道変更する。狙い通り「777」に不恰好なラリアットをぶちかます格好になり、そのまま振りぬかずにしっかりホールドする。コックピット正面に迫る「777」の機体。モニター越しから見る場合と違い、目視で見るのは非常にどきどきする。正直、めちゃくちゃ怖い。
「だけど、今こそ勝機!」
至近距離で捕捉したまま、反転弾を放つ! 「777」と僕の機体は反転弾の効果をもろに浴びる。その途端、ロックしていた腕が急にはずれ気を付けの体勢になる。そして向こうは向こうで、えびぞりしている・・・ なんでえびぞり・・・?
だけど悩んでいる暇はない。直ぐにでも反転効果を調べ向こうより早く立ち直らなければ。
がちゃがちゃとコントローラーを操作し、どう反転しているかを調べる。このとき大きく動かしては駄目で、一つずつ丁寧に細かくちょんちょんと動かさないと、転倒してしまう危険がある。慌てると結局時間がかかるのだ。
「777」を見ると、やはり反転弾の効果に動揺しているようで、傍目で見ても無茶な機動を繰り返している。いまのうちに癖を掴みきろう。大丈夫! 僕ならあっちより早く把握できる。ゲーマーなめんな!
だけど、僕が操作を把握すると同時に向こうの動きも止まった。まさか、向こうも把握した・・・? いや違う! 動こうとしているけど、じょじょに動きが止まりつつある。ナノマシンがようやく効果を発揮してくれたんだ! これで「777」を抑え込める!
ピタリ
そんな擬音が聞こえてきそうなぐらい、完全に動きを止める「777」 その状態を見てほっとする僕。だけど、このせいで逆にピンチになるとは僕も思ってもいなかった。
ダンッ!
気をつけに近い形で止まっていた「777」だが、その体勢のままこちらへ向かってきた。完全に不意をつかれた形になった僕はもろに体当たりを食らい吹き飛ばされる。なんであの体勢からあんな機動ができる!?
倒れかける機体をなんとか踏みとどらせ、こうなった原因を考える。「777」はナノマシンが効いて動けなかったはずなのに、何故? などと考えている時間を「777」は与える気はないようで、不自然な姿のまま空を駆け回り、こちらへ攻撃をしかけてくる。まるで見えない誰かに操られている長槍のように、僕に襲い掛かってくる。
不自然な格好のまま動くということはナノマシンは効いているはずだ。だけど、空を駆け上がり僕に向かってくる。と言う事は、あの空を駆け上る特殊能力のおかげで、動き回れるって事? しかも反転弾の効果もナノマシンの効果で封じられてるから、特殊能力を発動するための操作を見つけるのが早くなったってこと? そんなのあり?
・・・まずい、まさかこんな事になるとは。反転弾の作用として、一定の時間が経過するとまた操作パターンが変更される。操作に慣れた頃にパターンを変えてさらに混乱に陥れる為だ。だけど、この状況は操作パターンが変われば向こうが操作変更パターンを見つけるのが絶対早い。レバガチャであっても機体を動かすことなく特殊能力の操作を見つける事ができるからだ。やばい、これさっきより余計に状況がやばくなってるって! くっそぉ、どうしようこれ!?
勇司は急いでいた。ファウンデルス卿の身柄を一刻も早く拘束し、王国の兵士達に自分の無事を知らせなければ、自分について来てくれた強襲部隊がいずれ討たれてしまう。離間工作を行っているとはいえ今はファウンデルス卿の偽情報のせいで、王国の兵士達はファウンデルス卿の言いなりなのだ。
どがんっ!
執務室のドアを蹴りあけ、中へ転がりながら突入する勇司。その勇司をサポートするようにミミが脇を固める。だが、中にいた人物はそんな騒々しい客人に驚いた様子もみせずに椅子に座っていた。
「ユージン陛下いけませんな。ドアはノックして開ける物で蹴破るものではありませんよ」
わざとらしく、ため息をつきながらファウンデルス卿は勇司をたしなめる。その態度をみるかぎりまさかこの男がクーデターの首謀者とは誰も思わないだろう。
「ぬかせ、とりあえず身柄を拘束させて貰うぞ。ラディアス。これで終わりだ」
そういって剣を突きつけようとした瞬間、ミミが勇司の前に飛び出し不意に現れた少年の剣を受け止めた。そして、力で対抗せずに相手の力を誘導し剣を使って少年を投げ飛ばす。
「あれっ、すごいね。こんな簡単に防がれるとは思わなかったよ」
くるっと何事も無かったかのように着地し、にこっと誰もが見惚れるような笑顔でそうつぶやく少年。勇者リュート。片手に「ギル」を持ち、油断無く構えている。そしてその脇には、勇者メンバーが静かに配置についている。
「勇者リュートよ。ユージン陛下は魔王の手下に操られている。助けられるなら助けて頂きたい。このままではこの国は滅ぶ」
「まだそんな戯言をほざくか、ラディアス! おまえ正気か?!」
「どうやら、深く操られているか魔物が寄生しているかもしれん。いざというときは、勇者リュートよ、わかっているな?」
と冷ややかな目をしてリュートにそう伝える。それに対し、分かってると言わんばかりに弾ける笑顔で答えるリュート。
「魔物は退治しないとね。勇者の名のもとにっ!」
「俺はあやつられてねぇ!」
ガキッ!
剣が交差し力比べになる。だが、勇司はあっさりと引き後方に思い切り飛びさる。それと入れ替わるようにミミがリュートに向かい、手数で圧倒する。さすがのリュートもミミの手数には辟易したのか間合いを取る。
「きみ、厄介だね。死んでよ」
だらりと「ギル」をぶら下げて、ミミへゆっくりと歩くリュート。
っ!
それは単純に勘だった。目には攻撃を仕掛けるサインは浮かんでいなかったが、悪寒を感じたミミは床にはりつくかのように、身体を沈ませる。
ダンッ!
ミミの髪の毛が数本はらりと落ち、気が付けばいつの間にかリュートが突きの格好をしていた。もし、ミミが即座に身を沈ませて居なければ、今頃剣の串刺しになっていただろう。しかも驚くべきことに、この攻撃はミミの目に何も映らなかったのだ。
「あれっ? これも避けちゃうの? ・・・やだなぁ、ほんと厄介だねきみ」
そう呟くリュートの顔は、感情を何も表していなかった。
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ですが、今日の夜の更新は遅くなりそうです。
まさかの光司くんのピンチ。おかしいなぁ、こんなピンチになるはずじゃ無かったのに、どうしてこうなった?