苦戦
「ようし、止まれ」
王宮の一角。執務室のフロアへと繋がる通路に勇司たち一行はたどり着いていた。ここに来るまで王宮を警護する兵達を気絶させ、その見張りの為の兵を少数残してきているので少々人数は減っている。
そして今執務室へ繋がる通路の罠を確認している所である。
「この先は特殊なコインを持つものしか、通る事ができない。無理に通ろうとすれば、この通路が無限回廊と化し出る事ができなくなる」
「ではどうされます? 魔法で通路の仕組みごと破壊するとかは無理でしょうか?」
「無理だろうな。だけど、心配するな。コインはここに一枚だけある」
「・・・一枚ですか・・・」
「そうだ。そこでだ・・・」
にやりと笑う勇司。今入る兵士はおよそ20人弱。だがコインは一枚。これでは、せっかくの数のアドバンテージがこのままでは失われてしまう。だが、勇司はコインを持ったまま通路を進んで行ってしまった。
「陛下! 一人では危険です! 戻ってきてください!」
「はっはぁ。大丈夫大丈夫。一人でいきゃしないよ」
と言いつつも、一人で通路を渡りきってしまう勇司。
「セリナちゃん! パス!」
通路の向こう側で勇司がそう声を掛け、セリナに向かってコインを投げた。アンダースローで投げたそれは、セリナの手元にすぽっと収まった。
「へ?」
さすがは設計に携わったという勇司は、セキュリティの穴を把握していたようだった。勇司が危険を侵してまで王宮に攻めに入ったのは、こういったセキュリティホールを熟知している為である。
「よーし、やっぱりだ。この要領で全員ここを通るぞ! とりあえず全員を待つ時間は無い! 最初に決めた人数がこっちに渡り次第、急いで行くぞ」
「はい、わかりました」
五分経過。あまり時間をかける余裕はなさそうだった。
青く輝く機体は、獣型の機体と細身の機体を相手取り互角どころか、むしろ押していた。一度攻撃を喰らった「777」は、油断していた自分を戒めるように、特殊能力を生かした機動で、光司とエディを翻弄していた。しかも光司達が動きに慣れてきた頃にさらに加速を加えていき、「777」の速度はどんどん追いつけない領域へと突き進みつつあった。
「エディさん、もう少し粘ってください。あと少しできっと効果がでるはずです!」
「わかっちゃいるが、これきっついぞ? 援軍は期待できんか?」
「む・・・りですね! 抵抗が本格的になる頃のはずです。どこも手一杯ですよ!」
二機がかりで「777」に攻撃を仕掛けるが、パターンを読まれ直ぐに対応されてしまう。エディが空中戦がわずかながら苦手と知るや、一度も地上へ降りる事はなく、光司の武器のほとんどが遠距離武器で占めているのを見て、光司への機体へは接近戦を常に仕掛けてくる。そんな光司をサポートしようと、近寄ってきたエディの機体を光司にぶつけてしまうぐらい「777」には余裕があった。
「ははは! ちくしょう楽しいねぇ! 陛下が乗ってないってのに、やっぱりでたらめな強さだよ「777」は!」
一度、勇司が乗った「777」と手合わせをした事があるのだろう。エディはそう叫ぶ。もともと目指していたものはそこだったのだろう。だからこそエディは、今回「777」とぶち当たる可能性が高いこの門の担当を志願したのである。
だが、エディが実感したのは「777」と勇司の腕の凄さだ。
「もっともっと凄かったぜ!!! 本気だせよ「777」!!!」
そう叫ぶや否や、飛行ユニットをつけているにも拘わらず、前転をすごい回転で行い「777」に向かって突撃する。そんな突撃など無意味とでも言わんばかりに「777」は、エディに向かって右手でパンチを放つ。
だが、パンチに当たる寸前に軌道を下方へと修正するエディ。うまく不意をつけたらしく足元に突撃される「777」 そしてそこからエディの連撃が始まった。
「うぉおおおおおお!」
「777」が強力な磁力を発してるかのごとく、エディの機体はぶち当たってはその勢いで遠ざかり、また引き寄せられるようにぶち当たる。さすがにこの攻撃に対しては光司もサポートをすることができない。軌道が読めそうでまったく読めないからだ。
「これで大人しくなるか・・・?」
と期待したのも束の間。エディの機体が動きを止めた。いや、「777」の右腕に首根っこをしっかりと掴まれていた。そして、目にも止まらない速さで地面に叩きつけられた。
「がはっ!?」
「エディさん!」
叩きつけられたエディを助けるべく、無茶は承知で突っ込む光司。だがそれはやはり無茶であり、「777」は光司に向かって冷静に手刀を叩き付けた。
ガキュッ!
「うわっ!? しまった!」
エディを助ける為に冷静さを欠いた光司はもろに手刀を食らってしまった。しかも、コックピットブロックへの直撃となり、コックピット前面の装甲が吹き飛び、さらにコックピット内部の正面部分も吹き飛んでしまう。
ガンガランガラン・・・
ハッチが転がる音が響く中、体勢を崩しながらエディを拾い上げ間合いを取る光司。ハッチが吹き飛び、正直かなり怖い。
「っく・・・まさか、ここまで何も影響でないとかおかしいよルーツは・・・」
光司は正面に見える「777」を見やりつつ、軽口を叩いているつもりでいるが、声が震え体が震えているので、恐怖を無理やり抑え付けているのを隠しようが無かった。エディは、脱出ポッドを使う間もなく叩き付けられており、どんな状態か分からない。さらに援軍を求めようにも、すでにどこも乱戦状態であり「777」を食い止めるのは光司しかできない。
“せめて、ナノマシンの効果が出てくれれば・・・”
先程から散布しているナノマシン。間接部分に入り込み動きを鈍らせ、攻撃を回避させづらくさせる為の布石だったが、まだ生きてこない。計算ではそろそろ効いてきてもおかしくないのである。
「やぶれかぶれや、一か八かは絶対駄目だしね」
勇司と約束した。自分の命を賭け金にして戦う事はしないと。
「考えろ、考えるんだ・・・」
必死の形相で思考する光司。しかし、光司は気付いていなかった。「777」の動きが止まっている事を・・・
光司くんの読みがまだ甘かったようです。ピンチ!
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更新遅くてすみませんでした!