反撃開始
王が不在になったグレイトエースは、不穏な静けさに満ちていた。数日前までハイローディスの軍隊が町の中を我が物顔でうろつきまわっていたが、ハイローディス軍が進軍していった今は、駐留軍が町の至る所で見かけられるようになった。
「だけど、王様が魔王に操られてるって本当かねぇ?」
「それは良く分からないけど、今王様が不在なのは確かだからなぁ。ウワサが嘘でも本当でも、最近いやな雰囲気が漂っているからなぁ」
町の中では、王が魔王に操られているというウワサとそれを討伐する為の勇者の話で持ちきりであった。少し前から勇者が首都に来て、町の治安を守るために色々と厄介な事を片付けてくれていたので、町の人の勇者に対する態度は非常に友好的になっていた。
「勇者達は魔王を倒すために来てくれたのに、町の中で起きてる事もほっとけないとか言って、助けてくれるなんてほんと良い連中だよなぁ」
「そうだねぇ。お隣さんもこないだ助けて貰ったらしいよ。町に来たばっかりだって言うのに、忙しく動いてくれてるみたいだねぇ。倒れちまわないか心配だよ」
勇者達一行は、グレイトエースに来て日が浅いにも拘わらず、朝から晩まで精力的に働いているらしく町の中でその姿を知らないものは居ないようだ。
そして、ハイローディスの軍勢がグレイトエースを出て三日目の夜。勇者達一行が明日王様を救出する為にグレイトエースを出発するという事で、町の人々が勇者のために宴会を開いていた。
「はいリュートどうぞ。これ好物だったよね」
「あ、ありがとうティナ」
「あ、こっちも食べて下さいリュート」
「これもできたてでおいしそうですよ、リュート」
「レイシスもアルミナもありがとう。ちゃんと頂くね」
リュートの言葉に顔を赤らめるレイシスとアルミナと呼ばれた少女たち。リュートの世話を甲斐甲斐しく嬉しそうにしている。そして、そんな少女達の様子をティナと呼ばれた少女はそれを満足げに眺めていた。
“ふふっ、頑張った甲斐あってリュートの人気はうなぎのぼりね。この二人もリュートに心酔しているしね。この間もらった武器のおかげでリュートもおかしなぐらい強くなったから、きっと大丈夫でしょう”
請け負った任務の達成のためには、どうしても強くなる必要があり古代遺跡に潜り、鍛えていたのだが、リュートがたまたま貰った武器のおかげでデタラメなぐらい強くなり予定よりだいぶ早くこちらに戻ってきたのだった。
“そういえば、あの時の男の子。あの武器をどこで手に入れたのかしら? ひょっとしたら他にも何か良い物を持ってたかもしれないわね・・・”
ロバスの町で再会した時は、丁度入りたかったお店で並んでたので変わってもらっただけで、しっかりと話をする事もなかったのが悔やまれる。
「ま、今のリュートなら平気でしょうけどね・・・」
「ん? 呼んだ?」
「んーん。なんでもないよ、リュート。楽しんでる?」
「うん、おいしい物がたくさんあって、嬉しいよ」
とにっこりとするリュート。この表情に皆だまされるんだなぁとぼんやりと頭の隅で考える。リュートの性格をよく知っているだけあって、つい笑みがこぼれてしまう。中身とは全く違う善人を装っているのは、ほとほと感心してしまう。
「良かったわね、リュート。ちょっと外の空気に当たってくる」
そして、自分の演技にも吹き出しそうになる衝動を堪えながら演じきるのであった。少し疲れてきたので、外の空気に当たって涼むために宴会場を突っ切って、庭に一人で出ていった。盛り上がってきた宴会場は、人いきれで暑くなってきたので外の少し肌寒いぐらいの気温が心地よく感じられる。丁度おいてあったベンチに腰掛けてくつろいでいる時にそれはきた。
ゴォオォオオオオオオオオオオオオオオオオォォオオォッォォォォッ・・・・・・
「な、なに!? 魔石獣?!」
轟音を響かせ、次々と何かが空を凄い速さで通り過ぎていった。空を飛ぶような魔石獣はこの辺りには居ないはずだが、こんな変な音を出す物は魔石獣ぐらいしか知らない。
「リュートッ!」
何か異変が起きている事だけは分かったので、急いでリュートを呼びに宴会場へ飛び込んだ。
大規模転送が終了し、一気にグレイトエースへと向かう。夜間であれば発見が遅れるし万が一にも飛行タイプの魔石獣が出る事もない。この周辺には飛行タイプの魔石獣が出ないという事だが、念には念をいれて行動することにした。
「ユージ陛下、このまま作戦通りお願いします。僕は王宮周辺を制圧してきます」
「了解、光司君。エース級がいるから無茶はする必要はないぞ。しっかりやれ」
「了解! では御武運を!」
僕の言葉に翼を振って応える父ちゃん。父ちゃんのフレームも王宮に着くまでは飛行ユニットを付けているけど、王宮に着けばパージして動くと言っていた。僕は他のロバスのエース達と一緒に、王宮周辺を制圧する。
「光司。おまえはエディと一緒に南側を頼む。俺は東の正門側を制圧する」
「了解です、アラン隊長。行って来ます」
正門側にはフレーム格納庫がある為、隊長を任されているアラン隊長が数機を引き連れて正門方面に向かっていった。強襲して格納庫を即座に制圧する為だ。僕はエディさんと一緒に南門に向かう。南側がたった2機しか向かわないのは、僕の機体は武装が対集団専用に、ミサイルを多数積載しているのと、エディさんがロバスで1,2位を争う程の腕前を持つので南門は2機で充分対応できるためだ。
エディさんの機体は四足歩行の獣タイプで、空を飛んでるにも拘わらず何故か四肢を走らせるように動かしている。いわく。
「こっちのほうが、なんとなくそれっぽくない?」
だそうだ。なんだか勝負に於いて勝ち負けだけではなく、美しい戦いを求めてるちょっとこだわりを持つライダーなのだ。
王宮の南側へ回るとガイアフレームが4機、こちらを警戒している。やっぱり腐っても王宮だ。どんな時でもフレームが常駐しているのだ。だけど、4機じゃ少ない。4機をまとめてロックオンし、黙って先制攻撃をする。向こうはまだマジックアローの射程圏外である。
ドドドドドドド!
肩と脚部のミサイルポッドから十数発のミサイルが一斉に、4機のフレームへ襲い掛かる。もちろん弾頭は反転弾だから安心だ。エディさんは、僕の攻撃が当たる事を前提で急降下し低空から突撃している。
反転弾を食らった4機のフレームは、一斉に挙動不審になりまともに動く事ができない。その隙だらけのフレームをエディさんは、フレームの口に咥えた剣でフレームの四肢を切断し、4機のフレームを一瞬で無効化してくれた。
「コージちゃん、やるならやるってせめて一言言ってくれてもいいんじゃない?」
「エディさんなら、僕がミサイル撃った瞬間に動くって分かってましたから」
「おーおー、随分信頼されてるねぇ。ま、その通りだけどね」
とりあえず今のところ順調に事が運んでいる。このまま何事もなく進む事を祈ろう。
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作者名とユーザー名を統一していないとこんな罠があったとは。すみません