これってアリですか?
「やっぱり、これ漢字だ・・・」
「ん? かんじ・・・? なんじゃそれは」
「ん、気にしないで」
とはいえ気になるだろうけど、しばらく説明しないで置こう。エンジンを再始動させてビデオで魔石シートが光る瞬間を繰り返し見たんだけど、どう見ても「攻」の文字に光っているのだ。そして、攻撃力が上がるというこの魔石シート。これは確実に魔石シートに並べる石を漢字の形に光らせる事によって、その特性を機体に持たす事ができるシステムになっているとしか思えない。
となると、僕にとってこれは改造し放題って事なんじゃない・・・?
しかも、付加される特性は魔力が別途発生してくれる便利仕様だからエンジン出力が削られるってわけじゃないし。発生する魔力に合わせて機体の強化をする必要はあるだろうけど、そういった事は出力アップにはどうせ付き物だし。あと問題があるとすれば、付加する漢字の書き順を正しくしないと駄目かもしれないって事だ。あんまり画数が多い文字だと、正しい書き順をしっかり覚えてるか不安だ。
「とりあえず、エンジンは安定してますよね? 成功って事で良いのかな?」
「お、おうそうじゃな。これだけの誤差しか出ないのであれば安定して使用できるのは間違いないな。で、どうする?」
「ん? どうするって?」
「この技術じゃよ。他人に教えずに自分だけで利用するなら、かなり儲かるんじゃないのか?」
真剣な表情でハーベイさんが僕に尋ねてくる。なるほど、言われて見れば儲かるかもしれないよね、これって。まぁすぐにばれるからちょっとの間だけだろうけどね。
「あー、とりあえず今は人に教えない方向で。戦争が終わるまでは僕達だけで独占しておかないと相手に渡るとめんどくさい事になりそうですしね」
「まぁ、今は儲かるとか儲からないとか言っとる場合じゃないわな」
戦争が始まるから、儲けようとする人はいるんだろうけどね。僕達はそんな事してたら負けちゃうし。
「とにかく今は戦争を乗り切るための手を全て試して、後悔しないようにしたいんだよね。えっと言ってなかったけど僕も王様派だからね」
「言わなくてもわかっとるわぃ。じゃが、コージはなんぞコネでもあるんかの? 普通こういう物を持っていっても門前払いされるのがオチじゃろうに」
あー、そうだよね。普通、エンジンの強化できました! じゃあ使うわ! って感じには行かないよね。むしろ、何いっとるんだこいつって思われて、さらには罠を仕掛ける為にやってきた敵のスパイとか疑われそうだもんね。
「大丈夫だよ、安心して。非常に強力なコネがあるし、一応僕の腕前も信頼して貰ってるからね。きっと使ってもらえるよ。なんならハーベイさんも紹介しておこうか?」
「わしの事はええから、ちゃんと使ってもらえるならそれでええわい」
ハーベイさんは本当に父ちゃんというか王様が好きで、とにかく役に立ちたいって想いだけで動いてくれているようだ。王宮と繋がりを持とうとか、ちっとも考えてないし。こういう人が味方で本当に良かったと思う。あの勇者様一行と比べたらほんと天と地ほどの差があるよ。うん。
とりあえず、今はエンジンの出力アップの目処が立って機体を強力に仕上げる事ができるのは間違いないので漢字を使った特性付加は良く考えて利用しよう。
「じゃあ、またなんかアイデアが出たら来るよ! ハーベイさんありがとう!」
「おぉ、飛行ユニットとエンジンはちゃんと王様に使って貰ってくれよー」
任せて頂戴。せっかく改良してくれたんだから、有効活用させて貰いますよ。だって俺以外が飛行ユニット使うと10分ぐらいしか持たないって言ってたし。それでも大丈夫だけど、飛行時間は長いほどいいもんね。うん。
そういえば、ヒューイックには貴族の屋敷があったよね。とりあえず、先手必勝でフレームを壊しに行こうかな。ついでだし。あ、エレメンタルフレアの飛行ユニットを改良してから行こう。前のとき結構しんどかったもんね。
二度目の貴族の屋敷の襲撃は失敗に終わった。いや不発に終わったと言うべきかな。いったら誰も居ないんだもん。10機はあったフレームもすでに移動してあり、僕が壊した屋敷も綺麗に修復されていた。だけど、誰も居ないという状況。今回の戦争に積極的に参加してるって事なんだろう。でもあの憎たらしい貴族が敵にいると思うと少しウキウキしてしまう。だって、けちょんけちょんにしても誰にも怒られないし、むしろ褒められそうだし。たぶん、あの貴族はどこに行っても目立つだろうからすぐにそういう機会を得られると思う。くっくっくっく。嫌がらせの為の小道具をいろいろと作っておかないとね。色々と・・・
「貴族を滅ぼす・・・」
王様が開いた会議の中に居たセリナは勇司の台詞を聞いて、呆然としていた。小さな頃から貴族というのは、村に暮らしていたセリナにとってある意味王様より畏怖すべき存在であり、不可侵のものであると叩き込まれていたからであった。現にヒューイックでの騒動の時も、簡単に逃げおおせるにも係わらず貴族には逆らう事ができなかった。それにセリナは今でも貴族に向けて魔法を放つ事はできないのだ。
「滅びるのは嬉しいんですけど、コージのお役に立てそうにありませんよね、このままだと」
自分は魔法を放つ人形だと、自分に言い聞かせて攻撃しようとした事もあったのだけど、やっぱり貴族を目前にすると詠唱などできなかった。詠唱どころか必要な術式が頭の中に全く浮かぶ事すら無かったのだ。この事についてコージに相談したいのだが、それには貴族に魔法を撃てない原因を言う必要がある。
「でもコージは優しいから言わなくても、相談に乗ってくれるかな」
最初は貴族みたいな格好をしていたので、内心びくびくしていたのだけれど、何故か彼とは少し話をしただけで、そんな内心の動揺も全く無くなって平常心を取り戻せていた。むしろ、不思議と信頼できる人間と認めてしまっていたのだ。
鉄面皮。クリムゾンや絶対零度などの二つ名がついたりもしました。
眉一つ動かさずに、魔物の子供や卵を殲滅して行くわたしの姿は冷静そのもの。不意打ちされても、まったく慌てずに返り討ちにする。だけど、使う魔法は激情の炎の魔法。物静かに、誰も真似のできない程の高温の炎を操る私は、クリムゾンと呼ばれ、殺戮の象徴として扱われた事もあった。
「人になんと呼ばれても、どうでも良かったんですけどね」
コージのわけ隔てないあの優しさが凄く嬉しかった。でも、わたしの過去を知って同情はされたくはない。いやそんな事をさせたくない。やさしい彼は、知ってしまったら動き出さずにはいられないだろうから。復讐の手助けを必ずしてくれるだろう。きっと彼の手が血で汚れる事になったとしても。
貴族も居ない、平民だけの平等な平和な世界から来たというコージ。
そんな戦いを知らない彼にはずっと優しいままで居て欲しいと願う。だからこそわたしは強くならねばならない。貴族など問題にもならない程に。
セリナちゃん特訓がんばれ。え、しないの? するよね???