それぞれの思惑
「しかし、この王宮はたいした物ですなぁファウンデルス卿」
光沢を放つ重厚な鎧を軽々と着込んだ赤毛をざっくばらんに伸ばした隻眼の男は、ほとほと感心したように大声で感想を述べた。
ここはグレイトエースの王宮の一角、ファウンデルス卿はハイローディスの将軍と会見をする為に、王宮の応接間へ招待していた。あまり事をおおっぴらにしたくないせいか、非常に緊張した雰囲気がある。
「前王が色々計画して作ったものでしてな。そういった事に関しては知恵が回るようで、おかげで重宝しておりますよ」
「おやおや。すでに前王呼ばわりですか。もう勝ったつもりでいらっしゃる?」
ファウンデルス卿の発言に、いささか軽薄さを感じたようで隻眼の男は剣呑な瞳をむけ、ファウンデルス卿を威嚇した。
「ふふ。そんな目で見ないで頂きたいですな。あなた方ハイローディスの軍勢とこのグレイトエースに居る軍勢。さらには各都市の貴族から続々と援軍が来る予定なのですよ。どこに負ける要素があると言うのです、あなたは?」
「戦ってのは蓋を開けるまでは分からないものですのでね、相手の首を落とすまでは油断しないのが私どもの流儀でしてね。数だけで勝てる戦争というのはフレームが出てくる前の古い話です」
そうガイアフレームという異質な兵器が、発掘され更には独自で開発されるようになってからは、数というものが戦局を支配するものでは無くなってきつつあるのだ。勿論、戦争をするのに数は必要ではある。だが、戦局をひっくり返すのにたった一機のフレームがあれば充分可能な場合もあるのだ。ただ、戦術的勝利を収めただけでは戦略的優位に立てるとは限らないので、一概には言えないのだが。
「それでも、戦争は数が必要ですよ、タイガー将軍。あなたのような歴戦の将軍が来てくださったのは望外の喜びでしてね。浮かれるのも無理は無いでしょう」
「だが敵が敵だけに油断はしたくないという事は覚えておいて頂きたい」
「了解しましたよタイガー将軍。で、ロバスに向けて進発されるのは何時頃にされるおつもりでしょうか」
言外にさっさと出て行けと言わんばかりの横柄さが滲み出ている。貴族というものの尊大さがこういった所でも、遺憾なく発揮されていた。
「部隊の編成と偵察が終わり次第、といった所ですかな。まぁ準備が出来次第連絡を入れさせて貰いますよ」
「なるほど、念には念をいれるというわけですな。分かりました。必要な物があればこちらにおっしゃって頂ければ、用意させて頂きますし、人員を派遣して準備も手伝わせて頂きますよ」
「いや、それには及びません。部隊の中には躾のなってない物もいますのでね。ただ物資の補給だけ頂ければそれで充分です」
「わかりました。では御武運を」
「御武運を」
音が出そうな程、見事な敬礼をして退出するタイガー将軍。
お互い協力しあうような口振りではあるが、内心は相手の情報をどうやって引き出そうかと腹の探りあいばかりしているだけで、外面はともかく内面はお互いが全く信用できていないのであった。
「で、どうだ。この町の様子は。攻め落とすのにどれぐらいの兵力でいけそうだ?」
自軍の陣地に帰るなりタイガー将軍は、周囲の参謀にそう尋ねた。
「正直、真正面から攻めるとなると、フレーム中心で攻めても五百機ほどはかかりそうですね。やるとすれば潜入して内部から城門を開けて突入するという形が理想ですが、それにしても、ここに駐留している軍勢の5倍は必要になるでしょうねぇ」
その質問に対し、待ってましたと言わんばかりに即座に答える一人の参謀。身長は高くも低くもなく、至ってどこにでもいる風貌を持つ男である。
「そこまで固いのかここは。どこの門からでも王宮まで一直線で食べ放題にしか見えんがなぁ」
「むしろそれが厄介なんですよ。一直線とはいえ通りやすいルートは限られてますし、向こうさんとしては援軍を送りやすいんですよね」
「そういうもんかね。だが、落とせない物じゃないんだろ?」
「そうですね。まぁ私たちであれば問題ない程度でしょう。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「王の印を持つと言われるユージ王。彼の噂は話半分でも化け物以外の何者でもないですから、彼が居るとどうなるか分かりませんけどね」
観念した様子で肩を竦める参謀。お手上げとしか表現できないようだ。
「おまえにそうまで言わせる男か、ユージ王は。今はロバスに立て篭もってるらしいが、そこはどうなんだ?」
「まぁここよりは、いささか楽でしょうが魔石獣の横槍が厄介な場所ですからねぇあそこは」
「魔石獣か。まぁ戦争の最中に乱入なんぞされた日にゃ、確かに厄介ではあるな」
「ま、炙り出してどうとでも料理するとしましょう。引きずり出せば将軍がなんとかしてくれるでしょう?」
「まぁ、そうだな。じゃあ準備は任せたぞ」
「は、かしこまりました」
ロバスへの侵攻はすぐにでも始められそうであった。
ロバスに対して、ハイローディスの軍勢が進行を開始するという情報が入り、先手を打たれた形になった僕達。だけど、それは父ちゃんにとっても僕にとってもむしろ願ったり叶ったりの状況であるのだ。
「ふふふ、狙い通りだね父さん。あれだけの軍勢がどれだけ急いでも10日はかかるのにね。遅い遅い。グレイトエースに取って返すのに3日は掛かる所まで順調に進んで貰おうね」
「まったく、おまえは意外とこういうのが得意ってのにびっくりしたぞ父ちゃんは」
「ゲーム感覚で計算してるからね。だから、現実に合わないような案を出したときに父ちゃんに監督して貰いたいんだよねぇ。今のところは大丈夫なんだよね?」
「そうだな、別におかしな所は無いし、むしろかなりいい策だろうな」
光司の作戦案を聞いた勇司は、最初はおどろき、そして光司の能力のでたらめさを改めて感じ、つくづく味方でよかったと思ったのだった。
「じゃあ僕の作戦能力も馬鹿にしたもんじゃないんだね。うひひ」
光司の案は至って簡単である。
グレイトエースの王宮内へは転移魔法などを使って侵入することはできない。だが、周辺の土地へ転移する事は問題なくできる。なので光司は、ハイローディス軍をグレイトエースから引き離し、手薄になった所を30機の飛行ユニットを装着したフレームでグレイトエースを一気に攻め落とす電撃作戦を採用したのだ。
そうグレイトエースは空からのフレームの襲撃に対しては特に有効な対策が施されていないのである。魔術師が飛んでくるのであればゼロ空間や、警報結界が反応し即座に警備体制が強化されるのであるが、フレームにはそんなものは無意味である。そもそも陸戦兵器であるフレームが飛ぶということが想定外なのである。
ある意味、光司の詐欺的な能力ではじめて可能となる作戦であった。
そろそろ激突・・・するのかな?