反撃の狼煙
「しかし、コージ君がユージ陛下と知り合いとは驚きだな」
「知り合いと言うか親子なんですけどもね、ほんとは」
「ん? 何か言ったかセリナ」
「いいえ、別に。でトレイルは何か掴めたんです?」
今回のクーデターの件で魔法教会から呼び出しがかかり、赴いた先でトレイルに見つかってあれこれ聞かれているセリナ。まぁ、具体的に何をするかは王様というかコージのお父さんから直々に聞いているので、本当は出てこなくても良かったのだが、それはそれで教会に出入りしていないセリナが、今回の情報をどこから仕入れたかが問題になりそうだったので、渋々ではあるが出てきたのである。
「そうだね。コージ君は積極的に攻撃を仕掛けるタイプではない、というぐらいかね。彼は非常に優秀なスペルを持っているにかかわらず、それだけで戦う訳ではない。むしろ、君に戦い方が似てるんじゃないか?」
「いえ違いますね。確かに私はのっけから攻撃魔法を放つタイプではありませんが彼のように、相手の技を見てから反撃しようとは思いませんね。相手に何をされるか分かったもんじゃありませんし、正直臆病ですからね、わたしは」
そう語るセリナの顔は冷静であまり表情を出していない。だが感情が無いというわけではなく、魔法で戦う時の状況を想定して話している為に表情が無いだけのようである。
「あと、彼は他人を傷つけるのを非常に嫌がります。どれだけ怒っていようとです。わたしなんかには真似のできない事ですね、あれは」
と、うっとりと何かを思い出しながら呟くセリナ。
「まぁ、雷系の魔法をあんな麻痺程度でしか使わないっていう時点で、よく分かるな。あんな細かい調整をする方が逆に難しいだろうに、ほんと良くやるよ彼は」
そんなセリナを珍しい物をみる目でみやりつつ、コージの魔法の技術を思い出し感心しているトレイル。無論ポーズは美しい。
「コージはあなたと違ってとーっても優しいんです。彼の繊細な魔力操作を見ても分かりますよ。術式が非常に綺麗で優しげな光を放っていますから」
「・・・? そこまで見える物なのか? 彼の術式は」
一瞬何を言われているか分からず、不思議そうな表情をしたがセリナの言葉の意味を理解して驚くトレイル。トレイルほどの術者でも得意な魔法の術式がぼんやりと光る程度なのだ。
「道具ですと、そこまではっきりは見えませんけど一度見れば分かるようになりますよ。私たちと同じ魔法を唱える場合なんですけどね」
「あぁ彼の魔法は特異すぎるからねぇ。あれって闇か光属性になるのか?」
「そこまでは、わたしにも分かりませんね。ただ、非常に使い勝手の良い魔法としか」
事情を知ってるセリナはそこは曖昧にぼかした。
「そうだな、あれは集団戦で非常に役に立つ。彼に教えて貰う事はできんのか?」
「難しいですね。ああ、教えて貰う事がではなくわたし達が理解するのが、です」
「術式はあるんだろ? なら真似すればいい」
「無いんですよ、あれは。術式など全くなく、魔力を練り上げたかと思うと急に発動してしまうんですよ、コージの魔法は」
ミミが教えられてすぐに使えた事を思い出したのか、悔しそうに呟くセリナ。
「は? どういう原理で発動してるんだ???」
「これはそういうものだと分かって欲しいとは言ってました。だけど、どうやっても理解できないのでわたしには無理でしたね」
「厄介な・・・だが、彼が既存の魔法の改良に手を貸してくれれば非常に助かりそうではあるな」
「あぁ、そういえばトレイルの魔法を改良してましたね。大人と子供ほどの差がありましたよ。勿論トレイルが赤ちゃんです」
可愛げのまったくない赤ちゃんですけどね、と憎まれ口を叩くのを忘れないセリナ。
「な!? 一体どの魔法を改良したと言うんだ! しかも赤ちゃんとか・・・」
「“オーディス”ですよ。トレイルが2年がかりで完成させたあれです」
「よりによって“オーディス”と来たか・・・」
「ええ、あの状態のコージなら5秒もあれば私たちを無力化できるでしょうね」
「あいつは化け物か!?」
「あまり凄いとは思ってないみたいですよ、彼は。無邪気にわたしの事を褒めてたぐらいですし。彼がしている事の方がよっぽど凄いのに」
「まじめに教会に欲しいな彼は」
「それは無理だと思いますよ。事情は言えませんけど」
一国の王子が魔法教会でこき使われるというのは、あまり想像できないセリナ。
「ふむ、残念だな。まぁ、暇を見て色々考えて貰うようにするのは、悪くないだろうから、そっちから攻めるとしようか」
「攻めるとかイヤラシイ」
「・・・コージと付き合いだしてから、色々と変わったな君も」
「もうコージと付き合うとか、良い事言いますねトレイルにしては」
きゃっと頬を染めながら、嬉しそうに言うセリナ。トレイルにとってこんな姿をするセリナは今まで全く想像できない姿であった。それが良いか悪いかは別として。
「まぁ、がんばってくれたまえ」
「言われなくてもっ」
少々呆れ気味のトレイルの台詞に、力いっぱい返事をするセリナであった。
ロバスの中心にある塔「ティンラドール」にて勇司は、ロバスの議会の主な人間を集め、情報の交換と今後の方針などを話し合っていた。
「現在、グレイトエースには既にハイローディスの軍勢が駐留しています。大半が町の外で待機しているとはいえ、あれでは落とされたも同然です。あと軍勢の内訳ですが、歩兵が一万五千に重装歩兵は一万、騎兵は一万五千、フレームが百機の大所帯との事です」
「しかも俺の機体もしっかり奴らに牛耳られてるせいで、状況はさらに悪いわな」
「はい。ただグレイトエースに駐留している軍隊に関しては、うまく離間できればこちらの戦力にもなりそうです。躾の悪い犬共が我が物顔で町を闊歩していますので、かなり腹に据えかねてるようですしね。火種は結構あるかと」
「離間工作は必ずやっておけよ。貴族どもの平民の扱い方は劣悪だからな。いくら改善しろといっても馬耳東風だったからな。こちら側に付いてくれる人間は少なくないはずだ」
貴族の態度を思い出したのか、忌々しそうに吐き捨てる勇司。
「あとこっちに付きそうな貴族は居るのか?」
「いえ、ほとんどがファウンデルス卿についていてそれ以外は日和見ですね。ファウンデルス卿と敵対しているトリエス卿も、このクーデターでは中立を保つようですし。ですが貴族は全部敵と思って頂いて結構かと」
その言葉を聞いて、嬉しそうに含み笑いをする勇司の姿があった。
「いやいや、わざと向こうに流れるように工作しやがったなおまえ」
「何をおっしゃいますやら。ユージ陛下の貴族嫌いは有名ですから、それででしょう。私ごときが何を囁こうと変わりませんよ」
「ふふ、まぁいい。貴族なんざこの際だ。みんな滅べばいいさ。あぁ違う、俺が滅ぼそう。自然に無くなるとか誰が許すものか」
圧倒的な戦力差がある事は分かっているはずなのに、強気な勇司。
「まぁ今回はうちの優しいブレインの顔を立てて、殺しはしないけどな。ただ平民と同じ身分にしてやるから、奴らにとっては死んだ方がマシだろうがな」
“うちのブレイン”という言葉に首を傾げる面々。ユージがそこまで信頼を寄せているブレインとまで呼ばれる人物が思い浮かばなかったからだ。
「まぁ伊達に今まで生き残ってきた訳じゃない事を証明するとしようかね」
そう静かに、だが力強く宣言する勇司だった。
コージもミミもヒロコもるりも居ない。エド君も出番がまだ先です。
お気に入り登録が話数分と同じぐらいになって非常にありがたいです。
話数をどんどん増やせば、お気に入り登録も増える・・・?(ごくり)