親子対決
ロバス、東ブロックフレーム試験場。
そこで二機のフレームが対峙していた。一機は青い細身の機体で、気負うことなく自然な姿で相手を睥睨している。対するもう一機は少しがっしりしている緑色の機体で、細かく足を踏み鳴らしたり身体を右に開いたり左に開いたりと、機体の状況を確認してるかのように動いている。
「さて、それでは私が合図をしますので、両者とも位置について」
「ゴー!」
ゴバッ! と勢い良く衝撃波が二機の間を走る。どうやらこれが合図のつもりらしい。
細身の青い機体は、右手にレイピア左手に短剣を逆手に持ち相手にまっすぐに突撃していく。対する緑色の機体は慌てずに右手のマシンガンを向け即座に連射を開始する。
青い機体は即座に反応し、身をかがめさらに加速する。間合いに入った青い機体は緑の機体の足元を狙う。
ガキッ!
足首の間接部分を狙った攻撃は、見事に足の裏でブロックされ逸らされている。そして緑色の機体は近距離でもおかまいなしに、マシンガンをばら撒く。だが、青い機体はその攻撃すら少しの跳躍と、自身を縦に回転する事で軽々と回避し、緑の機体に取り付く。
そして即座に足を使って緑色の機体の肩をロックし、フリーとなった両手で頭部を破壊しようとする青い機体。
だが、青い機体が武器を振り上げた瞬間に緑色の機体は急加速をし青い機体の体勢が崩れ攻撃は失敗に終わる。そして、体勢が崩れるや否や今度は青い機体を地面に叩きつけようと急制動を掛ける!
だが、急制動でついた勢いを緑の機体の肩を蹴る事でさらに加速させ、ふわりと安全圏まで離れる青い機体。むしろ、緑色の機体のほうが無理な急制動でダメージを受けたようだ。
「なんで、あの機体でここまでできちゃう訳、父ちゃんは? ある意味すっげー変態なんじゃなかろうか・・・」
「対フレーム戦は初めてと言ってた割りに、良く動くなぁ。あの重そうな機体でよくやるよ、ほんと」
様子見の攻撃で相手の力量を測った二人は、相手の動きの凄さをはっきりと感じ取った。
「父ちゃんに近づかれたら相当やばいなぁ・・・さっきはたまたま上手く行ったけど、正直あんなトリッキーな攻撃されたらヤバイなぁ・・・中、遠距離で戦いたいけど、そうはさせてくれないだろうなぁ」
「あの機体は意外と頑丈な所が厄介だな。直線に限ってはこっちと変わらん速度もでるようだし。攻めて攻めて攻めまくって、隙を探すのが一番だなこれは」
距離を取ろうと動きまくる光司と、なんとしてでも喰らい付こうと急激な機動を見せる勇司。その制動はかなり無茶であり、身体にかなりの負担が掛かっている事が想像に難くない。だが、戦闘が10分、20分と時間が経っても一向にその勢いが衰える事はなかった。
直線的な動きで距離を稼ぎ、空中へと逃げる光司だが、勇司の機体は空気を踏み固める事ができるので、すぐに追いつかれてしまい蹴りを喰らって地面に叩き落されてしまう。光司としてはミサイルを放って、マシンガンでちまちま削りつつ攻撃したいところだが、その動きはすでに勇司に読まれているようで中々思うように戦況を作る事ができずにいた。
「この機体でここまで何もさせて貰えないとか、おかしいでしょ父ちゃん」
「そろそろ、向こうの機体のダメージが溜まってきた頃合のはずだ。動きが鈍くなってきたら止めに一気に行けるな」
両者ともに決定打は無いにしても攻撃は直撃している。ただ、直撃の回数が光司が15回ほどに対し、勇司は3回。五倍もの差が機体のダメージに如実に出ていた。
「くっそぉ、このままじゃジリ貧だ! なんとか逆転する方法を考えないと」
ゲームはかなり上手い方だった光司だが、勇司と対戦してみてまったく通用しない事がわかった。正直アクセルを掛けながら戦って、落ち着いて判断し行動しているつもりなのだが、気がつけば追い込まれているのだ。
「肉を切らせて骨を絶つしかないよなぁ。だけどどうする?」
正直攻撃が当たりにくい上に、コンボを出しても途中で止められたりカウンターを入れられたりと散々な目にあっている。油断を誘って強烈な一撃をお見舞いしたいけども・・・
ここはアバターシステムという事を最大限利用しよう。
「でりゃあぁ!」
何度目になるか分からない突進を、飛行ユニットの推力も合わせて行う。だが、父ちゃんは全く慌てずに、僕の突撃をかわそうとする。僕から見て右の方へと機体を移動させ、飛行ユニットを攻撃しようとしている。
逆手に持った短剣が飛行ユニットのエンジン部分へと突き刺さる!
そして僕はその攻撃が当たる瞬間を狙う。エンジンに刺さりわずかに動きが鈍った左腕めがけて、ロングソードを叩き込んだ!
勢いよく振りぬいた剣は、うまく左腕を間接部分から千切り飛ばした! だけど、僕がロングソードを振りぬいた隙を狙ってレイピアがコックピットを狙ってる。
「怖いけどここが勝負時だ!!!」
レイピアで狙われてるのを気にせずにそのまま突っ込み、ロングソードを放り投げた右手で父ちゃんの機体の胴体を掴み、マシンガンをコックピットに向け至近距離から叩き込んだ!
ブラックアウト
「くそぉ、良くて相討ちかぁ・・・」
人形が深刻な状況になったと判断された事により、アバターシステムが解除されコックピットから戻ってきた僕。復帰して即座に勝負を確認した僕が見たものは、バリアシールドを展開している父ちゃんの機体。そして僕の機体のコックピットはレイピアが少し刺さっているようだった。ひょっとしたら人形に少し刺さってるかも。まぁ父ちゃんの機体の体勢を崩すために強引に引き寄せたから刺さりもするよなぁ。
「こおおおおおじぃっ!」
うわっ!? 父ちゃんがめっちゃ怒って部屋に入って来た!? なんで!?
「こんの馬鹿野郎!」
ごつん!
頭にかなり痛い拳骨が飛んできた・・・めちゃ痛い・・・
「模擬戦であそこまで無茶をする奴が居るか?! しかもお前最後の攻撃、捨て身で相討ち狙いだっただろ!」
「う、うん。機体に乗ってるのはアバターだし、少々の無茶をしても大丈夫だなぁって思ったからつい」
「そんな無茶をして、万が一の事があったらどうするつもりだ! 簡単に諦めるような奴が生き残れると思うのか、お前は!」
確かにそうかな・・・? ここでやられても、新しいアバターを出して出撃すれば良いかなぁとか考えてたのは事実だし。
「ごめんなさい・・・」
「今回はシステムがうまく作動したから良かったものの、もし人形に魂が入ったまま戻ってこれなかったらおまえただじゃ済まなかったんだぞ?」
「・・・はい」
「おまえも言いたい事があるだろう。だけど、父ちゃんはアバターシステムは反対だ。あれは簡単に人を無茶な行動に誘う危険なものにしか見えん」
「うぅ・・・でも・・・」
「とりあえず、よく考えろ光司。そして何か父ちゃんを納得できる材料を持ってくるまではアバターシステムは封印だ。いいな?」
「・・・はい、分かりました」
うー・・・ちょっと調子に乗ってたかなぁ僕・・・反省・・・
まさかのアバターシステム封印。あーどうしよう。