リモートコントロール
「えっとセリナ。魔術師としてされたら嫌な事を教えてください」
「斬りかかられると、詠唱とまっちゃうから嫌ですね」
「他には?」
「んー、最初に有利な状況を作ることから始めるので、先に嫌な事されないようにしてるからうーん・・・敵に近づかれるって言うのがやっぱり一番ですかねぇ」
うーん、と小首を傾げながら応えるセリナ。そうだよねぇ、セリナは流れるように敵の弱体、味方の強化を唱えるから、攻撃魔法を唱えるときって、だいたいが万全の状態なんだよね。
「なるほど、やっぱり気が散るような事は嫌って事だね」
「はい、そんな感じです」
「じゃあ、ミミ」
「はぁい」
「ミミは、どういった敵が相手だとやりにくい?」
「コージだよ」
「えーっと僕がやりにくいって・・・いやーそういうのを聞いてるんじゃなくて、こう遠距離から攻撃されると嫌とか、素手で攻撃してくる奴が嫌とかそういうのなんだけど、無いかな?」
「コージみたいにぃ、一瞬でも目を離すと何をしてくるか分っかんないのは怖いよぉ?」
「なるほど。色々手札を持ってるような人間は嫌ってことかぁ」
「うん、すっごくドキドキするからねぇ。コージはじぃっと見てないとねぇ」
とにかく自分がされて嫌な事を、相手にできるようなアイテムを作っていこうと思う。そして安全の為に、本人が戦わないで魔力電池いわゆるカートリッジで動く人形を操る事にしよう。ただ、その操作方法をどうするか悩んでいる。とりあえず、本人は眠ってもらって人形に意識を移す方法にしてみよう。
「セリナ、ミミ。ここで眠ってくれる? テストしたいんだ」
「はい、わかりました。ちょっとぐらいならイタズラしても良いですよ?」
「わかったよぉ、ミミ寝るねぇ~」
と、とりあえず人形に意識を移そう。ミミ達が横たわっている寝台の傍に姿を似せた人形が立っている。寝台の横にあるスイッチを押す事によって意識が移るはずだ。
ぽちっとな。
「あ、あれ?」
「ん?」
立っている人形の目があいて、びっくりした様子できょろきょろしている。成功だ。
いや、叩いて痛かったら失敗だ。よし、ペシペシ!
「? 何してるんですか、コージ。・・・あれ? ほとんど痛くないですねぇ」
「何か当たってるのは感じる?」
「はい、手でぺしぺしってされてるのは分かるんですけど、痛くないんですよね。もう少し強めに叩いて貰ってもいいです?」
「わかった。行くよ?」
ぺしーん!
ちょっとセリナ人形の背中を強く叩いて見た。
「なんというか、ある程度以上の痛さが無かった事にされているみたいです。やさしく触られてる時は普通なんですけど、叩かれた場合は触れてるのは分かるんですけど、痛みは無いですね、これ」
「コージ、ミミに殴りかかって見てぇ? 本気でやってね?」
えっと、そうは言ってもどこに当たってもやばそうなんだよね。いやミミだから避けるか。よし、えいっ!
チッ!
「え?」
「ありゃ? 見えなかったよコージ」
ミミは辛うじて避けてはくれたんだけど、少しかすってしまった。反射神経は良いから回避できたんだけど、いつものような攻撃直後には回避行動に入っている動きはできてないようだ。
「人形だとミミの力が使えなくなっちゃうのかなぁ?」
「んー、かもしれないねぇ。どうしよっかぁ?」
んー、とりあえず攻撃が見えなくなったってことは、視覚の何かが足りないって事なんだろうか? うーん、色々試して見よう。ミミの特殊能力だけど、どういった力が働いているかは良く分からない。試しに魔力や霊力を通し易いと言われるミスリルで、ミミの目の部分を覆い、人形の方にも同じようにミスリルで覆ってみる。これでどうなるかな?
「よし、行くよミミ」
「うん」
当たったら嫌だから、軽めにパンチを出す。
「コージ。そんなの見るまでもなく避けれるよぉ。ちゃんとやってよぉ」
「うん、ごめん。行くよ!」
気の抜けたパンチで怒られたので、本気で殴りかかる。
「あ~見えるねぇこれだと」
「お、良かった。たまたまだけど、上手くいったみたいだね」
よし、これでミミも人形で実力を出せるね。人形は基本的に操る人に合わせて作成しているので、実力を出せないようだと意味が無いもんね。
セリナの方は勿論、魔力重視タイプである。本体にカートリッジを埋め込み、詠唱魔法やセリナの編み出した無音魔法も唱える事ができる。勿論それとは別に「ノーミス」タイプの杖型「プリンシパル」を持たせている。
ミミは近接戦闘タイプだけど、遠距離攻撃もできるように「月詠」を渡して、ワイヤーガンを装備させている。ワイヤーガンなんだけど、空中にアンカーを固定できる特殊仕様で、ミミが三次元機動できるようになっている。基本的にミミの戦い方は捕まったらお終いな所があるので、捕まる可能性を低くする為だ。
とはいえ、セリナとミミの人形が壊れる事は無い。本体の素材はミスリル。魔力の伝達や粘性が高く強度もそこそこあったので、本体の素材に選んだ。そしてオリハルコンで表面をコーティングして、魔力の増幅や素材の強化を行った。さらにスーツを着せて正体不明にする予定になっている。そしてスーツと言うのは、正義の味方が着るあのスーツだ。対刃対弾は勿論、温度耐性、酸耐性、耐圧や毒のフィルター、ボイスチェンジャーやパワーアシスト、通信機能も装備している優れもののスーツだ。貴族の屋敷を襲ったのと同種の物である。
なので、人形が壊れる事はない。普通に壊れそうにない。むしろ壊れる所を見てみたいぐらいだ。懸念していた、強いショックを受けた際のフィードバックだけど何故か意図してないのにうまくいっているので安心できるし。
でも、念のため人形は予備を数体作成しておく。通信が断絶して、急に操作できなくなるとかは可能性としてあるもんね。
そう通信でこの人形は動くのです。電波でビビビ。
なぜかと言うと、よくよく考えたら敵に魔法を使われるのってかなり怖い。というか、せっかく無力化した敵を次々に復活させられちゃいそうなので、魔法を使えなくしようと考えたのだ。だけど、魔法を使えなくするという事はセリナも魔法が使えなくなっちゃう。
それじゃあ本末転倒って事なので、詠唱できないように無音にするか魔力がうまく働かないようにしようという事になった。これならセリナは無音詠唱もしくは「プリンシパル」で魔法を使える。敵にも無音詠唱の使い手がいるかもしれないけど、そういう敵はミミがささっと無力化すれば大丈夫だろう。
ただマジックアイテムの効果で魔法が飛んでくるという可能性もあるけど、こればかりはどうしようもないので、相手が使い切るまでこちらが攻めたおすという事で話がまとまった。
今回、魔法に対して科学で反撃をしようと思う。その為に、必要なアイテムを製作するロボット達を作り出した。やっぱり大量に使うものがあるので一々僕一人で造ってると間に合わなくなりそうなのだ。なので、僕は造りたいアイテムをイメージして設計図と素材を作り出し、後は設計図と素材から目的のアイテムをロボットたちが組立をしていく。一度設計図に起こしたものは素材さえ準備して、指示してやれば組立してくれるので、非常に大量生産が楽になるのだ。
相手は人海戦術で攻めてくるので、こちらは少数精鋭で対応するしかないのだ。いや本当に割ける人員が居ないから物理的に無理なんだけどね。あははー。
なんにせよ、人を殺す為の道具ではない戦争の道具。ある意味矛盾した物をどんどん作り出して行こう。
国を取り戻す為に。
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今日の夜の更新はちょっと遅めになります。