北へ南へ
そういえば。
テレポートで町と町の間を行き来すれば、めんどくさい審査しなくても良いよね。まぁ、行った事が無いところはできないから、最初だけは書類を書かないと駄目なんだけどもね。
でも、ヒューイックはもともと門番の人と挨拶するだけだったから良いんだけどね。急いでハーベイさんの工房へ向かいエンジンの解体がすんでるか確認しよう。
「ハーベイさん、ただいまー! もうエンジンばらせた?」
「おうコージ。さっきばらし終えて今休憩中じゃ。やっぱり小型の8型は神経使うわい」
「おー、さすがハーベイさん、もう終わったんですね。で、この綺麗な奴は水晶ですか?」
ばらしたパーツの真ん中に、綺麗な長方形をした水晶のような発光してる物体があった。所々ラインみたいな物が見えるので、何個かのパーツを組み合わせて出来た物のようだ。
「それがエンジンのばらせない部分じゃ。その水晶みたいな物を媒介して魔石シートに魔力を流し込んで動力を得るみたいなんじゃがの」
「見た目はただのガラスみたいにしか見えませんねぇ」
「だが、硬度はたいしたもんじゃぞ。生半可な工具じゃびくともせんしなぁ」
「ふぅん・・・じゃあちょっと調べて見ますね」
「おかしな事をして壊してくれるなよ?」
「大丈夫ですって。いひひ」
とりあえず、水晶の表面をなぞって見る。すべすべで気持ちが良い。指でなぞった所がぽわんと光りだすのも綺麗だ。もっと指先に感覚を集中して丁寧に触って見る。んー、すごく分かりにくいけどラインに継ぎ目みたいなものを感じる。うまく繋ぎ合わせてるなぁ、ラインが見えてても継ぎ目が分かりにくいぞ。
「ハーベイさん。このばらせないパーツってどれもこんな長方形なんですか?」
「あぁ、そうだな。必ず長方形で大きさも全く一緒じゃ。だから交換できるようになっとるみたいじゃな、それは」
外側から慎重に探査する。全てのパーツの形を調べ組み合わせ方を、分析してなんとなく分かってきた。フレームには魔力増幅器は普通別にちゃんとあるんだけど、いくら増幅すると言っても元々は人間の魔力だ、フレームを動かすのに到底足りないだろう。だけど、この水晶みたいなパーツは取り込んだ魔力を人間の生命力を餌にして、とんでもない増幅を図るものみたいだ。魔力×生命力=膨大な魔力を作ってるって事だ。ただ、生命力全部を魔力に変換してるわけではなく、多少はこの水晶が吸い取っているので常に人間の生命力を吸う必要は無いようだ。あれ? だったらホワイトファングはなんで僕を載せて機体の回復をしなかったんだろ? 不思議だ。
詳しく調べる内に、この水晶は組み合わせるパーツが複雑で多ければ多いほど、増幅率が高まるみたい。水晶の大きさは一緒なんだから魔石エンジンももっと小さくできそうな物なんだけど、エンジンを小さくすると必然的にパーツも小さくなり、パーツ一つ一つにかかる負荷が大きくなり耐久性が格段に落ちるので、本体の素材に問題が出るようだ。コストパフォーマンス的には、普通のサイズの魔石エンジンの方がかなり良いようだ。
「うん、この水晶の仕組みは理解できた。大丈夫、これなら僕でも造れます」
「この8型の水晶を作れるってのか? それが本当なら物凄い事なんじゃが・・・」
「とりあえず、真似はできるだけで同じ出力が出せるかは造ってみないと分からないですけどね。良くあるでしょ、見た目は一緒なのにどうしても動かない時って」
「なるほどのぉ。まぁそれでも今までこの水晶部分は出力が低いものなら作れたんじゃが、これだけの物が作れるようになれば、頼もしいかぎりじゃな」
次は魔石シートを見せてもらおう。
これは透明なアクリル板みたいな物に魔石を並べて嵌めてるだけのようだ。ただ必ず7色の魔石を使わないと作動しないというのが不思議な所だ。7色の魔石が必要だけど、魔石の数は9でも10でも別に問題はない。なので、どの組み合わせにすれば効率よく動力に変換できるかを探すのも魔石シートの組み合わせの楽しい所らしい。
これって改良次第ですごい化けそうな気がするなぁ。今までにある形以外にも、効率の良い形があるかもしれない。
形を探すのも良いけれど、単純だけど効果のありそうな改造をしてみよう。
「ハーベイさん、この1型魔石エンジン使わせて貰っていいですか?」
「おいおい、何をする気じゃ」
「ちょいと出力アップをしてみようと思うんですが、どうです?」
「大きさを変えないなら、いいぞ」
にやりと笑うハーベイさん。確かに大きくなるようだったら意味ないよね、だけど。
「当然じゃないですか。任せてください」
「よし、じゃあやってみろ」
「はい」
魔石シートはエンジンに対して垂直に差込まれている。この魔石シートを通って魔力が変換されるんだけど、このシートの前に魔力増幅用のシートを挟みこんでみようと思う。スペースが限られているから、そんなに増幅効果を付ける事は出来ないけど最低でも2倍にはなるはずなのだ。
魔石エンジンをばらし慎重に魔石シートを入れる隙間から、魔力増幅用のシートを差込もうとするけど、中々に狭い。これボトルシップを作ってる気分になるなぁ。こんな面倒くさい事誰もしないよね? 普通のサイズのエンジンだからできるけど、小型タイプならきっと無理だね、これは。
30分かけてようやく魔力増幅シートを装着し、魔石シートを差込む。
「ハーベイさん、これで最低でも倍に出力が上がるはずだから、計測して見よう」
「そんな簡単に上げられたら苦労せんて。ま、測っては見るがの」
僕とハーベイさんはお互いにやにやしながら、計測器を持った。
「じゃあ行きますよ!」
ギュィイイイイイイイイイイイ・・・・・・
順調にエンジンが回りだす。計測器を見ると順調に出力があがっている。
「むむ。1型エンジンの2.2倍ほどの出力で安定したな。何をしたコージ」
「魔石シートの前に、魔力増幅用のシートを一枚入れたんです」
「おぉっ!? エンジン停止じゃ」
ギュゥゥウウンン・・・
慌ててエンジンを停止するハーベイさん。この方法はまずかった?
「その方法はちーとばかり危ないんじゃコージ。確かに出力は倍もしくはそれ以上に跳ね上がるんじゃが、いかんせん安定せん。長時間稼動すればするほど不安定になるのでな、今じゃその方法は誰もせんのじゃ」
「なるほど。じゃあ違う方法を考えないと駄目ですねぇ」
「まぁ、目の付け所は良いんじゃがなぁ。あぶなっかしいわい」
「ごめんなさい。次はどう改良するかハーベイさんに相談してからにしますね」
「めげんやつじゃなぁ、コージは」
「改造がうまくいったら楽しいじゃないですか、だから次こそ成功させますよ!」
「おーおー。がんばれよ。期待せんと待っとる」
「あ、ひどい」
「あっはっはっは」
まぁ、仕方ないか。所詮素人の思いつきだしね。でも次は絶対出力アップしてやろう!
テレポートを使い出して、めっぽう移動が便利。でも、ちょっと大味すぎて駄目かなぁと思う。一応行った所限定だからいいか。
一話の文字数を少しずつ増やそうと思ってます。