家族
父ちゃんに飛びついたら、母さんに飛びついてた。あれ?
「光司、やっと来てくれたねぇ~、母さんちょっと若返っちゃったわよ~」
「いや、なんで母さん?! あれ? 父ちゃんは?」
「・・・俺はここだ・・・」
母さんに突き飛ばされたようで、父ちゃん、もとい父さんは地面に転がっている。
「久々の親子の対面なんだもの、勇司さんは後あと」
「母さんは良いだろうけど、僕、父さんと会うの久しぶりなんだけどっ!?」
「あー光司、強くなったなぁ。はっはっは。見ての通り父さんはるりに負けっぱなしだ」
地面に転がったままで、にやりと笑って力強くサムズアップする父さん。
「それより光司、昔みたいに父ちゃんって呼んでくれ。ん?」
「あーまぁ、また今度ね、また今度! それよりそこの二人にはどういう経緯で襲われたの?」
「ろくに事情も知らないで、やっちまったのか。ぶははは、まぁ助かったから良いんだけどな。まぁ俺はこの国で王様してたんだが、ちょいと追われる事になってな。こいつらはその追っ手だ」
「庶民上がりの王様って父さんだったの?」
「おう、その通り。びっくりしたか?」
「もぉーそんな話はどーでも良いでしょ? ほら光司、お母さん若返ったのよーぴちぴちよー?」
「それはどうでもいい。てかなんで二人とも若返ってるの?」
「なんでかこっちの世界に来た時に疲れ知らずにはなったんだが、そんなに俺って若返ってるか光司?」
「うーん、そう言われると僕も父さんと会うの久しぶりだから分かんないけど、二人とも若くなってる気がするよ?」
「そうかそうか。若くなる分には悪い事はないしな。良かったよ」
そう言って目を細めて僕を見る父さん。父さんを久しぶりに見て、ちょっと涙腺が緩みそうになっちゃった。でもあれだ。積もる話はあるんだけど、母さんがどうでもいいって言ってから、物凄い勢いでいじけてる。あれは早めに構わないと物凄く後を引いて面倒くさくなる。
「物凄く可愛くなった母さん、久しぶり! 元気だった?」
母さんが調子に乗りそうな台詞を臆面もなく吐く僕。慣れたもんだ。
「でしょでしょでしょ? 母さん可愛くなったよね? 綺麗よね? 誰もが振り向くよね?」
「うんうん、だから早く行こうね」
「うん分かった、光司」
「・・・どうなってやがる・・・?」
父さんが居なくなってから、母さんの面倒くささがアップしたから、僕と母さんのやり取りを見て父さんが驚いている。本気出した母さんはこんなもんじゃないよ、父さん。本気でうざいからね?
ねっ転がってる二人を父さんに担いで貰って、ロバスへ向かおう。テレポートで一気に飛んでもいいよね? 歩くとロバスまで結構距離あるしここ。
「父さん、母さん、ロバスまで飛んじゃって良い?」
「お、そんな事もできるのか光司は。身体は大丈夫なのか? そんな事して」
「うん、大丈夫。簡単だからね、行くよ」
二人の手を掴んでロバスをイメージして飛んだ。
「っと。もう着いたのか速いなぁ」
「えっと、トリプルセブンで宿を取ってるんだけど父さんはどっかに報告とかしないと駄目なのかな?」
「あーそうだな。ちょっとロバスの顔役に挨拶してくるわ。るりは光司と一緒に宿に行っといてくれるか?」
「うん、いいわよ。光司と積もる話もあるし。ねっ」
「いや、どっちかというと父さんと積もる話があるんだけど・・・」
「ん? 何か言った光司?」
「ううん、何も言ってない」
「そうよね、気のせいよね、うんうん。じゃ勇司さんいってらっしゃぁ~い」
「おう」
父さんはそう力強く返事をして、二人の女性を肩に担いだまま町の中へ悠然と歩いていった。せっかく会えた父さんと離れるのはちょっと寂しいけど、またすぐ会えるからね。そうやってぐっと我慢して僕たちはトリプルセブンへと向かい、セリナ達と合流することにした。
「ふんふん。光司ちゃんこっちの世界に来てから女の子と縁があるのねぇ。弘子ちゃんはどうするの?」
「いやいや、弘子をどうするもこうするも、そもそも何もなかったし。こっちの世界に来ちゃったから余計どうしようも無いでしょ?」
「ふぅ~ん? 鈍感太郎だったのねぇ、うちの光司は。まぁそこも可愛いんだけどねぇ」
「ちょっやめてよ恥ずかしい」
家に居た頃と変わらず、すぐにハグしてくる母さん。若くなって美少女と言って良いぐらいに可愛くなってるけど、母さんだと思うと全くドキドキしない。母さんだしなぁ。
トリプルセブンに着いて早速セリナ達の居る部屋へ向かう。
「母さんどきどきだわぁ。光司のお嫁さん達と仲良くできるかなぁ」
「何言ってるの母さん。おーい、ヒロコいるー?」
「ほいほーい、マスター?」
「あらコージさんですか?」
「うや?」
部屋の中に声を掛けたら、みんないっせいに出てきた。待っててくれたのね。
「あ、ただいま、みんな。えと、こっちの・・・」
「コージさんまた美少女捕まえてきた・・・」
「マスター、遊びに行ってたの・・・?」
「・・・・・・」
ミミはぽかーんとしている。ちょっと説明する前に濡れ衣をかぶせないで欲しいなぁ!
「若いけど母さんだから、これ! なんでかこっちに来て若返ったの、ほんとだって!」
「うふふ、るりです。光司はこう言ってますけど色々宜しくね。そう、い・ろ・い・ろ」
「うもーーー! 間違ってないけど誤解を招く挨拶は止めてくれる母さん!?」
「コージ・・・」
「マスター?」
「コージィ・・・?」
このままじゃ埒が明かないので、部屋の中に入り今までの経緯を説明する。僕の造ったマジックアイテムで母さんと父さんを見つけ出した事。父さんは王様らしい事。とりあえず自分の馬鹿さ加減も説明しておいた。
「コージが人探しのマジックアイテムを作らないのは、何か訳があるか作れないのかと思ってましたが、単純に忘れてたんですねぇ」
「セリナは気付いてたの?! 教えてくれても良かったんじゃ・・・?」
「だって、教えちゃったらそこで旅が終わるし、勿体無いじゃないですか。えへっ」
しれっとそんな事をのたまいましたこの子。あーもうっ!可愛いからってこんにゃろおぅ。
「ふみゃーふみゃーコージっコージィ~・・・」
「あ~可愛いわぁこの子。ミミちゃんうちの子になりなさいよ。ねっねっ?」
ミミは母さんに凄く気に入られてしまい、ハグ攻撃されている。絵面的には美少女二人の絡み合いなんだけど、かたっぽが母さんってだけで何も面白くない。ミミがんばれ。はぁ・・・
「えーっと、というわけでずっと行方不明だった父さんも含めて家族全員が揃ったってわけなんだ。父さんとはまだあんまり話できてないんだけどね」
「お義父様はどこへ行かれたんです?」
「なんかロバスの顔役に挨拶してくるってどっか行った。すぐ戻ってくると思うけど」
何か漢字が違う気がするのは気のせいだよね。
「そうなんですか。ちょっとお会いできるのが楽しみです」
「勇司さんは渡さないわよっ」
「え? いえいえ滅相もございません! お義母さんに勝てるなんて思いませんし」
「私に勝てたら勇司さんを狙うって事かしら・・・?」
「ち、違います! 私はむしろコージをねらってるほうでして・・・」
ごにょごにょとなんだか小さい声で呟くセリナ。顔が真っ赤だ。
「ん! それなら宜しい。おおいにやりなさい!」
「はい、がんばります」
どうやら母さんは聞こえてたようだ。めんどくさい母さんの相手をしてくれてありがとうセリナ! あー、早く父さん戻ってこないかなぁ。男同士で話したいなぁ。友達は親なんかうっとうしいだけって言ってたけどね。
コンコンッ
「光司はこっちの部屋にいるのか?」
どうやら父さんが戻ってきたみたいだ。