セリナの想いと旅立ちの準備
今日もジャンさんのお宅でご馳走になり、お家に帰りゆっくりしていましたが、ふと気になり、コージさんから頂いたケイタイをそっと取り出しました。
コージさん。
私より1つ年下という不思議な子。最初、村に来たときはどこの貴族かと思いましたが話をするうちに、怪しい子という印象になって、魔法を使うところを見せて貰ってからはとんでもなく凄い子というのが分かりました。
でも、数日一緒に過ごして見て分かったのですが、おっちょこちょいでそそっかしく、少し常識知らずな所があったりと手のかかる弟のような子でした。でも、物覚えはかなり良い方で、一度教えた事はすぐに覚え応用を効かせていました。
魔法にしても良く分からない系統の魔法を使い、一度見た魔法はすぐに覚えてしまう。
そのくせ、今まで魔法をちゃんと学んだことも無いという。
これには小さいころからコツコツと魔法を学んでいた私としては、かなり落ち込みました。
才能の差というのがここまで大きいとは。
これでも、村一番の魔法使いって評判だったのになぁ。
それに加えて、マジックアイテムを色々作ってくれます。
煙が出ないカマドや、薪のいらないストーブ。食材を長持ちさせる箱とか色々。おかげでジャンさんの家はすっごく便利になりましたし。
彼は不思議な子です。いつも笑顔であんな凄い魔法を使えるにもかかわらず、偉ぶる事も無く自然に振舞っています。それに凄く気を遣う方で、この間も水を汲んで川から戻ってきたところを見つかり
「力仕事は男の仕事だから、任せて」
と笑顔で強引に水の入った桶を持ち家まで運んでくださいました。細身で筋肉とは無縁のように見える方ですけど、意外と力持ちで頼もしかったです。
あとはコージさんの魔法をしっかりみっちり教えて頂かないと。
それには傍にいるヒロコさんとの関係が非常に気にかかります。恋人では無いと思いますが、お弟子さん? 妹さん? なんにせよヒロコさんよりも、コージさんの近くへ行かなければ、いけません。
魔法にかまけて17歳になってしまいましたが、コージさんを捕まえることができればそんな事は問題なしです。むしろこの為に私は今まで嫁がなかったんです!
でも、せめて料理ぐらいはコージさんぐらいできないと駄目でしょうね・・・
明日からがんばりましょう。(駄目フラグ)
とりあえず、こっちの世界の魔法がどういうものがあるのか分かった。
基本的に、火、水、土、風、光、闇といったオーソドックスな属性があり、それぞれの属性にあわせた魔法があるということだ。
火は攻撃に特化していて、水は癒しと攻撃の両方、土は支援魔法と攻撃、風は攻撃魔法と移動魔法。光と闇は特殊で扱える者が少ないらしくよく分かってない。
ゲームの魔法もだいたい似たような設定のものが多いし、微妙にこちらの設定と合わなくても光とか闇の属性です、とか言って誤魔化すのもできると思う。
とりあえず、今後の行動のことを考えて荷物の問題と移動の問題。あとは食事事情をどうにかする事が必要だったので、それに合わせて魔法や装備を考えていた。
とりあえず、簡単には死なないように防具からきっちり考えた。この世界は剣や魔法が普通にあるから、そういうのに耐性のある防具が必要だった。
基本になる素材は、カーボンナノチューブとケブラー素材。形はライダースーツみたいなツナギにして、魔法に対する耐性を付与した。さらに、治癒効果も付与して、装備している限り疲れや怪我をかなり軽減できるようにした。
そして、魔法を吸収できるようにグローブに魔法を吸い取る属性を付与。吸い取った魔法は専用のカートリッジに収納する。そして収納された魔法は、純粋な魔力に変換されるようにし、これから作る銃の弾丸にする。
武器は6連シリンダーのついたリボルバー型の銃。銃身は長く角ばっていて、ごつごつとした造りにした。シリンダー部分はかなり長めに作ってあるのでちょっと不恰好だ。だが、それがいい! グリップ部分は、僕の手に合わせて少し小さめ。6連シリンダーだけど弾丸が6発しかでないわけではない。シリンダーにカートリッジを詰めて、カートリッジの魔力が続く限り連射できる、汎用性のある優れものなのだ。
だけど1丁では心許ないので、もう一つタイプの違う銃も造る。
6連シリンダーは変わらずグリップ部分の角度と、フレーム部分に少し改良を施したものだ。見た目は銃なんだけど、用途としては魔法剣として使う。
撃つ、斬る、飛ばすと3種類の攻撃方法を選択できるので、かなり重宝すると思う。
魔法を撃ちだすのは当然だけど、実弾(実体剣)もちゃんと出るようにしている。勿論、魔力を変換して実弾を撃つので弾を込める必要はない。
そして、シリンダーのカートリッジを受ける先端部分には、魔術式を刻印しておりカートリッジに収納した魔力を利用して色々な種類の魔法もしくは実弾を発生させる。トリガーを引くことによって、銃身に組み込んだ魔力増幅装置が作動し、発射される時にはかなりの威力になる。
銃にしたのは、なんとなくかっこいいからだ!
ちなみに、純粋な銃タイプの名前は「ノーミス」、剣タイプは「月光」とした。とりあえず他の人に使われると危ないから、グリップ部分に認証魔法を組み込んだ。
防具、武器ときて次は収納かな。
「うーん、鞄とかになんでも入るようにしてるといざって時に落としたりしたらまずいしなぁ・・・ いや使用者制限とか掛けると大丈夫なのかな? だめだめ、やっぱり落としたら使えなくなるのは変わらないしなぁ・・・」
「指輪とかに荷物をしまっちゃうとかは駄目なの?」
「なるほど、それなら落とす心配も少ないねぇ。まぁ盗まれる心配は大きくなるけどもそれは目をつぶるしかないかぁ」
ありがたいアドバイスをくれたヒロコの頭を感謝を込めてなでなで。ヒロコは頭を撫でられるのが気持ち良いらしいので、ありがとうと言うかわりに、最近は良く頭を撫でている。
僕も撫でるのが気持ちいいので、ついつい撫でてしまう。
そうやって、ヒロコの頭を撫でつつ二人でくつろいでいたら、セリナさんがやってきた。
「こんにちは、コージさん。今日はお願いがあってこちらに来まし・・・た」
笑顔で入って来たセリナさんだったけど、僕がヒロコの頭を撫でてるのを見て少しむっとした表情になった。え、なんかまずい事したかな僕?
「えーっと、こんにちはセリナさん。お願いってなんです?」
とりあえず、不機嫌そうな顔は気づかなかった事にしてそう尋ねる。
「・・・負けてられません」
「はえ?」
何か勝負してたっけ?
「あ、いえいえ。こちらの話ですよ。で、お願いというのはですね・・・」
と一旦言葉をくぎるセリナさん。凄く真剣な表情だけどそんなに難しいお願いなのかな?
「ロバスに行かれるなら私も連れて行ってください道もわかりますし魔法も使えますから非常に役に立ちますよ! なんなら夜は添い寝してもらっても結構ですむしろしてください」
すごい早口で一気に言い切ったセリナさん。息継ぎなしで言うもんだから顔赤いよ?
ていうか、早口すぎてよく聞き取れなかったし。
「え、セリナちゃんも一緒に来るの?」
ヒロコが嬉しそうに言う。あ、一緒にロバスに行きたいって言ったのね。なるほど。
「セリナさんもロバスに行く用事があるんですか? 僕もヒロコも道がよく分かってないんで一緒に来て貰えると助かりますけども」
でも、一緒に来てもらって大丈夫なのかなぁ?
「大丈夫です、むしろずっと一緒について行きますよ」
僕の困惑が顔に出ていたのか、大丈夫と胸を張るセリナさん。
「あと、私のことは気軽にセリナって呼び捨てにしてくださいね? 私もコージって呼びますから」
これから旅をするから仲良くやって行きたいですしね、とセリナさん。もといセリナ。
年上のお姉さんを呼び捨てにするのは若干抵抗があるけどもね。
「うん、分かったよセリナ。よろしくね」
となると、セリナの分も装備を考えよう。
「ところで、コージは何をしていたんですか? 見慣れないアイテムがありますけども」
と、「ノーミス」と「月光」を見て不思議そうな顔をしている。
「うん、これからロバスに行くでしょ? だから、色々造ってたの。ちなみにそれは銃っていって武器なんだ。そっちの服は防具。見た目は服だけど、そんじょそこらの鎧より強いんだよ。あとこの指輪が鞄がわりのアイテムなんだ」
指輪が鞄がわり・・・? と頭にクエスチョンマークをつけて首をかしげるセリナ。
「これをね、こうやって触りながら魔力を注いで、収納したい物を触ると・・・」
指輪をはめて、実演してみる。
シュッ
と、指輪に吸い込まれるようにして、僕のツナギが指輪の中に納まる。
「え? えぇえええ?!」
あ、びっくりしてる。ちょっと可愛い。
「で、出すときは出したい物を強く念じるか、頭の中に出てくる収納してる物の一覧の中から選べば・・・」
ポト
「と、出てくる寸法なのです。便利でしょう?」
ちょっと得意げな僕。ゲームだとアイテム99個とか256個とか凄い量持てるから、僕も同じ事したいってだけで造ったんだけどね。
「なんというか、凄いです、はい。空間魔法だと思うんですけど、指輪に付与しちゃいますかーそうですかー」
なんだか、脱力しているセリナ。ちょっとやりすぎた・・・かな?
「マスターが常識知らずでごめんね」
ヒロコが裏切る。指輪に詰め込んだらって言ったのヒロコじゃないか~。
「いえいえ、ちょっと驚きすぎただけです。でもコージ、便利なアイテムだけど見せびらかせないでね? あと、何か造ったら必ず私に見せてね? 凄すぎるアイテムは狙われちゃうから・・・」
何か思い出したのか、ちょっと暗い表情のセリナ。心配してくれてるのかな? 可愛いお姉さんに心配されるとか、ちょっと嬉しい。
「うん、分かったよセリナ。とりあえず、造った奴見てくれるかな?」
と、さっきから造っていたアイテムを見せる僕。
こうして、ロバスへのの準備は着々と進んでいった。