女神像の声
トリプルセブンをお昼頃出発し、僕たちは北側のブロックを目指して歩いている。地下道を通り一旦、西か東かのブロックに出ないと北側には行けないので、今は西ブロックを目指している。普段なら直接北ブロックへと行く道もあるんだけど、今日はあいにくその通路は封鎖されているのだ。
ロバスの街中は自動で周回するバスみたいな車がゆっくり走っている。最初見たときはびっくりしたんだけど、この車はどうもロバスの街中だけでしか動かない代物らしい。地下道をくぐって西ブロックに入り、バスをつかって北ブロックへ抜ける地下道へ行く。こうして移動すると、色んなお店が目につくなぁ・・・
宿を出て一時間程たってようやく北ブロックの女神像がある縦穴の淵にやってきた。女神像は北ブロックの真ん中にあるこの縦穴の底にあるらしい。縦穴に沿って道があり、女神像を見に行くであろう人達の姿が見える。西側が降りる人、東側が上る人と分かれているようで人波が行儀良く進んでいる。これだと行く人と帰る人でごったかえさないから進み易いよね。
「女神像って見に来る人結構いるんだねぇ」
「そうですね、今日は特に多いんじゃないですかね」
「ミミ、ちょっと頭痛するかもぉ・・・」
「ほーほー。ほーほーほー」
「ミミ、しんどいならおんぶしよっか?」
「うー・・・うん」
本当にしんどそうなミミをおんぶして、女神像へ向かう。確かにこれだけの人ごみだと、慣れてないとしんどくなるかもね。
「セリナ、ちゃんと僕の腕を掴んでて? はぐれるかもだし」
「はいっ」
セリナが嬉しそうにぎゅっと右腕を掴んでくれる。ヒロコは黙ってても腕を掴んでる。
「これだけの人が居たら、声が聞こえる人も一杯いそうだよね」
「それが、1日に二人とか三人とからしいですよ、聞こえる人って」
「そうなんだ。でも、そんなに少ない人しか聞こえないのに、凄い人気だねぇ」
「それはやっぱり、効き目が凄いからじゃないでしょうか。冒険者の方や商売をしてる方のなかで、女神像の声を聞いた方は有名になっていますしね」
「あ、あれかな? 女神像っていうの」
「はい、そうです。あれが女神像です」
「へぇ・・・」
「大きくて綺麗だねぇ」
縦穴の底まで降りてくると、すこし広く拓けている所にぽつんと台座があり、その上に女神像が建っていた。特に綺麗とか凝った意匠が施されているわけではないけども、女神像の表情はすごく優しそうに微笑んでいて、見てると嬉しくなってくるものだった。ミミも女神像効果なのか、ひょいと僕の背中から降りると真剣に女神像をみつめていた。ふと気付くとミミだけでなくセリナもヒロコも同じようにしていた。
なので、僕もじっと女神像を見つめていた。
“よくぞ参られた、そのまま其処で剣舞を舞ってくだされ”
「へ?」
剣舞って、剣を持ってくるくる型を見せるあれのことかな? いやそんなの知らないんだけども・・・? ていうか、これが女神像の声・・・?
そう思って女神像をちらりと見ると
“そうです。わたしがあなたに話かけたのです。”
「セリナ」
「はい? どうしました?」
「女神像の神託どおりに行動すると、運が良くなるんだよね・・・?」
「そうですね。まぁ、神託がどういう事を言うかはわたしも知りませんけどね」
「ちょっと、剣舞してくる」
「え、コージ? ひょっとして?」
ぐっとセリナに親指を立てて、その質問に答える。
とりあえず、アクセルを唱えて剣を凄い勢いで振ったり、飛んだり跳ねたり、くるくる回ったりして、それっぽい事をするとしよう!
「すいません、これからここで剣舞をしますので、少し離れてくださいっ」
半ばやけくそ気味に大きな声でそう宣言する。ここ大勢の人がいるから恥ずかしいけど、剣舞を黙って始めて人に怪我させたりすると大変だからね。
「グッドラック」から剣を二本、炎と氷の双剣を出す。
「ミミ、手伝ってくれる? 今からここで剣舞したいんだ」
「ミミ、剣舞なんて知らないよぉ・・・」
「大丈夫、僕の攻撃を剣で止めてくれればいいから、ほいっ」
ミミに氷の剣を渡して、僕は炎の剣。
「それでは、始めます」
僕が急に剣舞をすると言い出すと周りの人達は、即座に離れてくれた。神託関連だと分かってくれたのだろう。みんな興味深々で僕たちを見てる。
アクセルを唱え、ミミに斬りかかる。
なるべく大振りにして目立つように振る。上段、斬り返し、左右の連撃、踏み込んで下段狙い、めまぐるしく止まることなくミミへ斬撃を放つ。ミミは最初のうちこそ、観客に呑まれて表情が硬かったんだけど、動き出すにつれどんどん元気になって、すごい笑顔で僕の攻撃を全て受けきる。さっきまでおんぶされていた人間とは思えないほどだ。でも、そのおかげで僕のほうも段々楽しくなってきた。
興が乗り始めてしばらくたったころ、女神像が光ったように見えた。
「エンド」
アクセルを解除し、女神像を見てみる。あれ? 違ったかな、気のせいだったかな? と思っていると声を掛けられた。
「お、コージじゃないか! こんな所で何をしとるんじゃ?」
「ハーベイさん?! なんでここにいるんですか?」
セリナの命の恩人? のハーベイさんが何故かそこにいた。
久しぶりにハーベイさんに会って話を聞くと、ロバスに居るのはどうやら僕のせいでもあるらしい。ホワイトファングがお店から無くなった事に気付いた奥さんが、ハーベイさんを問い詰めたそうだ。だけどハーベイさんはホワイトファングに逃げられたと言って誤魔化そうとしたんだけど、そんな馬鹿な事を言っててお店をやっていけると思っているのか! と嘘を見抜かれてすんごい雷を落とされたらしい。実際、あのあと貴族にも目を付けられたらしく、細かい嫌がらせを受けたりもしたそうだ。それで、ロバスでフレームを仕入れるついでに、厄落としをかねて女神像に神託を受けて来いと命令されたんだって。
「で、神託を受けに来てびっくりじゃ。まさかコージがおどっとるとは思いもせんて」
「いや、お恥ずかしい・・・いひひ」
「しかも、はぁ・・・めんこい嬢ちゃん揃いじゃないか。なるほどなるほど。あれだけ必死だったのもうなづけるもんじゃて」
「ほんと、ハーベイさんのおかげでみんな助かったんです。ありがとうございました」
深々と僕が礼をすると、セリナもミミもヒロコも揃ってハーベイさんに向かって礼をする。そんな様をみて照れくさいのか、手を振って応えるハーベイさん。
「で、ハーベイさんにフレーム関連のパーツで見て欲しい物があるんですよ」
「ん? なんじゃ、嬉しそうな顔をしおってからに。これから、知り合いの店に仕入れに行くんで、そこで見せてもらって構わんかの?」
「はい、勿論です。では、早速向かいましょうよ」
「ん? パーツを運ぶ手配をせんと駄目じゃろうて。コージ慌てなさんな」
「あ、大丈夫です。こう見えてもちゃんと持ってるんで」
「・・・ふむ、じゃあ行くとするかの。東側のブロックじゃ」
「はい、分かりました」
よし、ハーベイさんに借金返済計画の第一歩だ!
主人公補正!
おかしな文章訂正。