勇者
「見せて貰ったよ、君の手並み。あ、僕はリュート=アインって言うんだ、よろしく」
「あ、どうも。僕はコージです。コージ=ヒロセって言います」
さっきの戦いを見られてたのか。いやはやちょっと恥ずかしいなぁ。リュートって人の後ろに、すっごく長い金髪を綺麗に伸ばしてる子と、ショートカットの赤毛の女の子に、ふわっとした薄い緑色の髪の女の子がいる。どの子も凄く可愛い。リュートってリア充だ!
「ところで君が持っている武器・・・かな? 見せて貰っても良いかなぁ?」
「ほえ?」
「リュートが見せてって言ってるんだから、早く出しなさいよ。ほらっ」
「あっ」
急に、リュートの後ろに居た薄い緑色の髪をした女の子が僕の傍に来たかと思うと「ギル」をかっさらっていって、リュートにそっと手渡した。
「あ、ありがとうティナ。」
リュートは女の子にそう礼を言うと、僕に済まなさそうな目を向けてきた。あ、ミミがちょっとむっとしてる。ティナって子の態度が気に入らないようだ。
リュートの事をこのリア充野郎って思ったんだけど、客観的に見れば僕も三人の可愛い女の子を引き連れて古代遺跡に来てるので、僕もそんな風な目で見られてたのか。道理でときおり殺気だった視線を感じるわけだよ。
「ところで、コージ。この道具の使い方を教えてくれるかな?」
「あ、それはね・・・」
ティナって子が騒ぎ出す前に慌てて応える。リュートは「ギル」をクルクルいじったり振ったりしてたんだけど、ボタンの使い方が良く分からなかったらしい。なので、ボタンの使い方を丁寧に教えてあげた。
リュートはすぐに使い方を覚えて簡単に使いこなして見せた。僕はゲームとかでそういうのの操作には慣れてるんだけど、ゲームした事なんてないだろうに、リュートって相当器用なんだなぁと思った。
凄く楽しそうに「ギル」を操るリュート。リュートは嬉しそうにティナに話しかけている。するとティナが急に僕の方を向いてこう言った。
「この武器は勇者のリュートに相応しいわね。貰っておいて上げるわ」
「うんうん」
「そうだね」
リュートと一緒に居る女の子達がティナって子の言う事にそれぞれ賛同した。
は?
えっと突っ込みどころ満載だけどどっから行こう。
「ティナ、それだとコージの武器が無くなっちゃうよ」
「じゃあ、王様から貰った勇者の剣を100ゴールドで売ってあげましょ。それで大丈夫でしょ。もうボロボロで切れ味は悪いけど、とりあえず頑丈だから良い物よ。本当ならリュートが使った武器だったらその100倍出しても買えないんだし」
「だよね、勇者様の使った武器だもんねぇ」
あまりにも突拍子の無い状況に陥ると、人って何も考えられなくなるって本当だね。しばらく頭の中が真っ白になっちゃったよ。こんなときこそ深呼吸だね、うん。
すーはー。
「ちょっと待って。「ギル」を取られると凄く困る。やっと今日から使い始めたんだよ」
「何言ってるの? もうリュートが貰ったんだから困るとか言われても知らないわよ。ほらこれ上げるから100ゴールド出しなさい」
と言ってリュートの腰にぶら下がっていたぼろぼろの剣を僕に押し付けてきた。
「はい、受け取ったから早く100ゴールド渡しなさい」
勇者ってのは、こんな人間を連れてて平気なのかなぁ? なんというか強盗に入られて更に役に立たないツボを詐欺られてる気分だよ。セリナ達もぽかーんとしてて、びっくりしている。
「あーもう、じれったいわね! とりあえずそこのオークのドロップ品貰っていくわよ」
あ、ちょっと! オークの魔法使いが落とした宝石のついた杖なんて100ゴールドを超えるレアアイテムなのに!? どうしてこんなときに限ってそんな良い物ドロップしてるんだこのオークどもは!
「ふん、さっさとしないからこうなるのよ。まぁちょっと足りないけど我慢してあげるわ」
どういう手品を使ったのか、地面にあったオークのドロップ品は単価1ゴールド以下のもの以外は全てかっさらわれた。すごい強欲センサーだ・・・
「じゃあ、ありがとうコージ、またね」
呆然としていると、爽やかな笑顔でリュート達が去っていった。
「コージィ」
「ん?」
「勇者たちってぇ倒しちゃっていいかなぁ?」
ぶるっ
ミミが笑顔のまま物凄い殺気を放っている。今までじっと黙っていたのは怒りのあまり言葉が出なかったみたい。でも、それは駄目だ。
「ミミ、そんな事しちゃ駄目だよ? そんな事したらあいつらと同じ、酷いと言うかおかしな奴になっちゃうよ? 分かる?」
「・・・ミミわかんない」
「因果応報、自業自得っていってね。悪い事をしたら悪い事が。良い事をしたら良い事が自分に帰ってくるんだ。だから、あんな悪い事をしてても一応は人なんだから、人をやっつけちゃうなんて悪い事したら駄目なんだ」
「・・・うぅ、分かったぁ。我慢するぅ」
「よーし、ミミは良い子です!」
「みゃーーーーーーー!」
ミミの頭を抱えてナデナデしまくる。髪の毛がばっさばさになるけど気にしなーい!
「わたしも勇者を倒してきますっ!」
「わぁああああ、セリナ待って! 話聞いてなかったの!?」
僕良い事言ったよね!?
「早く私を止めて下さいコージ! そしてそしてっ!」
「あぁもう、とりあえずこっち来てっ」
何故かにやにやしているヒロコも強引に引き寄せて、みんなにくっつく。
「とりあえず、道具はまた作ればいいから気にしなくて良いからね。今回は、僕が「ギル」を僕しか使えないように細工してなかったのがそもそもの原因だし。それにここで揉めて悪い奴らに目を付けられるより、みんなが危ない目に遭わない様にする方が大事なんだ」
と言って、力を込めてぎゅっとみんなに抱きつく。
「だから、とりあえずこれでお終い! もう気にしない事! 良い?」
「うん、わかったぁ」
「はい、コージ」
「はいはいマスター」
「よし、それじゃあ次行ってみよう!」
なんか微妙な雰囲気になっちゃったけど、気にしない。これから狩りまくって損した分を取り戻そーっと!
リア充 vs リア充
ちくしょう・・・