メッセージ
シール協会の建物から出て、いざギルド協会に行こうとしたその時。
「ん、あれ? マスターちょっと行って来る」
「へ?」
ヒロコが急に路地裏に入って行った。まったくもう、今度は一体何を見つけたんだか。ヒロコは結構こうやって急にどこかへ行くことが多い。そして、猫や犬やなんかペットっぽいものを見つけてきては、捕まえて遊ぶのだ。
「今度は何を見つけたのかなぁ」
まぁしばらくすれば、戻ってくるだろうし少し待っておくかぁ。と、しばらく待ちの体制に入った僕の目に兵隊さんが移動していくのが見えた。そういえば、なんでこんなに兵隊さんが居るのか謎だよね。ちょっと聞いてみよかなぁ。
「すいませーん」
「ん、なんだ?」
「僕、観光に来たのですけど、なんで兵隊さんが一杯いるのか気になりまして、教えて貰えないかなって思いまして」
無愛想な兵隊さんにおっかなびっくり僕が尋ねると、怪訝そうな顔をしながらもちゃんと答えてくれた。
バルトス国の王様がどこかの国の刺客に狙われて、怪我をして伏せているらしい。刺客に襲われたのなら門を閉じて、入出国を制限すればいいのに制限したのは襲われてから一週間だけで、それ以降は王様の意向で門戸を開くと、偉い人から宣言があったそうだ。
なんでも、門を閉じたままだと観光に来る人を締め出してしまうし、町の中の人も商売がしにくくなるので、一般人の生活が困ってしまう。だけどそれは避けたいと王様が言ったらしい。ただ、やっぱり刺客がまた入って来ないとも限らないので、こうやって兵隊さん達が街中を警戒しているとの事なんだって。
そう話してくれた兵隊さんは、うちの王様は凄い! って顔をして説明の最後のほうはすごい熱弁になってた。とりあえずお礼を言ってその場から離れた。あれ? なんかヒロコが入っていった路地裏が慌しくなってるぞ・・・?
まさか、ヒロコに何かあったんじゃ?
と思いつつ、路地裏に入っていくとそこには兵隊さん達に囲まれているヒロコの姿があった。一体何があったんだろ?
「すいません、僕の仲間が何かしましたか?」
「ん? おまえもこの娘の仲間か。おい、お前達こいつも連れて行くぞ」
「え、ちょっと・・・」
辺りを見渡せば、建物の屋根が崩れて下に落ちたらしく残骸が転がっている。なかなか凄い壊れっぷりでこれをヒロコがやったのなら、兵隊さんが物々しい雰囲気なのも分かる。だけどヒロコは無闇に物を壊したりしない。何か誤解されてるんだ。
「うちのヒロコは物を壊したりする子じゃありません。やったのはこの子じゃないです。だいたい、こんだけ派手にどうやって壊すんですか!」
「大きな物音がして、我々が駆けつけた時にはこの娘とこの残骸があっただけだ。この路地裏から誰も出て行かなかったし、彼女以外に誰が犯人だと言うのだ? 言って見ろ」
「それは・・・」
「この娘は身分証も何もない。坊主は身分証はあるか?」
あー・・・ギルド証は作ろうとしてる所だったからまだ持ってないから、全く何も無い。
「おまえもか坊主。ちょっと詰め所まで来て素性を詳しく聞かせて貰おうか。行くぞ」
「・・・はい、分かりました」
今、この時点でどうやっても無実を証明できないので、とりあえず大人しく付いていくしかないか。現場に数名の兵隊さんが残り、二人の兵隊が僕たちを連行して行った。
結局、どうにもできないまま事情を聴取されて、素性が良く分からないし屋根を壊しているとは言い切れないので、様子を見るという事で所謂ブタ箱に1日お泊りすることとなった。だけど、そこで持ち物を「ノーミス」「月光」を含めて取り上げられた。指輪は外れないから、取り上げられなかったんだけど、僕に何か魔法の力があると思われて魔力を封じる部屋に入れられた。
「あー、なんでこうなったんだろうねぇ?」
「マスターごめんなさい。ボクも気付いたらこうなってたの」
牢屋で落ち着いてヒロコから話を聞いたんだけど、ヒロコは何かに呼ばれた気がして路地裏に行ったのは覚えているんだけど、そこから先はもう兵隊に囲まれていたらしい。あの壊れてた屋根の残骸はまったく身に覚えがないらしい。ヒロコが嘘を言ってるとも思えないし、きっとあそこを壊した人間が、ヒロコに何かをしたんだろうと思う。
「ん?」
申し訳なさそうなヒロコの顔をじっと見ていると、額に何か光るものが見える。何か付いてるのかなと思って、おでこを拭いてあげようとしたその瞬間、それは起こった。
「聞いてるか光司。いや光司とは限らないが光司を知っている人間であるのは間違いない。訳があってこの精霊の力を借りて連絡させて貰っている」
ヒロコの目がうつろになったかと思うと、男性の声がそう語りかけてきた。
「今、王宮を逃げ出してドジった所にこの精霊を見つけた。俺はロバスに行く。これを聞いたらすぐにも向かって欲しい。“るり”も一緒にいる」
「母さんが?!」
「では、やばそうなのでこれで! がんばれよ光司!」
と、その声を最後にヒロコが正気に戻った。
「ふぅわっ? なにボクなにかした?!」
「何かしたっていうか、何かされてたみたいだね、どうもここからすぐにでも出て行かないと駄目になった」
正直、男の話は罠かもしれないと思ったんだけど母さんの名前を知ってることが気になる。こっちの世界の人間が知ってるとも思えない。いや心当たりならひとつだけある。
「メッセージ送ってきた奴か・・・」
たぶんそれ以外に考えられない。なら急いで母さんを助けに行かないと母さんが危ない。
さて、いっちょ牢獄破りをするとしますか!
前科一犯・・・?