魔石獣ゴロック
「これが“パン”でこれが“馬車”です」
「うん。うん」
字が書けないミミの為に、字だけでなく算数なども教える事になりました。テスタロッサ家の人間は相当ひん曲がった人間だらけだったようで、ミミに何も教えることなどしなかったようです。むしろ、勉強しようとしたのを邪魔してたみたい。
「それはいかん!」
と、張り切ったのはなんでかファラスさん。いや、なんで?
「噂を鵜呑みにし、いたいけな子供を疑った自分が恥ずかしい」
魔族の兆候などまったくなく魔法を使うようになったミミを見て、衝撃を受けたらしい。そもそも魔族になりかかってるなら、身体のどこかが分かり易いように変わってるはずだし、処刑しようとして逃げられてるとか言うのなら、なぜ簡単に奴隷にされて売られてしまっているのか? 1つ疑問が浮かぶと後は色々と噂におかしな点がある事に気付かされファラスさんは態度を改める事にしたらしい。ミミにも謝ってた。ミミはわたわたしてたけど。
ファラスさんは旅を良くしているのだろうか、おもしろい話や経験話などをたくさんしてくれて、非常におもしろいのだ。勉強の合間あいまにそういった話をしてくれるので、勉強してる事が楽しく感じられるのだ。その証拠にミミがファラスさんから隠れなくなり、話をせがむようになっている。
そんな平和な旅を続けていたんだけど、ミミの恐ろしいまでの強さをこの道中で知る事になった。
魔石獣。
ガイアフレームでようやく立ち向かえると言われる、生きた災害。ロバスでは確かにガイアフレーム単機で撃破してる人もいたけど、あくまで慣れた人だったし基本的にロバスを襲撃してくるのは比較的若い魔石獣なのだ。
それが今回出くわしたのは、巨大で年数を経た魔石獣ゴロック。
ロバスとグレイトエースの街道をまたぐように、周回している魔石獣でかなりの被害が出ているらしい。最初、変な所に山があるなぁと思っていたら、どうやら疲れて眠ってたらしく僕達の馬車の音で目が覚めてしまったらしい。でかいくせにナイーブだなぁ、ちくしょう。で、魔石獣の嫌な所は、休眠状態になっていると自然物みたいに錯覚させられてしまう事だ。体内にある魔石のせいであると言われているが原因は不明である。このせいで、周回コースが分かっているのにも係わらず簡単に討伐できないのである。
「うん、大丈夫だよ見てて。お兄ちゃん、びりびり剣にして貸してくれるぅ?」
何を思ったか地響きを立てて動き出したゴロックを見てそうミミが呟いた。
「いや、ミミ。あれって魔石獣だろ? 逃げないとやばいでしょ」
「ううん、大丈夫。見えるから、時間はかかるけど大丈夫だよぉっ」
にこっと花が咲くように笑い、貸してと手をだすミミ。まったく気負う所はないようだ。
「せめて、みんなでやったほうが良い!」
「今回は1人でやらせて? 危なくなったら逃げるからぁ。ね?」
いざとなったら、助けられるようにだけしておくか。とりあえず「月光」の使用者認証にミミを追加。モードを雷にしてミミに渡す。
「じゃ、行って来るねぇ~♪」
と言うが早いか、ダンッ!!! と地響きをさせ一気にゴロックに突っ込んでいくミミ。ゴロックの形状は簡単に言うと亀。ワニガメみたいな凶悪な顔とごつごつとした皮膚に巨大な手足。だけど、動きは俊敏で手足だけでなく、シッポも伸びて攻撃してくるらしい。
まずは左前足にとりついたミミ。タンタンッと足に剣を突き刺し、逃げては突き刺しを繰り返している。執拗に左前足を攻めて立てるミミに対して、左前足をひっこめて、頭を伸ばしてミミにかじりつこうとするゴロック。
だけど、左前足が引っ込んだ瞬間に右後ろ足に向かってすでに移動を終えているミミ。どうやって攻撃してくるか分かってるみたいで、先を読んで行動している。胴体の下を潜り抜けてる時にプレスされたらひとたまりも無いのに、良くやるなぁ・・・
左前足をひっこめているので、右後ろ足はひっこめにくいらしくしきりに逃げようと動くゴロック。左前足を出せばいいのに、逃げる事に精一杯な感じでこいつは、お馬鹿なんだなぁって思った。だけど、よくよく考えたらゴロックを精一杯になるまで追い詰めているミミこそが凄い事に気付いた。だって、左前足を出そうとする度にゴロックに分かるように剣をそっちに向けて牽制してるんだもん。
シッポまで使ってミミを遠ざけようとするも全て回避されたあげくシッポに一撃を喰らい、びりびりと痺れてしまう始末。そして、まだまだ続くかと思われた瞬間にけりが付いた。
ミミの攻撃にたまらず右後ろ足までひっこめたゴロック。
だが、それこそがミミが狙ってた瞬間だったようで、ひっこめた瞬間ゴロックの甲羅の下側のど真ん中に剣を付きたてた!
その瞬間の反応はすさまじく4~50メートルほど飛び上がったかと思うと、地面に落ちてきて、落ちる瞬間にミミにひっくりかえされてしまい後はもう起き上がることは無かったのだ。
「ただいまぁ~、もう大丈夫だよ。あれで何もできなくなったからね♪」
汗1つかかずに帰ってきて明るい声でそう嬉しそうに語るミミ。君のその細い身体でなんであんなに力が出るのか、おにーさんは驚きだよ。
驚いたけど、褒めてあげないとね。よしよし撫でて上げよう。
「よく頑張ったね、ミミ」
「ん~♪」
ミミは褒めてあげると凄く喜ぶ。きっと褒めて育てると伸びる子だよね。これ以上伸びてどこまで行くかは考えると恐ろしいけどもね。
・・・あれ? セリナにしろミミにしろ、内のメンバーって女の子が断然つよい・・・
これってどうなのよ・・・ねぇ?
初見のはずのゴロックに対して自信溢れるミミ。不思議。