羊の皮をかぶった狼
正直やりすぎた。
「ボール・ライト! ボール・アクア! ボール・ファイア!」
「アローシュート!」
キュッゴッドォオオオオン!
えーちなみに魔法を唱えているのはミミ。魔法を教えるよ! って強引に教えたんだけど案外素直に言うことを聞いてくれて、拍子抜けするぐらい簡単に覚えた。セリナはいまだに真似できないのに、ミミって凄いかも。
「ねーねー、コージ! 見た? 今の見てくれたぁ?」
「もうその辺でやめときなさい。魔法使いすぎると倒れるよー?」
「えー、もっと使いたい~! 駄目ぇ~?」
「だめっ! お兄ちゃんの言う事ちゃんと聞きなさい」
「はぁ~い・・・むぅ」
「むむむむ、わたしでも真似できないのに、むぅ・・・」
あー向こうじゃセリナがすっごくむくれてる。魔法大好きっ娘として唱えられない魔法が悔しいんだろうなぁ。ましてや、今日初めて魔法を唱えたミミに負けたんだもんなぁ。
「とりあえず、ボール系統だけでも覚えてると便利じゃないかな? 補助魔法とかはおいおい教えようと思うんだけど」
「ミミちゃんは、そもそも戦っちゃ駄目ですしね。万が一のときに身を守れる程度で大丈夫じゃないでしょうか?」
「そうだね。でもなんでミミはあんなに簡単に僕の魔法を覚えられるんだろ?」
「それはわたしが知りたいです・・・」
セリナがちょっと怒った感じでそう呟く。僕の魔法もそんなに難しくないと思うんだけどなぁ・・・なんというか、イメージだけが頼りなんだよね僕の魔法。
「詠唱もないのになんで魔法が発動するのか、まったく分からないんですよ」
「うーん、こればっかりはそういう物って思って貰うしかないんだけどなぁ」
ああでもないこうでもないと、セリナと喋っているとミミがむくれた。
「もう。ミミが魔法使えるようになったんだからぁ、もっと構って!」
「あ、ごめんごめん」
ミミは物凄くストレートに表現してくる。そして、見た目が幼いのもあってそれが別に不思議に感じない。年齢は18歳って聞いてるけど、そんなの関係ないね、うん。可愛いは正義。
「コージ、ミミのお話聞いてくれる?」
神妙な様子で、僕を真剣な目で見てくるミミ。
「ん? どしたの、急に改まって」
「んと大事なお話なの。ちゃんと聞いてくれる?」
「聞くよ、ちゃんと聞く」
「セリナとヒロコも聞いて欲しいの」
「はい、大丈夫ですよ」
「うん、わかった」
いつもの元気な様子と違い、静かに語りだすミミ。それはミミが今まで受けてきた事や敢えて話さなかった事を語ってくれた。なんというか、僕の想像通りいじめられてたみたいだけど、想像以上のかなりひどい扱いを受けていたようだった。でも、いじめられる原因となった力が気になる。
「ミミの事、怖くない?」
語り終えたミミがそう尋ねてきたが、ヒロコもセリナも黙ってミミをぎゅっと抱きしめていた。ぷるぷると震えていたミミもようやく落ち着いてきたようだ。そんなに話すのが怖かったのに、僕たちに打ち明けてくれるなんてミミは強いなぁ・・・
「僕達はミミの味方だからね、家になんて帰らないで一緒にいよう。ね?」
僕の言葉にうなづくみんな。それでようやくミミにも笑顔が戻った。
「ミミ、じゃあ始めるよ」
「うん、いつでもどうぞ」
僕はミミがいじめられる原因となった力が気になったので、ミミにお願いをしてどうなるのかをやって貰う事にした。
「月光」と「ノーミス」を構え、ミミに向かって駆け出す。
「月光」の攻撃範囲の直前で、強く踏み込み魔法を唱える。
「アクセル」
万が一、ミミが避けそこなったとしてもこれで対処できるはずだ。
一気に間合いに入り込んだ僕は「月光」を横薙ぎに払って回避しにくい攻撃を仕掛けようとした。
だけど、ミミはすでに動いていた。
僕の踏み込みが、地面に付くか付かないかの時点でミミは僕から見て左手前へと、ステップし始めている。右から左へと薙ぎ払おうとすると、その方向へ回避されると初撃もそうだけど、追撃もやりにくい。
しかも、僕の「月光」の届かないギリギリの所を見極めて軽々と動いているミミ。
たとえ、「月光」を振りぬいてさらに1回転する勢いで剣を振ったとしても掠めることすらできないだろう。
だいたい、突っ込んできてる僕に、前へ突っ込んでくる時点で、ミミは場馴れしてるだろう。アクセルの魔法のおかげで、冷静に状況を判断できるけど、魔法をかけてなかったらきっと簡単に背後を取られてお終いだっただろう。
「エンド」
「ほえ?」
攻撃を仕掛ける直前で終わってしまったので、不思議そうな顔をしているミミ。
「ミミ、すごい!」
「ほきゃー!」
感激のあまりミミを抱きしめる僕。だって凄いよミミは!
華奢な見た目のせいで、守ってあげないとすぐにへたっちゃいそうと思ってたんだけど、ところがどっこい。運動神経も良く、動体視力もかなり良い、さっきも僕の一挙一動を細大漏らさず見ていた。たぶん、アクセルなしで勝負を挑んだら僕のほうが負けそうな気がする。
「はにゃー」
「あ、ごめんミミ」
ちょっと強く抱きしめすぎたのか、真っ赤な顔をして脱力してるミミ。
「駄目ですよ、女の子には優しくしないと」
いつの間にやらセリナが傍にきて、ミミをささっと奪って行ってしまった。あとでミミにちゃんと謝っておかないと駄目だね。だけど、これからはミミに僕の剣の練習相手になって貰えるね。あんな凄い使い手と手合わせできるなんて、そうそう無いからね。うふふーちょっと楽しみ。
「マスター、ちょっと気持ち悪い」
「え」
顔に出てたみたい。恥ずかしいぃいいい!
たぶんミミが一番強い。
女の子最強!
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