黒セリナ
「で、その少年がセリナ君が推薦する人物なのかね?」
セリナに連れて行かれた部屋の中。なんというか、偉そうなオジサンが居た。
「はい、彼以上の魔術師をわたしは知りません。先ほどのご依頼は彼と一緒で無い限りお受けする事はございません」
強い口調できっぱりというセリナ。
「じゃが、その少年が優秀な術者という保障が全く無いでのぉ。さらにいえば信頼に足る人物かどうか・・・」
「あぁ、そこでそこのトレイルが役に立ちます」
えーっとセリナさん、トレイルさんの扱いがすっごくぞんざいなんですが・・・?
「コージならトレイルを打ち負かせます。で、わたしが推薦する彼を信頼できない方は他にいらっしゃいます? 身をもって信頼していただきますけども?」
すっごい目が笑ってなくて口だけで笑ってる顔だーーーーーーーー! 僕を信頼できないなら実力でねじ伏せちゃうぞ♪ って顔に書いてある。現にそれを感じ取ったお偉いさん達が引きつった顔で力なく笑ってるぞ・・・?
「ほぉ・・・この子が私を打ち負かせる事ができるのかね?」
魔術に関してはそうそう引けをとらないと自負しているのであろう。そう応えるトレイルさんは、視線だけで人を殺せそうな程、殺気だっていた。
「はい、わたしに勝てないトレイルなんて瞬殺ですよ♪」
「いやいや、ちょっと待って話が見えない・・・事もないけど、物騒な話は止めてくれるかなセリナ?」
僕が話しかけた途端今までの剣呑な表情から、一転して柔らかい表情になるセリナ。
「ごめんなさい。説明がまだでしたよね? この人達がわたしにちょっと特殊な任務を依頼してきたんですが、わたし1人だと心細いのでコージにも来て欲しいなって言ったら実力も分からない人間を参加させられないって言われちゃって・・・」
「君は調査隊の1人として行くだけで、なにも全て君に任せるわけじゃな・・・」
「コージに説明しているので黙っててくれません」
セリナの説明に補足を入れてくれたおじさんが、黙らされた。おーい、セリナ目の輝きが無くなってるよ! もどってこーーーーい!
「えっと、どこまで話しましたっけ? なんにせよ、コージさんは魔法でトレイルを倒してくださったら、わたしと一緒に任務に行けるって事なんです」
じっと見つめる僕を見て、やっと表情が戻るセリナ。でも、説明をはしょっちゃったよ。
「では、中央試験場に行きましょう。あそこならトレイルが全力を出しても問題はありませんしね。みなさん、それで宜しいですね?」
セリナのその言葉を皮切りに、みなさん一斉にどこかへ向かい出す。僕はというと、セリナに腕を掴まれて、どこかに連れて行かれる。でかい。
「はっ」
幸せな気分で歩いていたら、どうやら何時の間にか中央試験場に着いていたようだ。どこをどう歩いていたかさっぱり思い出せない・・・
こんな時こそ落ち着いて深呼吸。
すーはー
「では、コージさんとトレイルは合図をしたら始めてください」
え、ちょっと待って心の準備が! 気付けば試験場のど真ん中で相対する僕とトレイルさん。トレイルさん、ポーズが無駄に決まっててカッコイイ! って違う!
「はじめ!」
「“我が身の魔力を依り白に、我に力を与えたまえ! オーディス!”」
確かあれは身体強化魔法のはず。自分を能力を底上げしてから戦う人なのか。僕は黙って「ノーミス」と「月光」を腰のホルスターから取り出した。アクセルを唱えるのはまだ早い。ここはトレイルさんのお手並み拝見といこう。
「本気で行くよ、コージ君。恨むならクリムゾンを恨みなさい」
瞬間、凄い速さで僕の視界から逃れるように横に動くトレイルさん。そうやって戦うスタイルに慣れているのか、中々の速さで僕じゃなかったら追いきれないだろう。
「“風よ! 我が敵を戒めよ! ヘティス!”」
風系の戒めの呪文のようだ。僕の周りに魔力で生まれた風が渦巻き、僕の動きを拘束しようとまとわりつく。これはちょっと動きにくそうだ。
「“炎よ! 我が敵を燃やせ! ファイア!”」
僕の左から火の玉が飛んできた。よいしょっと避けると次は右、上、また左。という具合に火の玉がどんどん飛んでくる。これぐらいの威力なら魔法障壁で防ぎきれるかな?
「くっ! 魔法を避けるのは上手なようだな」
拘束呪文を唱えて高速で移動しながら死角をついているつもりで、攻撃してるのに当たらないもんだから、すっごく悔しそうな表情でそう言うトレイルさん。やっぱりポーズが美しいな、この人。
「でしたら、避けませんので当ててください。“マテクト”」
魔法障壁を唱えて、トレイルさんの魔法に備える。
「“炎よ風よ! 共に手を取り、切り裂き燃やせ! フレイムカッター!”」
おー風と炎の複合魔法だ! なんか凄そうな魔法にトレイルさんの本気を感じる。だけど。
「これじゃあ、セリナの殲滅魔法には足元にも及ばない」
風のかまいたちで標的を小さく切り刻み、炎で燃やして跡形も無く消してしまうような呪文だけど、セリナだったら火力だけで強引に辺りを燃やし尽くそうとする。この程度は炎ではなく、種火程度にしか感じない。
「・・・これで全くの無傷・・・?」
複合呪文が切り札だったみたいで、ちょっと驚いている。少しぐらいダメージがあると思ってたんだろうなぁ。ちょっと可哀想になってきたので、こっちも切り札っぽく見える攻撃でやってしまおう。
「じゃあ、こっちの番ですね。出でよアタックオプション!」
いや本当は叫ばなくても良いんだけど、なんとなく。このアタックオプションは、僕の意思で空中をひらひらと移動して、僕が撃った魔法を反射してくれる優れものだ。魔力の減衰率はゼロで、二つだしておけばずっと魔法をピンポン球に見立ててラリーができる。
「ボール・サンダー!」
「な、なんだそれは!?」
そしておなじみ球魔法。びりびりして貰おう。
「アローシュート!」
「うわぁぁああ!?」
「良いなぁ、あの魔法・・・」
僕の魔法を見てうっとり呟くセリナだった。ちゃんちゃん。
セリナ、コージの凄さを分かって貰えずご立腹。