都市の洗礼
ロバスの門で、セリナはギルド証を見せ、ギルド証を持ってない僕たちは何枚か書類を書き、似顔絵を描かれた。いまさらだけど、この世界。僕が知らない言葉なんだけど何故か理解できるおかげで僕は読み書きや会話に困る事はない。まぁ、ヒロコのおかげなのかなーって思いつつ深く考えなかった。
「だけど、こんな書類を書くのは苦手だー!」
都市への来訪目的、住んでる場所、名前や年齢、犯罪歴とか魔法が使用できるかどうかや所持している武器などを詳細に書く。書くのが面倒ならば、控えている魔術師にアナライズの魔法をして貰うだけで書類の記入が免除される。だけど貴重なマジックアイテムや特殊な武器、防具などは、アナライズの魔法に反発してしまい正確な調査ができないので、記入する必要があるのだ。
無駄に色々なアイテムを作ったおかげで、山ほど書類を書く事になってがっくりだ。正直、全部を正しく書いてしまうと目立ちそうなので、アイテムの説明を色々考えるのが一番面倒なんだけどね。
「では、通行税として1人50シルバーになります」
書類を書き終わり、検査も通過したあと都市に入る手前で通行税を払った。さすが大都市だけあって、手続きが色々と面倒である。
「ロバスを出たり入ったりする度に、書類とか書くのって面倒だなぁ。僕たちもギルドに登録しよっか?」
「そうですねぇ。ヒューイックでは結局ギルドのお世話になりませんでしたからね」
「ボクもう書くのいやだー」
「ミミは字が書けなくてよかった!」
ミミは字が書けなかったので、なぜかヒロコが代筆したのだ。意外と面倒見がいいよね。
ようやく検査から解放された僕たちは、ロビーから町へと続く通路を抜け、町へと入った。
ロバスの街中は、石畳で綺麗に舗装された広々とした通りがあり、馬車や見慣れない車のような乗り物がゆっくりと行き交っている。建物はレンガ造りで、通りに沿って綺麗に並んで建っている。そして特徴的なのは、ところどころに地下への入り口がある事だ。セリナの説明どおり地下で都市は繋がっていて簡単に行き来できる。地下道の凄いところはガイアフレームが通れるようになっている所だ。
また、魔石獣を大量に狩ることで魔石獣の素材が溢れており、それを利用したアイテムが安価で出回っている。さらに言えば魔石獣の魔石はガイアフレームの動力源として使われているので、ロバスはガイアフレームを造る者にとって大変利便性の高い都市なのだ。
そして面白いのは都市の4つに分かれたブロック毎で、造られるガイアフレームの特色が異なる事だ。
北側のブロックは多脚型のガイアフレームを主に作っており、魔石獣の姿を模した物も多い。人の形をしていない事でトレースモードを使用できず、術式方式の操縦のフレームのみになる。なので、玄人好みなフレームと評判のようだ。
西側のブロックは、魔術師が扱う為のフレームが造られている。杖を持ち空中に複雑な術式を素早く描くため腕部は細めの物が多い。さらに操縦する人間の魔力を増幅する為のアンプリファーが背面に搭載されている為、少々機動性に欠ける物が多い。
東側のブロックでは、ごく一般的なフレームが大量に生産されている。基本的な人型であり、最初に作られたのも人型という事もあってか色々と改良されている。トレースモードもこのブロックで作り出され、新しい技術はだいたいここから造られる。
そして僕達のいる南側のブロックは特にまとまって何かを造っているわけではなく、職人がそれぞれ集まって自分の技術を披露するブロックとなっている。腕の良い職人や変人も居るので掘り出し物が見つかったりする。空を飛んだり、水中仕様のフレーム等の特殊なものはここで造られたりしている。
まぁ、基本的にフレームの技術のおかげで上下水道や建築、生活用品などの道具がかなり実用化されロバスはその恩恵を受けている。ガスコンロや冷蔵庫があるおかげで料理の幅が広がり、美味しい物がかなりあるみたいだ。
そして早速、屋台で買った凍らせた果物を食べるヒロコとミミ。セリナは、テルムというマンゴーみたいな味の果物のジュースを飲んでいる。僕はというとふつうの水を飲んでいる。
「ヒロコそっちの頂戴~」
「ん、交換しよ」
美少女(見た目は)二人が、フローズンフルーツを仲良く食べている姿は非常に微笑ましい。だけど、かなり人目をひいちゃうので、ちょっとあれかも。呼び寄せちゃうかも。
「お、そこのとっても可愛いお嬢ちゃん達! 俺達と一緒に遊びに行かない?」
そうそう、こういう人達。こういうナンパしている人達から見れば女の子が二人だけで、出歩いているのを見ると声を掛けるのが礼儀らしい。
「け、けけけ結構です!」
ミミを背中に庇いつつ、どもりながら返事するヒロコ。
「いいじゃん、二人だけなんでしょ? おいしいお菓子食べに行こうよ」
「そうそ、俺達も二人だし丁度いいじゃん」
「!」
おいしいお菓子という言葉に、ちょっと心動かしている様子の二人。ほんとおいしい物に弱いよね、女の子って。だけどヒロコは良く知らない男性は怖いみたいで僕を見つけると、ミミを連れて僕の後ろに隠れてしまった。
「すいません、僕の連れなんです」
とはいえ、僕も慣れてるとは到底言えない。事実だけを述べて二人組みの様子を伺う。
「あっそう。じゃ、またね~」
「ばいばい」
だけど、その対応でよかったのか、あっさりと行ってしまう二人組み。ふぅ、助かった。
その後はみんなで、油で揚げてある砂糖をまぶしたドーナッツみたいな物を食べた。出来立てだったので熱々で美味しかった。
こういった物を飲んだり食べたりできるのも、ロバスには観光案内所があり、僕達のような田舎から来た人間に色々と教えてくれるので安心してお店を利用できるのだ。そして、宿についても教えて貰っていたので、ぼちぼち向かうことにした。
「スリーセブン」という名の宿は、ロバスでシリアルナンバー「777」のルーツを見つけた人が良く泊まっていた宿らしく、前は違う名前だったんだけどその人にあやかって、名前を変えたらしいのだ。
「ようこそスリーセブンへ。何名様ですか?」
「4人だけど、1人部屋と3人部屋空いてますか?」
「少々お待ちください」
受付のヒゲを生やしたダンディーなおじさんが、僕みたいな子供相手でもしっかりと丁寧に応対してくれる。
「はい、空いております。何泊のご予定でしょうか」
「とりあえず、一週間ですけどおいくらになりますか?」
「4名様で、一週間ですと16ゴールド80シルバーとなります。前払いですと16ゴールドで結構です」
「じゃあ、前払いでお願いします」
と、16ゴールドを払う。ここに来る前に素材をある程度売り払っているので、これぐらいなら大丈夫なのだ。
「はい、確かに頂きました。お食事は付いておりますが、召し上がらない場合でもお値段は変わりませんのでご了承願います」
「あ、はい分かりました」
「お部屋は3階になります。311と312をご利用ください」
とおじさんが部屋の鍵を人数分渡してくれた。案内の人は居ないみたいだ。
ひさしぶりに屋根のある所で寝れるので、やっぱり嬉しい。野宿だと地面に寝袋で寝てたから地面が固くて寝心地悪かったんだよねぇ。ヒロコたちを見るとやっぱり嬉しそうな顔をしていた。みんな文句1つ言わなかったけど、やっぱり柔らかいベッドの方が良いよね。
今日はゆっくり眠れそうだ。