ロバスへの旅路
借金まみれになり、ホワイトファングには逃げられ、扶養家族?が増えて凄く大変な事情になってしまった僕。だけど、可愛い女の子達に囲まれてるこの状況はある意味ハーレムと言えるので、それが救いといえば救いだ。
なんて最初は思っておりました!
ろくな準備もできないまま、ヒューイックの町を出てきたので自給自足をしながらロバスを目指しているのだけど、足りない物が多いので問題だらけなのである。ミミに僕の能力については秘密にしているので、何をするにも偶然を装って色々な物を手に入れる必要があるのだ。
森の中に、ちょうど食べ頃の獲物(うさぎみたいな鳥みたいなはっきりしないけど、おいしいお肉の動物)がいて、セリナがすかさず捌いてるとか、岩塩が何故か野営地の傍ににょっきと顔を出して居たりとか、前日は雨だったはずなのに、乾いた枯れ木が何本も見つかるとかとかとか!
ミミも最初の内は、純粋に喜んでいたんだけど何度もそういった事態が続くと、怪訝な顔をするようになり、だんだんと僕やセリナを(ヒロコを疑う事はなかった)疑うようになり、終いには僕から離れずつきっきりになり、それがセリナを怒らせる事になり今やトイレや寝る時以外は常に、みんな一緒に行動するはめとなった。
正直、魔力でなんでも造りだせる僕の能力は規格外すぎて、簡単に使っちゃ駄目だなーって思う。ましてや、ひけらかすのは絶対駄目だ。だけど、一緒に旅をする仲間に隠し事をするのもどうなの? というジレンマに今陥っている。
そして今、ミミにじーっと見られながら僕は夕食を準備している。卵と鶏肉が手に入ったので、ヒューイックの町で偶然手に入れたお米を使って、オムライスでも作ろうと思う。タマネギに似た野菜を切って炒めて、塩と胡椒で味付け。鶏がらを煮込んでガラを取り出し、その出汁でご飯を炊く。そしてお肉を1口大に切ってさっきのタマネギと炒めて更に塩を追加し味を調える。ご飯が炊けたら、混ぜ混ぜしておき冷ましておく。あとはふんわり卵を焼いて、ごはんを包んで出来上がり。ケチャップがないのでデミグラスソースっぽい物で代用した。
なんでご飯を作れるかって? 母子二人だったお陰で家事スキルがぐーんと伸びたせいだ。
思い出せば、家の事は大半ができるようになったけど、ほとんど友達と遊ぶということを
しなかったせいで、僕は友達が少ない。・・・少なかったなぁ・・・
「どうしたの、コージ? 心配しなくてもご飯おいしいよ?」
ご飯を食べながら、急に遠い目をした僕を心配してか、ミミがオムライスをほおばりながらそう慰めてくれた。ミミは人一倍、負の感情に敏感だ。
「それは良かった。ひさしぶりだったから上手にできたか心配だったんだ」
ご飯の生活が懐かしいよ。あー焼き魚と海苔が食べたい。
「初めて食べるけど、こんなおいしい料理を作れるコージって凄いねぇ。ミミ感動!」
「美味しくて泣けてきますけどね・・・」
わたしなんかより・・・とか呟いてるセリナ。ヒロコはなんか勝手に調味料を足して味を自分好みに変えて食べてる。前は黙って食べてたのに、進化してるなぁ・・・
「自炊してた時間が長かったしねぇ。まぁ、食事は美味しく食べれたほうが良いしね~」
と、僕もモグモグ。うん、ちょっとケチャップの味が恋しくなるけど、これはこれでアリの味付けだね。とりあえず、ミミには安心して貰えてるみたいだ。
夕飯も終わり、後片付けをして寝る準備をはじめた。うーん、たまにはお風呂にゆっくり浸かって身体をほぐしたいなぁ・・・でも、ミミがいるしどうしようかなぁ・・・?
こっちの世界はシャワーみたいな水を浴びる為の設備は大体あるんだけど、湯船がまったく無かった。タタ村に居た頃は、近くの川の水を温めて入っていたから問題なかったんだけど旅の途中ともなると、中々上手くできない。
この近所には川が無かったので、食事を作るのも、食器を洗ったのも水魔法で出した水を使ったのだ。うーん・・・何か水を貯められる物があったら良いんだけど・・・
「さっきからうんうん唸って、どうしたんですコージ?」
いつもの服装から、厚手のゆったりとしたワンピースみたいな服に着替え、髪の毛を下ろしたセリナがそう尋ねてきた。
「えっとね、お風呂ってかお湯に浸かりたいなぁって考えてたんだよ」
でも、お湯をたくさん貯められる物が無いからねぇと呟く。
「寝袋では駄目なんですか?」
「・・・なるほど、できない事はないね、それ! ありがとセリナ」
「いえいえ」
寝袋は綿が入ってるので、最初から候補外だったよ。とはいえ、そのまま使っちゃうと水が漏れてしまうので、内側にビニールの膜を貼っておかないと駄目だね。チャックの内側に取り外しできるような細工をイメージして魔力で創造する。
うぉっと・・・寝袋の内側だと見えないから創ってもミミにばれない・・・よね?
「お風呂に入ってくるから向こうに行くね! 覗いちゃ駄目・・・でもないか、うん」
野郎の裸なんて、好きこのんで覗いたりしないよね。とことこーっと、セリナ達から離れて、鼻歌まじりに寝袋に水を貯め、フレームの魔法ですこしずつお湯にして、裸になろうと寝袋から手を離した瞬間。
ダバーッ・・・
あー・・・支えがないとそりゃあ流れちゃうよねぇ。地面に穴を掘ってそこに埋める形にすればいっか。よし。
今度は地面に穴を掘り、そこに寝袋を置く。先ほどと同じように水を貯めお湯にして手を放した。よし、大丈夫だ。やっとお風呂だ!
「あー・・・やっぱ気持ちいいなぁ・・・」
頭にタオルを載せながら、ある意味露天風呂を満喫している僕。おっさんくさいかもしれないけど、気持ち良いものは気持ちが良いのだ。
「やっぱり、星座とか違う感じだよなぁ・・・」
当然というか、やっぱりというか。星はきらきら瞬いているけど並びは全く違う。オリオン座なんか当然ないし、星の光り方もかなり違う。徐々に消えていくとかどういう理屈なのかさっぱり分かんないし。それでも、星の光は見てて癒されるものであり気持ちも晴れてくるものなのだ。
ふわっと時おり吹く風は、火照った身体に気持ちよく、やっぱり露天風呂はいいなぁと思う。そして考えてしまうのは向こうの世界と、似ているけどやっぱり違うこっちの世界の事。
何故僕はこっちに来たのか? 母さんは無事なのか? 向こうの世界には帰る事ができないのか? 疑問は色々と尽きない。
そして、こっちの世界に来たきっかけはきっと、あのメッセージ。
“もうすぐ会える”
会えるとメッセージを残すという事は、僕を特定しているはず。だけど、こっちの世界に来てから、僕を知っている人間に会った事は無い。ヒロコは精霊だから違うと思うし。
「一体、誰なんだろう・・・」
肉親以外の人間と関わる事が希薄だった僕は、あまり向こうの世界に未練はない。小学生の頃に行方不明になった父さんはともかく、母さんは確実にこっちに来てるだろうからやっぱりどこかで安心している。幼馴染の寛子が居ればもっと良かったんだろうけど。
ヒロコの名前の元になった幼馴染の寛子。久世寛子。
「今頃、勉強してるんだろうなぁ・・・」
いつも僕は彼女に怒られていたので、僕が居なくなれば彼女も怒らなくて済むだろう。
でも、忘れられてたら寂しいなぁ・・・
そんなコージを月だけが優しく見守っていた。