不思議なちから
ほの暗い部屋。
魔方陣が床に描かれており、なんらかの魔法を行使した気配が漂う部屋で数名の男女が集まっていた。
「で、この少女は印を持っていないと言うんだな?」
くすみ一つない金髪を揺らしながら、眼光の鋭い壮年の男性が嘆息交じりに呟く。
「はい、残念ながらそのような印は見当たりません」
その言葉を受けて、目元をマスクで隠した女性らしき人物が応える。
「ユージン陛下にも勿論、印は無い。となると印はどこへ行ったんでしょうかね?」
ぐっと強い眼差しで、床に横たわる人物をにらみつける。
「はっ、前から言っているが俺はユージだ。いい加減に間違えるなよラディアス」
痛めつけられたのか弱々しく床に横たわっている人物は語気だけは荒々しく言い放つ。
「この国の貴族でも無い者の名前をいちいち覚える気は無いのでね。ユージン陛下」
「で、どうする気だ? 今ならまだ謝れば許してやるぞ?」
床に横たわっているにも拘らず強気のユージ。
「その少女ともども牢へ連れて行け、油断はするなよ」
ユージの発言を戯言だと鼻にもかけずに、部下に指示を出すラディアス。
ラディアスの言を受け、部下はユージと少女を連れ牢へと連行して行った。
「さて、印が無いなら無いで作れば問題はない。この国の実権さえ握ればどうとでもなる」
「御意に。しかし、あの少女は本当に無関係なのでしょうか?」
「いや無関係ではあるまい。肉親もしくは血縁関係にあるものだと思う。有効に人質として使わせて貰うだけさ」
「では、次の段階へ進まれますか?」
「あぁ、万事ぬかりなく進めたまえ、エリス」
「はい、仰せのままに」
返事とともに退室するエリス。
「さて、ここまではうまく行ったが次はどうなることやら・・・」
不安そうな台詞とは裏腹にラディアスの目は暗く笑っていた。
いま僕は異世界に来ている。
ヒロコと名づけた精霊と共に浮かびながら森の中を突き進む。
「ヒロコ、タタ村ってのはどんなとこなの?」
抱えて貰っているので、気恥ずかしい事この上ない。
だから、ついついしゃべって誤魔化そうとか思ってしまう僕。
「小さい村だよ。そんなに村人も居なかったと思うし。森の恵みで生活してるって言えばどんな所か想像できる?」
僕の気恥ずかしさをよそに、ヒロコは耳元でささやくように答えてくれる。
「わ、分かるような分からないような・・・ とりあえず危なくなければなんでも良いんだけどね」
恥ずかしいせいで、あやふやな答えになる。男の子だから仕方ないよね?
だけど、しっかりと聞いておかないと駄目なことがある。
「ところで、僕にも魔法って使えるのかな?」
「ほえ?」
その質問は想定外って顔をするヒロコ。そんなに変な事聞いたわけじゃないでしょ?
「マスターって、おもしろい事聞くよね。魔法のこと知ってるのに使えない事ないでしょ?」
「いや、そもそも魔法なんて使ったことないから聞いてるんだけど?」
「あれ? ボクでも知らないような魔法の知識とかマスターの世界でもあったじゃない? あれだけ知識あるならこっちの世界でも使えるって思ってた」
いやいや魔法なんて教わる事なんてまったく無いし。ゲームや漫画だとそういうのは山ほどあったけども・・・まさかそれのこと?!
「アクセル!」
好きな漫画に出てきた加速魔法を呟いてみる。
頭の後ろからきゅっと何かが溢れ出る感覚と共に、世界がコマ送り再生のように動きが遅くなった。うわ、なんかできてるっぽいぞ!?
「エンド!!!」
あわてて魔法を解除する。
「あ、ほらやっぱり使えるんじゃない。びっくりしたよもう」
僕がからかったと思ってヒロコはむくれる。
「ちょ、ちょっと待って」
今、間違いなく漫画の魔法が発動した。
魔法なんて習ったことなんかない(当たり前)のに、それっぽい事が起きた。
でも、何かの思い違いかもしれないから、もっとこうビジュアル的に分かるのも試してみよう。
ヒロコに地面に降ろしてもらいさっそく試してみる。
「ボール・ライト」
ちょっと魔力っぽいものを意識して違う魔法をつぶやくと、思ってたとおりの光の玉が目の前に浮かぶ。
「アローシュート!」
木を狙うように意識して、次の魔法を唱えると光の球から光の矢が飛ぶ。
ヒュゴッ!
軽い音を立てて光の矢は狙いたがわず木を貫き、そのまま突き進んでいった。
「うわやばい。魔法とかなんで使えるの僕・・・」
「どうしたのマスター? 魔法を使えるのがそんなにおかしいの?」
茫然自失といった感じの僕をみてヒロコが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、魔法なんて見たことも無ければ使ったこともなかったし。これってそもそもゲームに出てた魔法だし・・・」
「ゲームの魔法だと何かおかしいの?」
「いや、ゲームって空想の産物っていうの? 本当は無いものだからさ・・・」
ヒロコの認識は微妙にずれてる。ゲームだろうと漫画だろうとそういう設定があるのなら使えて当然とか思っている節がある。
「でも、こっちの世界だとそういうのも使えるんだよ? マスターは嬉しくない?」
理論がどうとか、本当にあるとかそういう観点ではなく、ごくごくシンプルな点をついてくるヒロコ。
「そりゃあ嬉しいに決まってるけど、なんていうかその・・・」
すごく反則な気がするのは気のせいかな?
「嬉しいならそれで良いと思うなボクは。マスターが嬉しいとボクも嬉しい!」
と本当に嬉しそうな表情をするヒロコ。
「そ、そうだね。難しく考える事もないかな。とりあえず魔法が使えるってことで良しとしよう」
使えないより使えるほうが良いしね、うん。