外壁の攻防
出撃する時に少し手間取ったせいで、グレイトエースは巨大なフレームの襲撃を許してしまっていた。南側の防壁をあっさりと崩されており、都市内部へと進もうとしていた。でも巨大フレームか…一瞬夢に出てきた巨大フレームが頭をよぎるけど、これは現実だ。
「ホワイトファング! 抑えるよ!」
「心得た」
一気にでっかい奴の進行方向へと回りこみ、その進撃を食い止めるべく突撃を開始する。エネルギーフィストを展開しつつ、でかい奴の胸部へと飛び込んで行く。だが、その直前ででかい奴が腕を振り回し、僕はまるで蚊トンボのように吹き飛ばされてしまう。
「くそぉ。でっかいくせに、すばやい動きだな」
「油断しすぎじゃぞ、主よ。相手がでかいからといって不用意にいきすぎじゃ」
「ごめん、次はもう少し慎重に行くよ」
とりあえず、ライフルを取り出しでかい奴へ向けて解き放つ。
フュィン!
「え、うそっ!?」
「なんと」
腕の一本でも落とそうと、いつもの高威力のライフルを射撃したんだけど巨体が素早く腕を動かしてライフルの射線を上方へとひん曲げてしまった。こんな威力のある射撃武器なんて無いはずのこの世界で、どういうコンセプトであのような防御機構を装備しているかまったくもって不思議である。
「ハンター射出! 観測ビットも併せて射出!」
「わかった。じゃが、あれには直接攻撃が良さそうだぞ?」
ライフルをまったく意に介さず逸らされた所を見ると、ディスティニーですら逸らしてしまうかもしれない。だけど、あたりさえすればダメージは与えられるはず。それはそれで準備しておくとして。
「ホワイトファング、何か実剣とかある? でかけりゃでかいほど良いんだけど」
「ライドランサーかの、これじゃ」
そう言うと頭の中にライドサンサーの情報が入ってくる。これは馬鹿でかい槍とバイク見たいな乗り物が一体化してる中々に物騒な兵器だ。主基が唸りを上げて魔力を練り上げていき思い描いたライドランサーが目の前に現出する。素早く乗り込み、ランサー用にマクロを追加で組み上げていく。そして追加で百五十五ミリカノン砲を取り出し、ランサーへマウントして突撃を開始する。
「光学兵器が駄目でも実弾兵器ならどうかな?」
バッガアアアアアアン!
ランサーに乗って突撃しつつカノン砲をぶちかます。反動が心地よく体を持って行くがランサーの勢いは衰えることなくデカイ奴へと吸い込まれて行く。カノン砲はデカイ奴の両手で防がれ、ランサーの突撃もついでとばかりに地面へといなされてしまう。なんとか地面への激突を避け、再度突撃する為に間合いを取る。突撃はいなされてしまったが、カノン砲は効いているようで、両手の平は損傷しているようだった。
フォオオオオオオォオオオオオーッ!
デカイ奴が不気味なうなり声を上げる。そうして街の中へ一歩踏み出し壊した壁の破片を掴んでこちらへ投げつけてきた。唸りを上げて飛んでくる破片をカノン砲で撃ち落とす。ランサーは急激な横移動が出来ないので、回避力が低いのだ。
「ハンターはラムで関節部分を狙って! 足さえ抑えればただの的になる」
さっき射出したハンターは子機を突撃型に変えてデカイ奴に取り付く。デカイ奴は今も壁から動かずに、破片を次々に投げつけてきている。僕に向かって投げても無意味と思ったのか、角度を変えて街中へと破片を撒き散らしていた。
「ホワイトファング! ケージでデカイ奴を捕まえられないかな?」
「いけるじゃろう。いくぞ!」
デカイ奴の胸部あたりに白い点が浮かび上がる。そうして、デカイ奴の周囲に半透明の壁が浮かび上がり徐々にデカイ奴へと迫っていく。だけど、デカイ奴はケージが完成する直前に大きく手を振り上げると半透明の壁に向かって叩きつけた。どれだけの力を込めたのか、壁は大きく角度を変えてしまいケージは砕け散ってしまった。
「なんか簡単に壊されちゃったけど、ケージってあんな簡単に壊せるものだっけ?」
「いや、普通は無理じゃ。完成する直前の非実体と実体のあいまいな状態をうまく突かれてしもうた感じか…」
前に「777」を捕まえた時は、どれだけ暴れてもケージって壊れなかったもんね。くそぉ、ケージが駄目ならどうやって押し返すべきか。
「うん、向こうが駄目ならこっちにケージをしちゃおう。ホワイトファング、自分にケージを掛けて」
「ん? 自分に…? 何をする気じゃ?」
「ケージってできちゃえば、すごい防壁みたいなもんでしょ?」
「あほぉ、あれは内側からの攻撃に対して強いだけで、外からはさほど強いもんではないぞ」
「あれぇ、そうだっけ…? ごめん、ちょっとぼけてるね僕」
僕の単純な思いつきは、まったく駄目だった。地道にランサーで突撃を繰り返して少しずつ押し返すしか手はないのかな? ハンターもちまちま突撃してはいるんだけども、弱点部分である関節は、やっぱりそれなりの防護措置が取られているようで、思うようにダメージが通らないでいる。
「おおっと!」
デカイ奴が破片を大量に持ち、すごい勢いでばら撒いたのでライフルで大きい破片を撃ち落とす。デカイ奴には効かないけれど、破片ならライフルで蒸発させられる。一応、何度も突撃を試みてはいるんだけど、相手も中々のもので上手く直撃コースはいなされてしまっていた。それに、デカイ奴の機体表面には何か防御膜のようなものがあるようで、手を突破してもそれが邪魔をしてくるようだ。
「そこのデストロイヤー! ただちに街の外に出てエンジンを止めろ!」
「え?」
大きな呼びかけに思わず振り返ると、エディさんの機体と思わしき四足タイプのフレームがこちらを警戒するように飛んでいた。
「それより、あのデカイ奴をどうにかするのが先でしょう?」
「その声は子供か? まあいい、デカイ奴には親衛隊が向かっている。だから、お前は俺の担当だ。いいから早く街の外に出ておとなしく捕まるんだ」
「いやいや、訳が分かんないし…それにその声はエディさん、ですよね?」
こうやって会話している間も破片が飛んできてたんだけど、ふと破片が飛んでこなくなった。どうやら向こうに親衛隊とやらが到着したようだ。
「何故、俺の名前を知っているかは、知らんが早く街から出ろ。でないなら攻撃を開始する。子供であろうと容赦はせん」
一体どうなってるんだろうか? あの機体は間違いなくエディさんのだし、この声もエディさん本人に間違いない。だけど、ホワイトファングに乗ってる僕の事が分からないような対応をしている。僕の事を知ってたら、まずい状況でも発生したんだろうか? デカイ奴にはかなりの数の親衛隊が向かっているおかげで、こちらへはあまり意識が向いていない。とりあえず、今は大人しく言葉に従って街の外へとホワイトファングを移動させる。
「ホワイトファング、どう思う? 何かおかしくない?」
「首都の警備という事で何かあるかもしれんが、良く分からん。しかし、良いのか?」
「今はとりあえず従おう。機体から降りる気は無いけどね」
親衛隊はデカイ奴にワイヤーをかけ、街への侵入を阻もうとしているようだ。結局ずるずる引っ張られてはいるけれど、抑える機体を増やせば止められるかもしれない。とか思った瞬間、デカイ奴は急激にひっぱられている方向へジャンプし、そのせいで精一杯ひっぱっていた親衛隊たちは無様に転がってしまう。一応、街の壁からは引き離せたんだけど、親衛隊にもそこそこ損害が出ているようだった。
フォオオオオオオォオオオオオーッ!
そして、こちらを威嚇するかのように咆哮をあげるデカイ奴。まだまだ戦意は衰えていないようだった。