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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
ステップ!
196/293

リターンエース

朝日がまぶしい。昨日はちょっと夜更かしをしたので、直射日光が目に沁みる。なんてことは無く、睡眠時間が少し減ったぐらいでは特になんとも無かった。うん、若いっていいね!


僕達が必死に色々考えている中、家に侵入しようとしたサラ家のメイド部隊が五名いた。しばらく反転フィールドを利用した無限回廊を、彷徨ってもらってからお帰り願ったんだけど、また懲りずにやってくるようなら、今度は捕まえてお仕置きする事にしよう。


「コージ、顔が悪い顔になってるよ? 何考えてたの?」

「え、そんな顔してた?」

「うん、すんごく意地悪な顔だった」


よっぽど僕はサラ家のメイド部隊が嫌いなようだねぇ。よっぽど、殺気を向けられたのが気に食わなかったみたいで、メイド部隊が僕のことを探りに来てるのが分かってるから、どうやれば嫌がるかって気がついたら考えてるからねぇ。気をつけよう。ペリカンさんからはお金を借りないと駄目だけど、メイドの行動はしっかり証拠を保存しておけば、後で何かの役に立つかもしれない。


「はぁ。最近は何か色々あってばたばたしてるから疲れてるのかなぁ? ついつい悪巧みしちゃうんだよね」

「ふぅん、そうなんだぁ」


そういえば、最近ちっとも深呼吸してないや。ふー…やっぱり落ち着くねぇ。朝の空気というのもあって、体がしゃきっとするよね。


「コージお疲れなのですか?」

「んー、疲れてるっていえば疲れてるのかなぁ? でも、寝込んだりする程じゃないからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「はぁ、そうですかぁ…」


そうはいってもセリナは心配なようで、僕が嘘を付いてないかじっと見つめてくる。うん、僕の疲れは身体的なものじゃなくて、精神的なもののほうが大きいよねたぶん。そういえば遺跡に魔族が潜り込んでる事ってセリナ達に言ったっけ? あれ? 言って良かったっけ?


「突然、唸りだしてどうしたんです? やっぱりどこか具合が悪いんじゃ…」

「セリナそんなに心配しなくて大丈夫だよ。マスターは頭が悪いだけだからっ」

「ヒロコはもう少し僕の事を心配してくれても良いんじゃないかなぁ?」


ヒロコはいつでもマイペースだ。気になる事があれば、なんでも聞いてくるんだけどそうでなかったら、ぼーっとしてる事が多い。いや、ぼーっとしてるというか宇宙とでも交信してそうな目付きで黙っている事が多い。精霊だもんで、自然と会話してるのかもしれないけれどそういうのは人の目を気にして欲しいと思う。


「ボクはマスターの事なら、なんでもお見通しだからね。今もきっとどうでも良い事で悩んでたんでしょ? それに、本当に考えなきゃ駄目なのは婚約者と王子様の事だと思うなぁボクは」

「う」


痛いところをついてくるなぁヒロコは。そうなんだよねぇ、今でさえセリナ達がいるのに、更にお姫様が加わるとなると一体どうなるのか見当も付かない。下手をするとサラさんも加わってくるかもしれないし。いや、メイド達が居るからそれは無いと信じたい。


「でもコージが王子様だーって皆が知ったら驚くだろうね。人気者になったらどうしよう?」

「そんな事にはならないと断言できるけど、貴族の動きが怖いかもね」

「どういう事ですか?」

「んー、王子が冒険者学園に居ると知ったら、貴族のぼんぼんも入学してくるんじゃない? 下手すると僕と面識を得ようとわんさか貴族が来るかもしれない」


王子様とお近づきに…って感じで、同年代の子供を持つ貴族って何かと顔を合わせようとするよね。って、僕が知ってるのは漫画とか小説での話しなんだけども。なんか政治が絡んでくると、本当にぼーっとしたままじゃいられない。


「それは大丈夫じゃないでしょうか。貴族の長子は今グレイトエースに居るはずですし、万が一学園に来るとしても随分先になるんじゃないでしょうか」

「言われてみればそうだった。じゃあ僕が王子だってばれても大丈夫かなぁ」


「大丈夫じゃないわよ? 王子様ってどういう事?」


なんという事でしょう。ミミに撃退されてからとんとご無沙汰だったのですっかり忘れていた生徒会長さんの声がします。しかも、いやーなタイミングで。


「あ、おはようございます。…せ、エイジス先輩」

「ちょっと今の間は何? 久しぶりで名前を忘れちゃいましたって感じだったよね?」


正解です。どっちかというと居なくなってせいせいした気持ちの方が強かったもんでつい。


「また来たんだぁ。うふふ」

「お久しぶりですね、先輩! お元気でしたかっ!」


うわぁっ?! 生徒会長にはとことん強いミミさんが黒くなってるし! ずいっと前に出てきたミミさんを遮るように、大きな声で挨拶をしてミミさんを背中に隠しました。だってなんか怖いんだもの。


「え、ええ元気…じゃなかったよ? コージ君と会えなかったんだもん」

「エイジス先輩…」


うん、嘘だねっ。めっちゃ元気そう…じゃないなぁ、あれぇ? なんか芝居がかった言い方だったんで、また嘘ついてるよーって思ったんだけど、本当にちょっと疲れた感じが漂っている。いつも、ぴかぴかに輝いてる先輩ばかり見ていたのでなんというか驚いた。


「疲れてるなら家に帰ると良いですよぉ? でないと怪我しちゃったりするんじゃないかなぁ?」


ミミさぁあああああん!? そんな言い方すると何かしますよーって言ってるように聞こえるんですけど、気のせいでしょうかぁ?! 口は笑ってても目が笑ってなくて非常に怖いんだけど…うぅ、胃が痛い。


「ご心配なく。コージ君に会えたら元気でてきたし、ねっ」

「あっ!」


そう言って僕の腕を強引にとって組んでくる先輩。確かにさっきよりかは幾分顔色が良くなってきてるようだ。寝不足かなにかなのかな?


「でね、コージ君。君には私の事をしっかり知って貰おうと思って、特製資料を作ってきたんだ。はい、これ」

「なんすか、これは…」


それはあまりにも分厚すぎた。資料とは名ばかりのその分厚い紙の束はもはや振り下ろすだけで人を殴り殺せる武器と化していた。


「って、重っ!? ちょっとなんでこんなもん持ってきたんですかっ!?」

「だって、可愛いミミちゃんに言われたんだもん。自分の事を話そうとしないって。だから、そうやって資料にまとめておけば私の事も理解して貰えるかなぁって頑張ったのよ? おかげで最近ずっと徹夜だし」

「いやぁ、ミミが言ってたのはそういう事じゃないと思うんですが…」


自分のことを知って貰う為に資料を作るとか普通はしません。ていうか、どんだけ書いてきたんですかこの生徒会長さんは。


「勿論、コージ君のことは直接聞くからね。ちゃぁんと、包み隠さず全部話して貰うから覚悟してねっ」


笑顔でそう宣言する先輩は確かに綺麗な人で、普通の人ならときめくんだろうけども今の僕の状態でそんな事はうっかりであってもできない。空気になったヒロコ、我関せずな白夜、僕に何か念を送ってくるセリナ、黒くなったマイエンジェルミミ。堕天使になってないで天使に戻ってミミちゃん。


「そういう事は自然とそうしたいって思うから大事なんですよ、せ・ん・ぱ・い」

「ん? 大丈夫大丈夫問題ないよ。コージ君可愛いし、私も可愛いから」


通じてるようで通じてない会話が流れていく。でも、今の会話で若干ミミの空気が天使よりに帰ってきた。もう少しだ戻ってきてっ天使ミミ!


「で、話は戻るんだけどコージ君が王子様ってどういう事?」


ん? 言ってみ? という顔をして追求してくるエイジス先輩。くそぉ。このまま話が流れていくかと思ったけどそう簡単にはいかないか。さてどうしよう。


「コージは王子様です。勿論、私達の王子様って事です」

「うん、コージはねこの国の王子様って事じゃなくて、ミミ達の大事な王子様でミミ達はお姫様みたいに優しく大事にして貰ってるの」


セリナはセーフだけど、ミミはアウトでしょ。ほら、何か勘付いたみたいで目がキラキラし始めたよ。どっちにしても、この人これでも生徒会長だからそういう通達を受け取れる立場にいるんだよねぇ。早いか遅いかだけで結局知られるのは間違いないから、ここで言ってしまっても問題ないかな?


「はぁ。もういいよミミ、セリナ。この人これでも生徒会長だし今言っても問題無いでしょ」

「えぇ!? どういう事?! コージ君が私の王子様になってくれるの? それでそれで優しくお姫様扱いしてくれるのぉ?!」

「ちょっ違うっ違いますから、顔を近づけないでっ?!」


なんだか急に興奮しだした先輩をなだめて、落ち着いた所で僕がこの国の王子で、近々そのお触れが出るという事を簡単に伝えた。


「んー王子様なんだ。へぇ。普通ならここで畏まる場面だろうけど、敢えて私はそのままを貫くわっ! そしてコージ君は私を貫いてっ!」

「何さりげに下品なことを言ってるんですかっ?!」

「あらぁ? やっぱり男の子なのねぇ、分かるんだ?」

「何を貫くのぉ???」

「…」


僕にしがみついたまま、にやりと笑う生徒会長、何か理解していないミミ、理解して真っ赤になっているセリナ。ヒロコはなぜかしきりに頷いていて、白夜は何かを確認するかのようにスカートの股の辺りをぱんぱんと叩いている。ちょっと女の子がそんなはしたない事しないで!


「でも、せ…エイジス先輩はなんというか凄いですね。なんかちょっと嬉しいです」

「えー? 褒めるぐらいならちゃんと名前呼んでよ」


いつもはおちゃらけた感じはあるけども、王子という事を知っても態度を変えずに接してくる先輩。僕は王子という肩書きがついただけで態度を変えて欲しくなかったから、そういった事を言わなくても理解してくれた先輩は、本当に凄いと思う。意外と僕のことを見てるんだなぁって、ちょっと、いやかなり先輩を見直した。


「そうですね、これからも宜しくお願いしますねええっとぉ…」

「まさか、私の名前が分からないとか言う…言っちゃうのね? そう! そうなのねっ!?」

「えへへっ」

「笑って誤魔化さない! まったくもうこんな扱いを受けるなんて初めてよ! 私はアイシャ、アイシャ=エイジスよ! ちゃんと覚えておいてね?」

「はい、よろしくですアイシャ先輩」

「デレた! コージ君がやっとデレてくれたよ!」

「デレてねーよっ!!!」


デレては無いけど名前を呼ぶぐらいは構わないかなって程度なんです。でも先輩とは友達になれるかもしれないとは思う。たぶん…きっと。


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