飛ぉおんでいけぇー!
問題は山積み~♪ なぁんにも~でき~ない~♪
あ~…本当どうしよう。リリーさん婚約者発覚だし、それに併せて僕が王子という事も公表するだろうし、サラさんの家のメイドさん達に襲われそうだし、遺跡には魔族が忍び込んでるし、いつまで経っても僕専用のフレームの資金が貯まらないし。
なんと言ってもリリーさん。あの人になんであんなに見栄を張っちゃったのか… 飛行フレームの隊長さんが間違ってない事を証明したい為に、あのお姫様に馴れ馴れしく話しかけていたんだけど、家に来てくださいとか今から考えたらなんでそんな事を言っちゃったのかなぁ。まぁ、ロバスにいる限りあのお姫様が僕の周りをうろうろするのは間違いないだろうから、いっそ家で一緒に住めば良いとか逆切れっぽく思ったのは事実なんだけど。それは結局言い訳でありまして…
やっぱりお姫様っていう響きが僕を惑わせていたんだと思う!
お姫様っていう肩書きだけで、なんと言いますか魅力が五倍増し? なんだろう僕って意外と肩書きに弱い人間だったのかなぁ…今後気をつけておこう。
「ほれどうじゃ主? 可愛いかろ? ため息なんぞついとらんで良く見るがよい」
「白夜ちゃんもなかなか可愛いわねぇ~」
白夜が着物を着て僕の周りをくるくると回って見せてくれる。黒い生地のところどころにうさぎがぴょこんと飛んでいる柄で、白夜には大人しめな感じがするけれどこれはこれで中々似合っていた。
「やっぱり着物は良いねぇ。白夜も可愛くなったし、これからは着物で過ごす?」
「そ、そうか可愛くなったか? じゃが、これをずっと着るのは大変そうじゃなぁ。主に母上が」
「そんな事ないわよ。毎日着てれば白夜ちゃんも着付けを覚えていくだろうし、着てる人は毎日着てる物だからね。しばらく着物で過ごしてみる?」
「いいのか? なるべく母上の負担にならんようにワシも覚えるようにするが、お願いしてよろしいか?」
「うんうん。いいわよ~」
髪の毛を簡単にまとめてもらって、着物を着て嬉しそうに笑っている白夜。これはかなり目立ちそうである。それに草履をはいてるんだけど、慣れるまでは少し時間がかかるんじゃないだろうか?
「白夜、草履はどう? 足痛くなってない?」
「ん? 少々歩きにくいが、足は痛くないぞ。これでもフレームだからな! ぬっふっふ」
「そういう物なのね。それにしても本当に似合ってるねぇ。これで町中を歩いたらすんごく注目されるんじゃない?」
「そりゃそうよ! これだけ可愛く仕上げたんだもの、目立ってくれないと母さん困る! ミミちゃんには何が似合うかなぁ。それとも着物は難しいかしら…」
母さんは白夜をがっしり捕まえて、ミミを想像しながら何を着せようか考えてるみたいだ。とりあえず、良い目の保養になりました。あ、そうだ僕の婚約者の話って母さんは知ってるのかな?
「そういや母さん?」
「ん? なになに」
「なんか、僕に婚約者がいるって話知ってる?」
「うん、勇司さんから電話貰ったわよ。なんでもお隣のお姫様らしいじゃない、今朝早くにこっちに向かってるそうよ? それに併せて光ちゃんと母さんのお触れ? もするらしいけど。でも、ここにはそのまま住めるらしいわよ~」
あ、僕の渡した電話をちゃんと活用してるのね。ていうか父ちゃんマメだなぁ。
「実はその婚約者をさっき百夜と一緒に救出してきたんだ。だから、もうロバスに来てるよ。本当にお姫様だった」
「え、なんで家に来ないの? 母さんもお姫様見たい」
僕のお姫様好きのDNAはこの人から受け継いだんだなぁ。お姫様という単語にものすっごく目を輝かせすぎだよ母さん…
「そりゃあ、一般市民の家にはお姫様を置いておけないでしょ? 一応まだ父ちゃんからの通達は伝わってないから僕は王子じゃなくて、普通の市民なんだから」
「何よそれ、つまんない。光ちゃんもなんでそこで黙ってるのよぉ、お姫様をかっさらうぐらいの気位を持ってても良いんじゃないの?」
「だって、ここの役人さんも頑張って仕事してたんだもん。それに、王子って通達がいけばお姫様も家に来てくれるはずだから、それまで我慢してよ」
なんと言いますか、母さんはお姫様を見たかったようでぶーぶー文句言ってます。ちなみに白夜は母さんに捕まったままであります。がんばれ百夜。というか、母さんも王妃になるんじゃないでしょうか…
「見るのとなるのは別問題。生まれつきのお姫様とか、いじりがいがあるじゃないの!」
さようで。
「で、主よ。セリナ達にどう言い訳するか考えたのか?」
「そんなのまったく思いつきませーーーん! いやもう本当にどうすれば良いのよこれ!」
「んー、既成事実を作れば収まるんじゃない?」
「さらりと凄い事言うな?! それって親としてどうなのよ、親として!」
そんなだから週刊誌とかに乱れる未成年とか早熟すぎる性生活とか、好き放題書かれるんだよ?
「だってここ異世界だし? こっちじゃセリナちゃんでも行き遅れらしいじゃない。ミミちゃんが一番年上だけど、あの子良く我慢してるわよね。母さん感心しちゃうわぁ」
「セリナはもうすぐ十八だっけ。うーん、昔の日本みたいな感じなのかなぁ」
「それぐらいで考えてて良いんじゃない? がんばれ光ちゃん!」
なんか真顔で応援してくる母さん。そりゃあ僕だって男だし、そういう事に興味がないわけじゃないけど、結婚かぁ。うーん、それよりまずは清い交際からと言いますか、こう段階を経て結婚という形に持って行きたいとか思うんだけど。人によってはする事してから付き合いだすという人も居るのは知ってるんだけどもねっ!
「そんなに悩んでても、なるようにしかならないわよ。セリナちゃんもミミちゃんも光ちゃんと一緒にいれれば満足って感じだし。健気よねぇ」
「でも、貴族を打倒するまでは結婚とかはしないほうが良いかなぁって思うし…」
「ダメねダメダメ。とりあえずやっちゃいなさいよー! 貴族の打倒なんてそんないつ終わるか分かんない事待ってたら、ミミちゃん達おばあちゃんになっちゃうわよ! 光ちゃんもせっかくこっちに来たんだから、もうちょっとはっちゃけなさいよ!」
「母さんははっちゃけすぎだよ」
うーん、だけど母さんの言う事も一理ある。貴族の打倒なんて今のままだと本当にいつ終わるか分からない。それに協力してくれる人間を探して行かないと駄目だし、活動資金もやっぱりそれなりに必要になってくるだろうし。それを考えたら時間がどれだけあっても足りないよね。ミミ達を安心させる為にも何か形になるものを渡しておくべき、かな。
「よし決めた! ミミ達にも婚約者になってもらおう! そんで指輪を贈っておけば少しは安心するよね?」
「えー指輪も良いけど子種は?」
「母さんはそこから離れようね、うん。さっきから母さんそればっかり言ってるからね?」
それに子種は子種で、誰を最初にするかという問題があります。うん、自分で考えてて恥ずかしくなってきたよ。
「うふふふ。最近は光ちゃんもミミちゃんが気になってるみたいね。母さんの作戦をしっかり実行してるようね」
「何をぼそぼそ言ってるの母さん?」
「なんでもなーい♪」
また何かろくでもない事を考えてたんだろうね。すごく悪い笑顔だったし、気をつけよう。とりあえず、指輪にも色々と機能を付けてから贈る事にしよう。
「セリナ、帰ろう!」
授業が終わったから早く帰りたい。今日もコージは百夜と早退しちゃったから、コージ分が足りなくなってきた。
「はい、帰りましょう。ヒロコも早く」
「ほーい」
今日はコージが居ないから、クラスの人達にすごく構われたんだけどやっぱりコージが居ないと寂しい。今も寄り道していかないとお誘いがあるけど、全部振り切ってコージが居る家にまっすぐ帰りたい。
「ミミ、ちょっと待ってください。いい考えがあるんです」
「え、早く帰ろうよ」
いい考えが何か分からないけど、走ったら十分ぐらいで家に着くよ? あれ? なんでセリナはソファーを出してきて、手招きしてるのかな?
「はやくここに座ってください。でないと置いていきますよ?」
「え、帰るんじゃないの? なんで座るの?」
「ふふふ、騙されたと思ってここに座ってくださいな」
むぅ、早く帰りたいのに…
「では、行きます! しっかり捕まっててくださいね! “炎よ炎よ! 我が身を助け我が意のままに天を駆け登れっ! ツインジェット!”」
「はわっ!?」
ソファーが飛んだ。凄い勢いで空へ向かって浮き上がり、町を見下ろす所まで上がったかと思うと一直線に家に向かって凄い勢いで飛んで行く。
「すごいすごーい!」
「コージさんの魔法です。これなら早いでしょ?」
「うん、くねくね道を曲がらなくていいから早いね、これ! セリナ凄い!」
それに空は誰も居ないから、何も避ける必要がなくて本当にまっすぐ家に帰れる。というかこれコージの魔法って言った?
「セリナ」
「はい、なんでしょう?」
「この魔法いつコージに教えてもらったの?」
「え?!」
すごく分かりやすく目をそらすセリナ。ふふふ、最近セリナも抜け駆けが上手になってきたよねぇ…ミミが母さんと遊んでた時にでも二人きりになってたのかな?
「別に二人きりで、密着して魔法を教えてもらったわけじゃないですよ? キスしたわけじゃないですし?」
つまりは魔法を教えてもらうついでに、ぎゅっと抱きついていちゃいちゃしてたと。あまつさえお礼と称して熱いキスをして貰ってたという事でオーケー?
「うん、キスしたんじゃなくてされてたもんねセリナ」
「あっ!?」
よし、帰ったら同じ事をコージにして貰おう。勿論、二人の目の前で見せ付けるようにね。