誰も知らない王子
はてさて困ったぞ。ゴロックを倒して、ハイローディスの一行をロバスまで案内してきたのは良いんだけども、今回は先触れを出す前に町に着いちゃったもんでロバスの方が受け入れ態勢を整える暇がなく、リリーさん達は現在宙ぶらりんの状態なのです。先ほど提案したように、僕の家で滞在して貰おうと思ったんだけど、ここで一つ問題が。
「国賓を一市民の家でもてなすというのは、前例がありません」
「だから、この方はユージ王のご子息で一市民ではないと言ってる! この王からの封書に書いてあるはずだ」
「それだけでは証拠とは言えません」
要約すればさっきからこれの繰り返し。飛行フレームに乗ってきた人とロバスの役人さんでずーっと言い合いをしております。王からの封書に書いてあるとは言え、この場で開封する訳にはいかないよねぇ。開けたくなる衝動に駆られてはいますが。
ハイローディスの一行なんて厄介なものを受け入れるって言ってるんだけども、市民の生活に支障が出るのはまずいと考えてくれているのか頑なに了承しようとしないロバスの役人の方。でも、いつまでもここで押し問答していても解決しないんだから、僕の所で良いんじゃないのかなぁ?
「評議会委員の一人ペリカン氏が受け入れを了承して下さった。なのでそちらの方が負担する必要はございません。ここまでの護衛に関しては後ほど礼をさせて頂きますのでこの場はお引取り願いますか?」
しっかり役人さん達は仕事をしていたようで、さっそく受け入れ先を確保してきたようだ。しかもペリカンさんって事は大富豪だから、問題ないねうん。
「あぁオーロさんの所ですか、なるほど。分かりました、それでは失礼させて頂きます」
「ちょっとコージさん? コージさんのお宅に行くお話しはどうなりましたの?」
「んー、僕が王子だっていう証明がねできないもんだから、一時お預けという事で。父ちゃ…王様からのお触れがあれば、信用して貰えるんだけどね。ごめんね」
気が抜けた拍子に素のままで話しかけてたら、リリーさんに敬語は止めてくださいと言われた。最初は気後れしたんだけど、普通に話しかけるようになりました、だって楽なんだもん。ハイローディスのお姫様って意外と庶民的なのですなぁ。
「また不思議な事情ですわね。情報として知ってましたけど、本当に告知してらっしゃらないのですね。でも、証明できましたらコージさんのお宅へお邪魔しますから、準備しておいて下さいね?」
「うん、分かってるって。それじゃあ、またね!」
お姫様とロダンさんに軽く挨拶をしてその場から離れる。ある程度意識して、お姫様に気軽に話しかけていたのは、なんというか僕が王子だと言い張ってくれていた飛行フレームの隊長さんに対する配慮と申しますか。これだけ隣国のお姫様と気安く話しかけていたら、ロバスの役人さんも覚えてくれると思うし、一般市民がお姫様にこんな話し方をしないはずだしね。でも、疲れたっす。
「では主、家に戻るとするかの」
「そうだね白夜。ごめんね度々早退させちゃって」
「なんのなんの。主と二人きりでお出かけできるのじゃて、なんの不満があるものか。むしろ、もっと呼び出して貰っても構わんぞ」
申し訳ないと思ってる僕を気遣ってそんな風に言ってくれる白夜。風貌が日本人っぽいので、笑顔でそんな風に言われるとやっぱりどきっとする。言葉遣いがあれだから、なんとか我慢できてるけども。セリナやミミやヒロコがいくら美人だとはいえ、やっぱり海外というか異世界の人なので、映画の向こうの人っていう感じがするんだけど、黒い髪で日本人っぽい顔の白夜だと、すごく身近に感じられるんだよね。
ご機嫌で僕の腕を取り、頭を傾けてくる白夜は本当に可愛い。中身は破壊大好きルーツだけどもね。すると、僕の視線を感じたのか白夜がこんな事を言ってきた。
「何じゃ主よ。ようやくワシの可愛さに気づいたのか? 良いぞ良いぞ。今は特に気分がいいので、なんでも言ってみ。家に帰ってからたっぷり言う事を聞いてやるゆえ」
「…こんな人通りの多い所でそんな事を言わないの。みんなびっくりしてこっちを見てるでしょうが。まったくもう…」
「赤い顔でそのように言っても、説得力が無いぞ? ほれ、嬉しいであろ? なにをしてもいいんじゃぞ?」
「ていっ!」
「あだっ!」
なんか調子にのってる白夜にチョップをお見舞いする。そんな顔を赤くするぐらい恥ずかしいなら言わなきゃいいのに、うちのお嬢様たちは僕が照れるような事をするなら、少しぐらい恥ずかしくても躊躇いなくしてくるんだよねえ。でも、折角だし一つお願いしてみようかな?
「白夜、一つお願いがあるんだけど」
「お、なんじゃ?」
「着物を着てみて欲しい。きっと似合うと思うんだ」
「着物…か? どういうものかは知らんが、着るという事は要は服であるのだな?」
「うん、着付けはたぶん母さんができると思うから、帰ったら母さんに聞いてみよう」
白夜には着物が似合いそうなんだよね。ミミ達が着ても可愛いだろうけどもやっぱり日本人っぽい白夜が一番だろう。母さんも似合いそうだけども。今日は早退しちゃったし、時間はたっぷりあるから母さんと着物の準備をする事にしよう。
正直驚きました。ホワイトファング、元デストロイヤーと呼ばれていた機体。コージさんが動かせるようにしたと聞きましたが、あれは特殊すぎます。ライダーを選ぶという事もですが、会話をこなしあまつさえ人型に変化するなど、見た事も聞いた事もありません。あのような機体があれば、要人暗殺など容易くできてしまいます。しかも、あのルーツには故障箇所が無いようで、完全に性能を発揮できる状態にあるようです。
「ホワイトファングですか。あれは欲しいですね」
「姫様。口に出てますよ。お気をつけ下さい」
つい口に出ていたようですね。ですが、自我のあるフレームですか…強引にでも奪っていきたい所ですがまずは仲良くなって、言う事を聞いて貰えるようにならねばだめでしょうね。そしてマスター認証をどうにかすれば、あるいは持ち帰れるかもしれないです。でも最優先事項はコージさんをおとすのが一番ですわね。彼をモノにしてしまえば、周りの者もまとめて付いてくるはずです。魔道の天才セリナ、テスタロッサ家の忌み子ミミ、ホワイトファングこと白夜。あと一人は良く分からないとの事ですが、どう調べても過去を洗えないという事は逆にとんでもない事かもしれません。
王子という事は知られていない筈なのに、とても良い人材を集めてるようです。いったいどのような手管で、口説いたんでしょうね。私も警戒して事に当たらねば、食べるつもりが食べられたという事になりかねません。今回、飛行フレームや役に立つフレームの技術を国に持って帰りさえすれば、自由に私のフレームを乗り回せると約束させました。なので、何としても技術を首尾よく行けば人材も確保していくつもりで頑張りましょう。
「ですがお嬢様。コージ王子のお屋敷の場所はご存知で?」
「いえ、ロダンが調べてるのでは無いのですか?」
「存じ上げません。王子と一緒にフレームに乗っていたので、そこらへんはしっかり聞いていると思ってましたが、その様子では違うようですね」
しくじりましたわ。フレーム談義に花を咲かせていたせいで、そこら辺の事は頭からすっぽり抜け落ちてました。でも、同じ町にいればそんな物はすぐに調べが付くはずです、何も問題はありません。でもコージさんはおかしな方ですわね。王子と周りに言っておけば今回もこんな事にならなかった筈ですのに。あまり王族という立場には興味が無さそうな事を言ってましたけど、そういう方もいるのですね。ここは私がたっぷり王族の良さを伝えて上げるべきですね。えぇ、是非そうしましょう。