ガーディアンテスト
うーん、サラさんの家から逃げ出してきたのは良いんだけど、これから帰って作業するのも気分が乗らないし、かといってのんびり買い物をする気分でもないんだよねぇ。うーん、どうしようかなぁ。困ったなぁと腕を組んで考えてると、ふと昨夜徹夜で作ったカードを思い出した。
この間、金策が持って帰ってきたカルテットからアイデアを拝借して召喚メカを作ってみたのだ。カルテットは一体につき一機能しか持たせてなかったんだけども、僕は四肢で機能を分けられるように変更してみた。カルテットに組み込まれていた魔力を吸引する装置と物質変換装置を見よう見真似で再現して組み込んである。あとは魔力カートリッジも装着可能にしてあるので、それなりの時間稼動できるはずである。ただ、所詮は机上の空論なので、実際に戦闘機動をした場合の稼働時間は分からない。
「たまには僕も体を動かしてみるかな、うん」
ギルドカードはあるから、このまま遺跡に直行してみましょう。でも、その前にサラさんの家から付いてきてる人を撒いてしまいますかね。指輪から外套を取り出して、すっぽりと被る。そして、裏路地へとふらふらと移動していき角を曲がってすぐに光学迷彩を発動させ、物陰でじっと待ち構えておく。
しばらく待ってると案の定、サラ家のメイド部隊らしき人達が角を曲がってきた。さすがにメイド服じゃなかったけど、角を曲がってきょろきょろと人を探して挙動不審になってるので、たぶん間違いないと思う。そして、目をつぶってしばらく黙って立ち止まっていたんだけど、そのまま道を進んで行ってしまった。
大丈夫とは思うけど僕は念のため光学迷彩を解除しないまま、その場を後にした。
その後は何事もなく遺跡へたどり着き、エレベーターを使って八十階層までやってきました。ここら辺だと、敵の数もかなり増えてきてテストには丁度良い環境なのです。さすがに百階層は下手すると危険な場所なので、ここら辺がベストなのであります。
「ガーディアン、出ておいでっ!」
手元から一枚召喚カードを取り出して、掛け声と共に地面に投げつける。床に投げられたカードのガーディアンの絵柄が、そのまま立体化して目の前に出現した。そして、ガーディアンは僕に向けて右手を掲げ待機状態となっている。僕はその手に向かって左手を合わせてマスター認証を行う。ガーディアンのアイモニターがキラメキ認証が終了する。
「ほいじゃ、今から探索するけど君だけでモンスターを倒してくれるかな?」
僕がそういうとガーディアンは僕に向かって、スクリーンを表示させて確認してきた。
“任務:迷宮探索。魔物の討伐とマスターの保護。但し、マスターの保護を最優先とする。以上で問題なければYESをタッチして下さい。追加があれば口頭でお願いします”
ふんふん。たったあれだけ言っただけでここまで理解してくれるんだねぇ。
「ほい、オッケーっと。じゃあ早速行こう!」
了解の合図とばかりに、ガーディアンは僕の先頭に立ち迷宮へと踏み出して行った。僕は魔力カートリッジに魔力を込めながらガーディアンの後に続いて歩き出す。ガーディアンはあたりを警戒しながらも、大胆に迷宮内を突き進んで行く。たぶん、マッピングしながら進んでいるのかな? 後でそこらへんも聞いてみよう。
八十階層にはオークが出てくる。こんな階層にオークと思う事なかれ。パワードスーツとかをちゃっかり装着しているので、結構侮れない強さを誇るのでございます。確かに、一体だけだと、そんなに強く無いんですけど何せやつらと来たらポピュラーな雑魚モンスターだけあって数だけはすごいんです。しかも、ここの階層にいる奴はほんとにオークかと疑いたくなるぐらい、賢いんですよね。やっぱり、環境によって魔物の強さも変わっていくという事なのでしょうか? というか、魔物のくせにパワードスーツをどこで見つけてきたんだろうか…
「ブヒィ~…」
ですが、目の前でオークを容赦なく惨殺していくガーディアンの姿がありました。機械だからでしょうか、すんごく冷静で情け容赦ないです。遠い間合いでは、赤にて射撃をしまくり向こうからの射撃は緑で対応してまったくダメージを負いません。それで近くに寄ってくれば青に変化して、片手は赤。撃って斬って走り回って並み居るオーク達を蹴散らしていきます。時々、右足だけ緑に変えたり赤に変えたりしながら防御したり、射撃したりして、メカらしい関節の動きで敵を翻弄しておりました。その上で、僕に攻撃がこないようにしっかり守ったり、撃退したりするので文句のつけようがありません。
「うーん、手足をまさに道具として上手く使ってるなぁ。瞬時に計算してるんだろうけど、ここまでできるとは思わなかったなぁ」
三十体のパワードスーツ着用のオークが五分も持たずに壊滅するのは、ちょっと張り切りすぎだと思うんだけども… ガーディアンのなかなかの容赦の無さに驚いております。
今は倒しきったオーク達を赤で焼却処分しております。あれだけ攻撃や変化をさせていても、魔力が足りないという事はないらしくむしろ余り気味な感がある。うーん、魔物から魔力を補充してたりするのかもしれないね。ちなみにオークが焼却処分されているのは、高そうなアイテムは既に指輪に入れているからです。
その後も次々に出てくる魔物やメカを危なげなく撃破していくガーディアン。勿論、僕に毛ほどの怪我も無く、ガーディアンの能力の高さを十分に見せ付けてくれた。一体だけでこの強さかぁ…十体出せばかなりの戦力になるよね。命令を間違うととんでもない事になるだろうけど。さすがにミミのような近接能力はなく、セリナのような砲撃能力までは無い。だけど、その両方の強さに迫る能力を併せ持つので総合的な強さは、あの二人にまったく歯が立たないという訳ではない。遺跡のお供に十分な能力である。
「これなら金策の旅のお供についていけるね。うんうん」
あら? なんか僕以外にもこの階層に来てる人達がいるみたいだね。向こうから警戒しながら移動してくる音が聞こえてくる。今は八十五階層まで来てるんだけど、遺跡の調査に来てる人達なのかな。冒険者はあんまりここまで深く潜って来ない傾向にある。何故かというとお金をある程度稼ぐだけなら、三十階層とか四十階層でも十分に稼げるからだ。どんな人達がここまで来てるのか気になったので、ガーディアンに作業を中断させ、一旦カードへと戻す。その上で外套を着込んで光学迷彩でじっと息をひそめて様子を伺う事にした。
「…大量のオークの死体か。まだそんなに時間が経ってないな。俺達以外の探査チームは無い筈だよな?」
「予算が無いので私たちだけと聞いています」
オークの死体を見て警戒した様子で辺りを伺う調査に来てる人達。全部で八人のパーティのようだ。多すぎず少なすぎずといった感じである。
「最近、多発している事件に関係しているんでしょうか?」
「あれは浅い階層での話しじゃなかったか? ここは八十五階層だぞ。それにさっきもレッドベルドリアンが襲ってきたから、特に魔物の数が少ないとは言えないと思うが…」
赤ワニさんを倒してきたのかこの人達。なかなか強いんだねぇ。
「隊長、そろそろ休憩しませんか? ここにオークの死骸があるという事は、多少は安全なはずですし」
「そうだな。近くに小部屋が無いか探して、そこで休憩を取る事にする。百階層まで後少しだが気を抜かないようにな」
よく見れば何人かは少し怪我をしている様子で、今はとりあえず応急処置だけをして移動している最中のようだった。回復魔法をかけたい衝動にかられるけども、こんな所に一人だけで来てるのが知られると、何かと詮索されそうなのでぐっと我慢しておいた。とりあえずエレベーターまで移動して、五十階層ぐらいでちまちま稼ぐとしますか。