最近僕はモテ期?
ゴロックに襲われたハイローディスの使節団の一行をケージに入れてロバスまで運ぶ事となった。なんだろう、ケージのこの便利さは嬉しいけれど複雑な気分だ。一行がいるので戦闘機動なんてできないけれど、陸路を行くよりはるかに早くロバスへ行ける。
「この機体は何故飛んでるのでしょうか? あちらの飛行フレームについてる物はこちらには装備されてませんのに」
何故かちゃっかりホワイトファングに乗り込んできているリリーさん。意外とフレームの事を良く知っているようで五桁のルーツ、デストロイヤーの事を知っていて今まで誰も動かせなかったルーツに興味津々の様子だった。
「こっちは魔法を利用して飛んでるんですよ。どうやってるかは内緒ですけどね」
「うーん、内緒ですか。残念です」
「ふふん、そう簡単に分かる物ではないぞ。なんといっても我は特別だからの」
そうホワイトファングが得意げに語る。リリーさんが乗り込んで来た時に、ホワイトファングがべた褒めされたもんだから、さっきから上機嫌である。
「私の国にもルーツはあるのですが、このように会話できるルーツではありませんし、四桁ですのでいま一つ突き抜けて居ないのです。正直言ってうらやましい限りですわ」
「それでも、一般のフレームより強いんですよね?」
「強いのだけど、癖がある機体ですし攻撃より守りの方に特化されてる機体なのです」
いろいろと特徴があるもんなんだねぇ。ルーツって強いんだけどワンオフな機体ばかりって事かな。何のために作られたかも良くわからないし。
「リリーさんはフレームにお詳しいんですね」
「えぇ。一応専用の機体も用意しておりますわ。あまり乗る機会が無いので少々寂しいのではありますが」
いやぁ、魔石獣とかと戦う事が無い限りそういう物騒な物に乗る機会なんて無いですよ、普通は。しかもお姫様なんだし。
「そういえば、先日は私どもの親衛隊がご迷惑おかけしたようで」
「なんのこと?」
そういえば、青で統一された機体が国境を越えてきてたねぇ。
「ふふ、誤魔化さなくても宜しいではないですか。貴方がたったの一機で我が方のフレーム十機を退けたのは紛れも無い事実ですわ」
「は、ははは」
公式発表ではあの青い機体の部隊は、魔石獣を追って山脈を越えた所で遭難したという設定だったそうだが、あんな所まで追いかけてくる意味が無いし、魔石獣の足跡なども特に発見されなかったから嘘っぽい。まぁ魔石獣は休眠状態に入ってしまえば探すことも困難だから、そんな事は無かったと証明するのも難しいんだけどね。しかし、まさか向こうからこの話題を振ってくるとは思わなかったからびっくりしたよ。
「そのような政治臭い話は置いておきまして。コージさん、お願いしたい事があるのですが宜しいです?」
「なんでしょう?」
「必ず引き受けると答えて貰わないと、言えない事なのですが」
リリーさんの紫の瞳がぶれる事無く、まっすぐに僕の目を見つめてくる。なんというかつい従ってしまいそうな雰囲気が辺りに漂う。
「そう身構えなくても大丈夫ですわ。気軽にはいと言って頂ければ良いのです」
「分かりました。なんでも言って下さい」
「うふ、ありがとうございます。お願いというのはロバスに着いてから、街の案内をして頂きたいのです。二人きりで」
「二人きりですかっ。えぇっとうん、男に二言は無いです、僕で良ければ案内します」
街の案内ぐらいなら大丈夫だね、良かった。でもとりあえず、これだけははっきり言っておかないと駄目だね。
「それでリリーさん。先程おっしゃってた婚約の話なんですが、はっきりするまでその話は無かった事にして貰えませんか?」
「ユージ王から聞いた話ですから間違いの無い話ですけども、私が婚約者だと嫌ですか?」
「そういう訳ではないのですが、結婚する相手ぐらいは自分で決めたいのです。それに王子とか柄じゃありませんしね」
僕がそういうと意味深な笑みを浮かべるリリーさん。
「それなら、私とコージさんが好きあえば何も問題は無いという事ですわね。すでに四人ほどそういう相手がいらっしゃると伺ってますけど、要は一番になれば良いのですわ」
うぇっ?! なんかリリーさんはこっちの事情を把握してらっしゃる? ならば分かって貰えるのではないだろうか。僕が女性と仲良くしてるとどういう目に遭うのか…
「なんなら、これからは二人で暮らしましょうか。それなら、何も怖い事はありませんよ?」
「ほぼ初対面の人と二人で暮らすとか、無理です」
いくら美人とはいえ、いや美人だからこそ二人で暮らすとか無理ですから。なんだろう、最近女性が僕に絡んでくるよね。学園でもエリーが気がつけば擦り寄ってきているし、レインボー先輩も何故か教室の前を巡回コースにいれてるし、フレーマーがサラさんに捕まってるし、生徒会長はミミに嫌われてから音沙汰ないんだけど、それが逆に怖いし。これが所謂モテ期なのでしょうか。
「それでは、おおっぴらには言いませんけど婚約者という私の肩書きはそのままにさせて貰いますわ。でないと、後から来た人間は不利ですしね」
「そういう事で差別とかはしませんよ。そろそろロバスが見えてきます」
「空を飛ぶとここまで早いものなのですね。ゆっくりと街道を通ってるのが馬鹿らしくなりますわ」
強引に話題を変えたけど、僕の意を汲んで話に乗ってくれるリリーさん。うん、なんかこの人って冷静というかカッコいい所あるよね。こういう人ならちゃんと話をすれば理解して貰えそうだ。良かった良かった。
「安心するのはまだ早いですわよ、コージさん。まだもう少し時間がありますので、コージさんの事を教えて貰えませんか?」
「ほわっ?!」
リリーさんが横の簡易シートから僕のほうへと身を乗り出して抱きついてくる。香水のすっきりとした香りが僕の鼻腔をくすぐり、右腕にあたる柔らかな感触とすべすべのお肌にさらさらと流れ落ちていく髪。そして下から覗き込んでくる美少女の顔。うっ…
「主よ、そのようなしまりの無い顔をしておるとセリナにまたぞろお仕置きを食らうぞ」
「おおっ、助かったよ白夜。うん、危ない危ない。リリーさんもう少し離れて貰えますか? 下手なことをして操縦ミスったら嫌ですし」
「もう意地悪ですね。コージさんがどう思ってるか知りませんけど、私は婚約の話に乗り気ですから、そのつもりで居て下さいね」
隣の危険な軍事大国のお姫様。そんな肩書きのお姫様が僕の婚約者なんだけど、いまこうして笑顔を見せてくれる様子からはそんな危険な響きを忘れるほどに、無邪気な面をリリーさんは見せてくれていた。
資料で見た情報とは大違いですわね。四人も家に囲っているというから、どれほどの美形かと思いましたら別にそういう訳ではないですし、可もなく不可もなくといいますか、むしろ地味目ですわよね。背もそんなに高くないですし。性格もどちらかというと、温厚で女性が苦手な感じですね。コージさんの何をどうすれば女性を惹きつけるのでしょうか? まぁたしかに、ちょっと迫ってみただけでみっともなく慌てたりする所や笑顔は可愛いかなって思いますけど、それだけでは少々決定打に欠けると思うのですが…
「それじゃあ、東ブロックにまわるね。今、そっちに住んでるんだ」
「はい、お任せしますわ」
ロバスの魔石獣寄せの塔ティンラドールがよく見える。正直、町の中心にそのような物を建造するとは正気の沙汰では無いと思っていたのですが、フレーム開発の町というだけあって常に押し寄せてくる魔石獣の脅威に効する事ができているようですね。
そして、東門が見えてくると急激にスピードを落とし旋回を開始するホワイトファング。デストロイヤーという名前は捨て、新たにコージさんに付けて貰ったらしい。五桁とはいえルーツだけあって凄い性能で、今もまったく揺れる事無く静かに東門へと降り立っていく。コージさんを見ると、鼻歌まじりで操縦していてフレームに乗るのが大好きなのが良く分かる。
「あ、町の中に入るのに手続きとかしないと駄目だよね?」
「えぇ、さすがに手続き無しで町の中に入れないですわ。でも、ロダンが手続きを済ませてくれますので、特に何もする事はないのですけどね」
「あ、そうなんだ」
フレームを操縦して気分が良くなったのか、コージさんの口調が砕けた物になっています。本当にどこにでもいる普通の男の子という感じです。それにこのようにざっくばらんな態度は中々に新鮮なものです。
「あとでコージさんのお宅にお邪魔して宜しいですか?」
「あれ? 家に住むんじゃないの? あてが有るならそっちに行ってくれても構わないけど」
「よろしいんですか?」
「うん、部屋は余ってるしリリーさんのあの家も合体すればなんか使い勝手の良さそうな家になりそうだし。庭もまだ余裕あったから大丈夫だと思…います」
今まで視線はずっと私から外れていたのですが、話してる途中で私に目を向けてようやく誰と話をしているか思い出したようで、取り繕うかのように語尾が変わっていった。可笑しい人ですね。
「別に無理に口調を変えなくても結構ですわ、コージさん。普段通りの口調で話しかけて頂ければ私としましても嬉しいです」
「あ、ははは。ごめんね、丁寧に話しかけてるつもりだったんだけど、つい素が出ちゃって」
こんな感じですけど、この方ってフレームの操縦がとても上手なんですよね。今も玄人好みの術式モードで流れるような操縦をしていますし。トレースモードだと操縦は簡単なのですが、どうしてもわずかなズレが生じるので極めたい方はほとんどの方が術式モードに変わっていきます。色々とアンバランスな感じの方のようですが、これからは一緒の家に住むのですから、じっくりと調べていきましょう。勿論、ハーレムの方達の事もです。