ゴロック再び
モニターに写る大きな影。これは一度見た事がある。たしか…
「ゴロックだっけ? ミミが一人で倒した魔石獣って?」
「ん、そうだけどどう…ってなんか襲ってるね、これミミは止め刺してなかったっけ?」
「そういえば、ひっくり返しはしたけど止めは刺してなかったかも…」
魔石獣と飛行フレームが三体、大きな家を巡って争っている姿がモニターに映し出されていた。
「これってこないだ来てたハイローディスの人達の家じゃない?」
「そう…かな。まだグレイトエースに着いて無かったのか。にしても、間の悪い人達だねぇ」
「どうする? 根っこに知らせて救助に向かわせる? あれに何かあったら国際問題になるかもしれないし」
「んー…飛行フレームが三体もいれば、大丈夫じゃない?」
「いやぁ、それが見てると空の利点をまったく理解してないパイロットみたいで、飛びながら攻撃せずに、地上で戦ってるんだよね」
モニターを見れば確かに飛行フレーム三機全てが地上に降りて戦っている。これでは、上空から弱点を狙って攻撃ができない。
「一機は翼をやられてるみたいだけど、他のは釣られて降りちゃったのかな。このままだとまずいね。一応連絡しとこうか」
「うん、場所が場所だけに救援には時間がかかるだろうしね」
「ほいきた、あ、もしもし根っこ? 緊急事態発生。ん? そうそう白夜も一緒に戻ってきてロバスとグレイトエースを結ぶ街道で、ハイローディスの使節が襲われてるのよ、うんそうそう。ゴロックがなんかまた暴れてるん。うん、じゃあ任せたよ」
「うーわー…やっぱ地上戦は厳しいね。足が速いならともかくほとんど動かないようじゃ耐え切れないよね」
「ハイローディスの使節団を死守するためか。だけど、飛べるやつは飛んで上から攻撃しないと…」
そう言って歯がゆそうにモニターを見続ける一号と二号。
「衛星にレーザーでもつけとけば良かったね。こういう時見てるだけっていうのは結構つらいものがあるわー」
「さっき連絡したから、そろそろ着くでしょ。ほれ、早速おでましだ」
連絡してから一分弱。モニターは高速で移動するホワイトファングを捕らえていた。
「ホワイトファング、魔石獣だよ。結構でかいけど、たぶん楽勝」
「ならエナジーフィストのみで行くかの。ハンデ戦もたまにはいいもんじゃ」
「いや、それでもたぶん余裕だと思う」
学園の屋上から一気にここまで飛んできた。街道沿いという事で、見落としがないように道なりに飛んできたけど、飛ぶことだけに特化したホワイトファングであればほんの数十秒で目的地まで辿りつける。案の定、大きな魔石獣ゴロックの姿があっという間に視認できる距離までくる事ができた。
「ふぅむ。ならとっとと終わらせるとするかの」
「了解。魔石獣狩りはまた今度時間ちゃんと取って行こうね」
「うむ、頼んだぞ」
ゴロックの弱点は真上の甲羅の部分もしくはミミがやったように、底をざっくり刺せば良い。とりあえず、今にも飛行フレーム三機を踏み潰そうとして足を振り上げているので、すばやく足の下に潜り込み強引に持ち上げてひっくり返す。
「ほい、そいでこれでチェックメイト」
甲羅の底の真ん中、そこへ貫き手を深く突き刺す。それだけでびくっと四肢を振るわせたゴロックは動かなくなってしまった。うん、やっぱり楽勝だったね。そこで改めて襲われていた使節団を良く見る。人型飛行フレームが三機、家の形をした大きな車をかばうようにしてこちらを警戒している。一機だけ中破しているのは、ゴロックが急に現われて襲われたりしたんだろう。警戒されてるのが分かるので、コックピットハッチを開けて敵意が無いことを示す。
「どうもこんにちは。大変でしたね、急にゴロックに襲われて。大丈夫ですか?」
「あぁ問題無い、おかげで助かった。礼を言う。ところで貴殿は何者だ?」
うーん、波風立てずに信用して貰うにはどう言えばいいかな? エディさんの名前を出せば少しは警戒を緩めてくれるだろうか?
「僕はコウジ=H=アースと言います。エディさんの知り合いです」
「その名前は…失礼だが、本当にご本人でしょうか? 念の為、あなたの母上のお名前を教えて頂きたい」
なんか持って回った言い方をしてくるという事は、父ちゃんから話が通ってる人なのかな? 母さんの名前を聞いてくるという事はたぶんそうなんだろうね。
「母の名はるりです。黒目黒髪の女性です」
「ありがとうございます。ご無礼をどうかお許しください」
そう言うと、すぐさま三機の飛行フレームは駐機状態になった。どうやら、詳しい説明は必要ないみたいだね。良かった良かった。あら? 家の中からなんか女の子が出てきてる。
「ちょっとそこのあなた! そうあなたよ! 降りてきて下さらないかしら?」
「どうかされましたか?」
「どうもこうも、直接お礼を言わせて欲しいだけよ。降りて来て下さいな」
どこか高飛車な感じがする女の子だけど、中身は結構律儀な性格なようでそんな事を言ってきた。別にこれぐらいでお礼を言われる事は無いんだけど、ここで降りないと後でなんやかんや言われるかもしれないから、とりあえず降りる事にした。
「初めまして、リリノア=ロデリック=ハイローディスと申します。この度は危地を救って頂き感謝しております。宜しければ、あなたのお名前を教えて頂けませんか?」
僕が地面に降り立ち女の子に振り向くと、優雅に一礼をしそんな口上をのべてきた。名前にハイローディスってあるという事はこの子はお姫様?!
「え、はい。初めましてコウジ=H=アースと言います。ご無事で良かったです」
「うん、聞き間違いでは無かったのですね。あなたがコージ王子ですね。私この度、ハイローディスより行儀見習いに参りましたの。末永く宜しくお願いしますね?」
そう言ってにっこり微笑んでくる日本では有り得ない髪の色の女の子。僕が王子という事を知ってるから、これからグレイトエースに行って父ちゃんとお城で色々修行するのはこの子なのかぁ。末永く宜しくとかなんか大げさな挨拶だけど、ちゃんとそういって挨拶できる人は良いなぁって思う。
「こちらこそ、父ちゃ…いえ、父を宜しくお願いします。僕は訳あってグレイトエースには住んでないんですけど、ロデリックさんが居るなら僕も偶には顔を出すようにします」
「いえ、私はコージ王子の傍でと言いますか一緒に住む事になりましたの。お聞きになられて…ないですわよね、そういえば」
うん、それは初耳だ。というかグレイトエースに行かなくて良いの?
「ええ。コージ王子の傍へ一刻も早く行きたかったものですから、ユージ王には少し拝謁させて頂いただけで、無理を言ってロバスへ向かってる途中でしたの」
「あれ? なんで僕と一緒に住む事になってるの? え? あれ?」
僕が混乱していると更ににこやかな笑顔でロデリックさんが、嬉しそうに伝えてきた。
「それは勿論、私がコージ王子の婚約者だからですわっ」
「いや、僕がお姫様と婚約とか僕はただの一般人なので身分が違いすぎるから無理です」
「? コージ王子は王子なのですから、一般人では無いですわ」
「そういえばそうだった! あぁあっでもっ! いきなり婚約とか言われてもさっぱり分かんないし、礼儀作法とか全然知らないし、政治とかもぜんぜん駄目だめだよっ?!」
父ちゃんも父ちゃんだ。僕がそういうのを知らないのを知ってるくせに、こんな隣国のお姫様を婚約者にしちゃうとか何を考えてるのさ、父ちゃん!!! そうやって、混乱をしているとそっと、彼女の柔らかな暖かい手が僕の手を包んでくる。
「ふふ、落ち着いてくださいな。今すぐどうこうするという訳では御座いませんので、安心して下さい。それに知らない事はこれから一緒に学んでいけば良いのですから、何も問題はありませんわ。勿論、お互いの事も学んでいきましょうね?」
「うううぅ、は、はいっ! じゃなくてえっとなんと言うか、その、あのぉ…」
駄目だ、本物のお姫様だ! なんかすっごく良い匂いがするし、カリスマっていうの? なんかこう目が吸い寄せられて、離せないというか。だけど、なんというか気恥ずかしくて一刻も早く距離を取りたい!
「ふふっ、おかしな王子様ですね。噂とは大違いですね」
「えぇっ!? 僕の噂ですかっ? 一体何て言われてたんですか?」
想像はつくけど、想像が外れて欲しい!
「曰く、女たらしで美女と言えば全てあなたに引き寄せられてしまうという、そんなお話ですわ。でも、こんな初心な方がそうとは思えません。でも、これも演技なのでしょうか?」
笑みをこぼしながら、いたずらっ気満載の目で首を傾げて尋ねてくる。誰だ、そんな噂を流したやつは。そんな所ばかりじゃなくて、もっと他に言える所あるでしょ? …いや表立っては無いのか…くそぉ。
「でも、周りの方には王子という事は伝えてらっしゃらないのですね? 理由を聞いても?」
「この国はうるさい方達が居るという事です。それに王子様って柄じゃないんで。ロデリックさんもそのコージ王子ってのは止めて貰えません? 呼ぶならコージと呼んで頂けるとありがたいです」
「あら、宜しいのですか? そうやって優しくしてくださるのは、私を口説いて下さってると受け止めてしまいますわよ?」
うわーん、別にそういうのじゃないのにぃ~! 王子とか呼ばれるのはなんか、むずむずするから止めて欲しいだけなのに。だれだ、こんなお姫様にまで変な噂を流した奴は!
「お姫様、冗談はそこまでにしておいて下さい。王子も困ってらっしゃいます」
「コージ様、ごめんなさい。コージ様が可愛いのでついからかってしまって…」
突如現われた若い執事の人が、お姫様をたしなめてくれると大人しく謝ってくれた。とりあえず、執事の人に大感謝だ。
「えっと、そのあなたは?」
「失礼いたしました。わたくし、ロダン=バルトワと申します。お気軽にロダンとおよびつけください」
「いえ、その、ありがとうございますロダンさん」
礼を言われるとは思わなかったのか一瞬目を見張ったかと思うと柔らかい笑みで答えてくれた。
「ありがたきお言葉。うちの姫様にもそういう所を見習って頂きたいものです」
「あら、感謝すべき所はちゃんと感謝してますわよロダン」
その言葉には返事を返さず黙って一礼をするのみのロダンさん。なんか仲の良い兄妹みたいにも見えて微笑ましいであります。
「そしてコージ様。私は呼び方を変えたのですから、ロデリックではなくリリーとお呼び下さい」
「はい、分かりましたリリーさん」
そう名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んでくれた。