カウンターアタック!
ガタゴトと揺れる馬車に乗って、わたしは貴族の屋敷に向かっている。
馬車の中には、わたしの他に用心棒と思われる男が二人、脇を固めて座っている。杖を取り上げたとしても、魔術師は油断できない相手だからだろう。
実際に、これぐらいの条件ならわたしでも逃げるのは容易い。
「コージ・・・」
あんな別れ方しかできなかったから、きっと恨んでるだろうなぁ。コージが優しい事はわたしが一番知っている。タタ村が危ないって知れば彼はきっと黙って助けに来てくれるだろう。ましてやわたしが、貴族にさらわれたと知ったら・・・
携帯電話だと絶対に声に出てしまうから、連絡できなかった。貴族に関わったせいでコージが傷ついたり、ましてや死んだりしたら、わたしは自分が許せなくなる。
あーあー・・・初恋だったのになぁ。初恋は実らないっていうのは本当だったのねぇ・・・
涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。こんな所で泣いていたら貴族は喜ぶだけだし、あんな人間に泣いてる所なんて見せたくない。負けたくない。
とりとめとなく、そんな事を考えていると貴族の屋敷が窓の向こうにぼんやりと見えてきた。もう、着いちゃったのか。
「ばいばい、コージ」
屋敷の門構えが、わたしには地獄への門にしか見えなかった。
ひさしぶりに屋敷に帰り、ほっとした気分になる。大勢の使用人という名の下僕。荒事のための兵士達。生意気な平民どもが増えてきたので仕方なく兵士を増やさざるを得なくなった。まったく。貴族が望めば望んだだけ、黙って差し出せば良いものを、最近は平民から成り上がった王の影響のせいか、簡単に差し出さない奴が増えてきた。
まぁ、今頃はその王もすげ替わってる頃だろうけどな。
だいたい貴族でもない奴が王になる事が間違いなんだ。貴族は貴族、平民は平民。流れる血が違うんだから、分不相応な事をすれば天罰があたるに決まっている。勿論、貴族には天罰など当たらず、祝福のみ授かる。
さてさて、今日はひさしぶりにさらってきた小娘を楽しむとするか。最近は、小賢しい奴が増えたおかげで、そういった楽しみも少なかったからな。生娘はひさしぶりだ。
さて、どうやら娘も着いたようだ。
屋敷の大きな門が、静かに開いていく。ガイアフレームを屋敷に入れるだけあってかなり大きな門で、かなり重いはずだがどういう仕組みか、軋みの音ひとつ立てずに開いていく。
大方、金にあかせて強化しまくっているんだろう。こんな所に無駄に金を使ってないでもう少しマシな使い方をしろと言いたい。
馬車が2台、慌てる様子も無く静かに入ってくる。人をさらっておいてこの堂々とした態度。人をさらう事に慣れきっている。まぁ、この屋敷に勤めてる時点で俺も人の事を非難できる立場ではないがな。
今度もまた若い娘が数人連れられてきたようで、誰も彼も諦めきった様子だ。
最近は静かだったのだが、次男のヒューイが帰ってきた途端これだ。あの駄目坊ちゃんは領主から箔をつけろとギルドのランクアップをする為に家を出ていたはずなんだが、まさかランクアップしたんだろうか。ホーババードを捕まえられる人間など限られているはずなのに、どんな魔法を使ったんだか・・・ まぁ、ろくな事をしてはいないだろうな。
ん? 誰か門に近づいてきた。こんな時間に何の用だ・・・?
「変身!!!」
近づいてきた不審な人物がそう叫ぶと、まぶしい光が溢れだし光が収まると、そこには全身を赤い鎧のような物を纏った異形がそこに居た。
「天誅!」
というや否や、何か鉄の棒のような物を取り出し魔法を浴びせてきた。
ババババッバババリィイイ!
鉄の棒を振り回すたびに、雷系統の魔法があたりを打ち抜く。最初に赤鎧を誰何しようとした門番たちがまっさきにやられ、馬車の御者達も巻き込まれた。
魔法が止まるや否や、すでに臨戦態勢になっていた衛兵達が斬りかかっていった。
ギィン! ドンッ! ギギィン! バババババリィ!
鉄の棒は杖かと思ったが、もう一本は剣だったようで斬りかかっていった兵の剣を受け止め、すかさず蹴り倒した。そして何か呟いたかと思うと、さらに襲ってきた兵達の剣を受け止め、今度は雷の魔法を打ち込み兵達を無力化する赤鎧。一連の動作を流れるように行い、そこに焦りは全く見えなかった。
強い。これは援軍を呼ばないとここを突破されるのも時間の問題だろう。
と俺と同じように思った奴が先に居たのか、ガイアフレームが数機集まってきた。さすがにこれでもう赤鎧も捕まるだろう。
スッ
と赤鎧が手を挙げたかと思うと、何かがガイアフレーム目掛けて飛んできた。
バッババババッ!
飛んできたそれは全て命中し、ガイアフレームの周りが激しく明滅する光で溢れている。光が収まると、そこにはどこも損傷していないガイアフレームの姿があった。・・・なんだ?見掛け倒しの攻撃なのか?
うお!? 何もダメージを受けてないように見えたガイアフレームだが、よろよろとしていて動きがおかしい。今もこちらに倒れてきそうだった。
ふと気付くと赤鎧は、いつの間にか出てきた白いガイアフレームに乗り込んでいた。
ゴテゴテと武装がついた四肢に、凶悪な頭部。沈み込んでいる足元を見るに、かなりの重量と攻撃力を見た目から連想させる、非常に危険なガイアフレームだ。
そのガイアフレームがこちらをギョロっと見た、その瞬間、狙っていたのだろう。白いガイアフレームの横手から青フレームが剣を構え突撃していく。
ガキィィイイイン!
鉄と鉄がぶち当たる音が響き渡る。胴体部分を貫いたかに見えた剣は見事にかわされ、逆に白フレームの肘が、青フレームの胸部を打ち付け倒していた。ものの見事にカウンターを食らった形だ。最小限の動きで、不意打ちをあそこまで見事に返り討ちにするとは、一体どれほどの使い手なんだろうか・・・?
「逃げる者は追わない、ただし向かってきた奴には容赦しない」
白フレームから、そう聞こえてきた若い男の声は戦場に凛と響いた。
次はコージ君からの視点