フレーマーの受難?
大豪邸。
メイドさんが居て、警備の人が居て、池があって、プールがあって、でっかい庭があって、とにかくだだっ広い敷地には、快適に暮らす為にさまざまな工夫が施されており、いかにもお金持ちなんだなぁって思えるお屋敷。そうお家というよりお屋敷という言葉がいかにも似合う凄い家でございます。
「コージさん、どうしたんです? そんなにぽかんと口を開けて?」
「あぁ、ごめんなさい。単純にサラさんの家にびっくりしてるだけです」
「くすっ。おかしなコージさん。じゃあ早速工房を見て貰いましょうか」
サラさんの言葉と共に車は敷地内の中央へと向かう。門から屋敷へ向かう道の途中、少しだけ東の方にサラさんの工房があった。意外とちんまい。
「などと思っていた僕が馬鹿でした」
「?」
サラさんに案内されて工房に入った僕だけど、工房がちんまいとかまったくの見当違いでした。ちんまい工房の中には簡単ながらもエレベーターがあって、即座に地下へ行けるようになってました。そして地下にめっちゃ広い空間が確保されていて、ずらりとフレームが並んでる様はかなり壮観です。なんというか、これだけの数のフレームを確保していて国から何も言われないんだろうか、これ。
「機体があってもパイロットは足りませんし、出撃する時もエレベーターで一機ずつ時間を掛けないと出れませんしね。届出もしてますから、何も危険な事はないですよぉ~」
「そういうものなんだ。結構こうやって地下にフレームを飾ってる人っているのかな?」
「ここまでの数は集めてる人は少ないとは思いますが、結構多いみたいですよ」
「なんというか、みんな考える事は一緒なんだねぇ…」
まぁいいや。とりあえずサラさんの設計していフレームを見せてもらおう。資材置き場を通り抜け格納庫より少しだけ高い位置にある部屋へ上がる。
「凄いねぇここ、フレームがよく見える。それに結構明るいよね?」
「ふふっ、ここからの眺めは凄く癒されるのです。あと部屋が明るいのはお外の光を取り込めるように工夫してあるそうです」
そして、当たり前のようにこの部屋にもメイドさんが居て、サラさんの世話を何かとしてくれるようだ。今も、すぐにお茶とお菓子が出てきたぐらいだから、結構な人数が工房に居てるんだと思う。フレームの整備とかもちゃんとしてるみたいだしね。
「コージさん、コージさん。これなんですけど、見て下さいますか?」
「えーっと、サラさんこっちの鳥の絵は?」
「人型からこの鳥型に変形したいのです。ですが、どうしても変形する仕組みを思いつかなくて悩んでいるんです」
なんというデザイン先行。人型の方は細かいパーツ設定してあるのに、鳥形の方はなんというかイラストでした。この人型はどう考えてもこの鳥型に変形するのは無理でしょぉうっ! 装甲を後付けでもすれば可能かもしれないけど、それじゃあ変形の意味は無いもんね。
「サラさん、それは無理です。どっちか諦めて下さい」
「えぇっ!? 変形は無理なんですかぁっ?!」
一気に涙目になるサラさん。その瞬間、殺気の篭った視線が複数突き刺さってくる。目に見えてるメイドさん達の数より視線が多いぞぉ。
「無理です。少なくともこの人型から鳥型へは変形不可能です。変形後に物質変換で形状を変える事ができるなら、いけるかもしれないけれど」
「どうしても、この鳥さんに変形したいんです。なんとかなりませんかぁ?」
そういう事なら、デザインに少し手を加えればいけると思うけどそれを納得してくれるかどうかだね。サラさんがうるっとする度に視線に殺気を篭めるのはやめてよぉおおおおおおお! せっかくフレームの事を考えているのにあまりの殺気に流石の僕もかちんと来たので、手にコインを持ち殺気を出す人達へ向かって威嚇の為に鋭く撃ち込む。
「どどどどうしたんですかぁっ!?」
「あまり、わかりやすい殺気を出されると僕もおとなしくしてませんよ?」
と傍に待機しているメイドさんや、物陰や天井に隠れているであろう護衛の人達に向けて言い放つ。
「失礼いたしました」
周囲の人間を代表してメイドさんが謝罪してくる。というか、サラさんラブすぎるでしょうここのメイドさん達は。普通、連れて来た客人にここまで殺気を向けない…よね?
あーだめだ。なんというか、落ち着いて集中できないんだよねぇ。せっかく色々なフレームに触れる事ができる機会だというのに邪魔されるのは凄く腹が立つ。護衛や世話をしたいのは分かるけど、いちいちこうやって殺気を向けられるのは勘弁願いたい。
「えーっと、えーっと…ごめんなさい」
おろおろとして、謝ってくるサラさん。サラさんは悪くないんだけどもね。
「ううん、こっちこそごめん。床とか天井に穴あけちゃって」
「それぐらい大した事は無いのです。うちの者が迷惑かけたようでごめんなさい」
気を取り直して…といきたい所だけど、なんだか気持ちの歯車がずれちゃったようでせっかく変形機構を考えようとしていた気分がどこかへ飛んでいってしまった。うーん、困ったぞ。
「ごめん、ちょっと外走ってきて良い? 体動かしてたら何か良い案が浮かぶかも」
「え? えっとぉ、気分を害されてしまいましたか…?」
そう言って潤んだ瞳で見上げてくるサラさん。目尻にじわじわと涙が溜まってきていると同時にまたもや膨れ上がる殺気。フレームの事を考えてる時にはかちんと来たけど、今はなんというか逃げ出したい気分。うん、逃げよう。
「ううん、僕よりメイドさん達が怒ってるみたいだから帰るねっ! じゃあ!」
「え! ちょっと、ちょっと待って下さいぃ~!」
リミッターを解放して、なみいるメイドさんや護衛の人達の間をすり抜け、気配を絶ちながら外へと出る。ここもまだ転移魔法が封じられているようだった。わらわらとメイドさんや護衛の人達が何か言いながら出てきたけど、なんか捕まったらひどい事になりそうなので、即逃げる事にしよう。魔法は使わずに塀を飛び越え外へと脱出する。塀に何か仕掛けがあったようだったけど、反応される前に飛び越えたから平気だった。
うーん、大事にされているお金持ちのお嬢様の相手は面倒だね。ぱっと見ただけでも色々なフレームがあったから、後で見るのが楽しみだったんだけども、たぶんもう行く事はないかな。次からは断固拒否だ!
客に逃げられてしまって床にうずくまって呆然としているお嬢様。その姿もとても愛らしい。このような姿は初めて見ますが、胸が痛くなってくると同時にいとしさがこみ上げてきますね。
「ふぃーん、コ、コージさんがっお、怒ってかえっちゃったぁぁあ~!」
客人がお嬢様の制止を振り切り、脇目も振らずに出て行った事に胸を痛めて泣きじゃくるお嬢様。こんなに可愛いお嬢様を泣かせて放って置くとは許せない男ですね。
「お嬢様、大丈夫です。私がなんとかしますから」
「え、ほ、本当?」
えぇ、お嬢様を泣かせた罪をあがなわせます。そして、お嬢様に必ず謝罪させるとしましょう。あぁ、そんなに上気した顔で見つめないで下さい。イってしまいます。
「本当です。なのでお嬢様はこちらに座ってゆっくりお待ち下さい。もう一度お茶を淹れなおしますので、おくつろぎ下さい」
「う、うん。でもメイヤ目が怖いよ? コージさんにヒドイ事しない?」
「えぇ、勿論です。お嬢様は何も心配なさらずとも良いのです」
お嬢様を安心させるようににっこり微笑む。あの男には必ず痛い目にあって貰わないと駄目になりましたね。ヒドイ事はしません、痛い目にはあいますが。
「では、少々お待ち下さいね」
「うん。ありがとうねメイヤ」
満面の笑顔でお礼を言うお嬢様に止めを刺されました。がくっと崩れ落ちそうになる体を必死に支え何事無いように振舞う。お嬢様の笑顔でイきました。これで一週間は寝なくても生きて行けます。さぁ、お仕置きをしに参りましょう。コージとか言いましたね。まずは敵の情報を調べましょう。