アイテム好きな二人
お日様が暖かく見守る中、遺跡の入り口へと向かう。昼前だけど、冒険者のみなさんで遺跡前は結構賑わっていた。冒険者の人達ってなんというか荒々しい感じの方が多い。だけど女性もかなりの数が居るので、雰囲気はそんなに悪くない。実習で遺跡に入るときは集団行動だったから、あまり気にしなかったんだけど、僕みたいな若造がこれだけ人が居る中で遺跡に入ろうとすると、結構じろじろ見られるんだねぇ。
「で、アースよ。今日の任務は分かってるのか?」
「え? 遺跡に潜って魔物が減少している原因を探るんでしょ?」
確か魔物が急激に減ってるという事で、浅い階層にまたイレギュラーな奴が紛れ込んでるかもしれないんだよね? オーガなら巨体だから見つけやすいんだろうけど、特に目立ってないって事はもっと小柄でやばい奴なんだろうなぁ。
「そう。魔物が減少しているという事は遺跡で稼ぐのは難しいという事だ」
「あ!」
あの教官に騙された! 今日は大盤振る舞いとか言うからつい稼げると思ったんだけど、よくよく考えたら獲物が居ないじゃん…冒険者のみなさんも結構いるから、獲物の取り合いになって余計に僕たちが狩れる獲物が居ないよねぇ、とほほ。
「すまんな。適当に見回って戻ることにしよう。で、その間に俺のこれを見て貰えないか?」
「え、あぁ。さっき言ってたアイテムですね。見せてくださいな」
そういって、サカキ先輩から筒状のアイテムを受け取る。どことなく「ギル」に似てない事も無い。って筒状のものであれば大体似てしまうんだけどもね、このグリップとか先端が発射口みたいになってる所とかがなんか似てる。
「で、これは…」
「あ、言わないで下さい。ちゃんと当てて見せます」
「そ、そうか…」
グリップの部分にオーブがいくつかはめ込まれている。そして先端にあるオーブだけ取り外し可能になっているようで、はずして見ると術式が書き込まれている。てことは、ここのオーブを交換すれば魔法を変えられるって事か。うん、機能もギルと一緒だねこれは。ただ、グリップ部分が機能してないね。このアイテムって握ってる人間の魔力を吸収して、魔法を発動させるタイプじゃないとおかしいんだけど、オーブの配置がおかしくて魔力を吸収できずに循環させている。これだといくら魔法を発動させようとしても、無理だ。
「サカキ先輩。これは魔法を撃つアイテムですね」
「! その通りだ、魔力がある人間であれば魔法を撃てるようになるアイテムなんだ」
「無音詠唱の為だけのアイテムなんですか? これだと一種類しか魔法を撃てないから、杖を持って魔法を登録して使った方が良くないですか?」
僕の言葉に、うっと言葉を詰まらせる先輩。この先輩がそんな事に気付かない訳が無いし、言い難い理由でもあるのかな?
「アースは知らないんだな。実は俺は魔法を撃てない。魔力があるにもかかわらずだ」
「え!」
魔力操作が致命的に駄目って事なのかな? で、アイテムを使って無理やり魔法を使えるようにしようと考えたって訳か。
「で、おまえが思った通りアイテムを使って魔法を撃とうと考えたんだが、これが中々うまくいかなくてな。いま、ようやくそこまでのアイテムができたって訳だ」
「でもこれだと、魔法撃てませんよ?」
「なにっ?」
先輩の作ったアイテムを見てありのままを伝えると、すごくショックな顔をしてる先輩。しかもうろたえているのか、身振りまでしている。こんな先輩は珍しい。
「このオーブの配置だと魔力が循環しちゃいますから、魔法を撃つ為の魔力が足りなくなります。今まで発動しそうで発動しなかったんじゃないですか?」
「そ、そのとおりだ。それは直せるのか?」
アイテムの症状を言い当てると先輩は、なぜ分かった! という顔をしてから不安そうな顔をして尋ねてくる。なんだろう、普段ポーカーフェースな先輩がこんなに表情が変わる所を見れるのは凄く楽しい。
「直せますよ。このオー…」
「できるのか! これで魔法を撃てるのか!」
「あ、はい勿論です先輩」
なんか、凄い勢いで聞いてくるので魔法を撃てるという事だけ先に断言しておく。うん、ついでに僕の「ギル」も見て貰っておこうかな。先輩ってアイテム作るのが凄く好きそうだし。
「で、先輩。先輩のアイテムと似たような物を僕も作ってるんです。これなんですけど」
「見せて貰っても良いのか?」
「どうぞどうぞ」
僕から「ギル」を受け取った先輩は、しげしげと見つめてからあちこち触りだす。ボタンとスイッチが非常に気になるようでうんうん唸って考えている。なので、ついでだし各部分の機能を細かく先輩に伝える。
「なるほど、これは俺のアイテムの発展型とも言える作品だな。俺だとここまでの物は考え付かないな…」
「いえいえサカキ先輩も作り出せば、もっと良い物を作れますって。これの前の作品も見ます?」
「そんな物もあるのか、是非見せてくれ」
いかにも興味津々の様子だったので、僕もうれしくなってほいほい「月光」と「ノーミス」を取り出して先輩に渡す。
「機能的には変わらないんですけど、剣を主に使うか魔法を主に使うかで形状が違うんです。ただ、こっちの方が魔法の術式を交換するのは楽ですね。選択は面倒ですけど」
「こっちはなんというか、形が独特だな。この回転する部分に術式を入れるんだな?」
「そうです。で、そこに入れる術式を変えると魔法を変える事ができるんです」
「なるほど」
なんというか、先輩もアイテム作りが本当に好きなんだなぁ。
「良かったら分解してみて下さい。自分で分解してみればもっと良く構造が分かりますから」
「良いのか? 下手に分解して壊したりしたら…」
「大丈夫ですよ。それの設計図は頭に入ってますから何があっても修理は可能です」
「で、では分解させて貰うぞ!」
「どうぞどうぞ」
しっかり分解作業ができるように、床にシートを敷き邪魔が入らないように風の魔法でカーテンを作る。って、良く考えたら僕たちって遺跡の調査の為に来てるんじゃなかったっけ?
「って、しまった! 先輩先輩! 遺跡の調査忘れてました!」
「はっ!? そうだったな、すまん。俺がしっかりしてないばかりに」
「とんでもない。「月光」と「ノーミス」は預けておきますので帰ってから分解してみてください。あ、そうだちょっと待って下さいね」
そういや使用認証つけてるんだった。先輩も登録しておかないと何も発動しないから壊れたかと勘違いしちゃうよね。
「はい、グリップを握ってください」
「こうか?」
「はい、ありがとうございます。では、それは先輩が持ってて下さいね。良かったら使って貰っても大丈夫です」
「分かった。感謝する」
という訳で遺跡の調査に向かうとしましょう。
遺跡の中はいつもより喧騒に満ちていた。というより、魔物を探し回る人で溢れかえってると言いますか。たまに魔物と戦ってる人も見かけるけど、その周りにも人が残念そうに佇んでる姿も見受けられた。魔物が適度に徘徊していた時はそうでもなかったんだけど、いざ居なくなるとやっぱり遺跡が広いとはいえ、人との遭遇率が高くなっている。
階層を下げていっても相変わらず魔物は見つからない。居るには居るんだけど、すでに戦闘中だったり倒された直後だったりなので、以前数が少ない事が分かっただけだった。十階層まではだいたいそんな感じだったけど、これより下でも同じなんだろうか? 逆に五十階層ぐらいから上がって来て、少なくなってる階層を調べていく方が獲物も狩れて丁度良いんじゃないだろうか? そうなるとエレベーターの秘密を先輩に明かす事になるんだけど…
「ほぉ…」
嬉しそうに「月光」を触っている先輩を見ていると、言っても大丈夫な気がしてきた。なんというか同じアイテム作り仲間の連帯感っていうのかな? そういうのをサカキ先輩からは感じられるもんね。
「先輩。ちょっと内緒の話があるんですが良いです?」
「ん!? おうすまん。どうした?」
声を掛けるまでめっちゃ夢中になってたようで、ちょっとびっくりしてる先輩。
「このまま、素直に階層を降りて行くのは効率が悪いと思うんです」
「だが、床に穴を開けて一気に降りる事はできんぞ?」
「そ、そんな事は考えてません。それよりもっと楽で良い移動方法があるんですけど、あんまり知られたくないんで内緒にして欲しいんですよ」
「む、どういう事だ?」
謎かけみたいな僕の言葉に、眉をひそめる先輩。遺跡内部は転移魔法も封じられてるから他の移動手段というのは思いつかないんだろうね。
「内緒にしてくれると約束してくれるなら、教えます」
「…分かった。このアイテムに誓おう」
剣にって言わない所が、アイテム好きっていうのが分かっていいね。
「では、こちらに付いてきてください」
誓ってくれた先輩に頷いて、僕は十階層のエレベータへと歩を進めた。