本気出せ
“コージへ。
突然すみません、一緒に旅を続けられなくなってしまいました。わたし達が村を出た後、タタ村に魔石獣が出てきたらしく、村が大変な事になってるとエリカさんから教えて貰いました。お世話になっている皆を助けたいと思うので、一度村へ帰ります。短い間でしたけど、コージと旅ができて、とても楽しかったです。あなたの旅に幸あらん事を。
タタ村のあなたのセリナより“
夜遅くなっても、セリナが中々帰ってこないので携帯電話に連絡しようとした時、宿の人が僕に手紙を持ってきた。セリナが村へ帰るという内容が書かれていた。
なんだろう。
タタ村が大変な事になってると言うのを聞くと、僕も何かしたいと思う。だけど、セリナは僕に何も言わずに戻っていってしまった。
セリナにはタタ村で2週間足らずとはいえ暮らしてきた僕を、村の仲間と認めて貰えなかったのだろうか? タタ村が大変だったら僕も、心配するとは思わなかったんだろうか?
「はぁ・・・仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ・・・」
ヒューイックの村に来てから、嫌なことが立て続けに起こるなぁ。やっぱり、この町は僕に合わないんだな、うん。明日の朝にはここを出てロバスを目指そう。
とりあえず、ヒロコにもセリナの件を伝え、明日の朝には町を出ることを伝えて早く寝る事にした。
枕がすこしばかり、湿っぽくなったのは内緒だ。
ふと気付くとまたあの世界。エドの世界に突っ立っていた。
「よぉ、コージ。やっと来たな」
「エド! 昨日も見なかったけど元気してた?」
2日会ってないだけだけど、なんだか凄く久しぶりに感じて嬉しくなる僕。こっちに来てから初めてできた男友達だからかな?
「おう、元気・・・と言いたい所だが、ちょっとな」
なんだか歯切れの悪いエド。何かあったのかな?
「すまん! 俺、おまえに謝らなくちゃ駄目なんだ!」
「え? なに?」
いきなり凄い勢いで謝るエド。何かされたかな僕?
「セリナ」
「セリナが・・・どうしたの?」
エドの口からセリナの名前が出た瞬間、心臓がどくんと跳ねるのが分かった。
「貴族の命令で、セリナを攫った。拒否するならコージを痛めつけると脅されてセリナも仕方なく、貴族に捕まったんだ・・・」
はっと脳裏にひらめくものがあった。
エリカさんから紙を貰った瞬間、セリナは凄くびっくりしていなかったか? 町を見に行くといって僕達と別れる時「さよなら」と言ってなかったか?
それにセリナには携帯電話を渡しているのに、わざわざ手紙を渡してきた。手紙なんて手間の掛かる物をするより、携帯で連絡した方がはるかに手早く連絡できるのにも関わらずだ。
全部、あの貴族が絡んでたのなら納得だ。
「あの野郎・・・」
「おい、貴族の屋敷に向かうなら止めとけ! ガイアフレームが10機はいるんだぞ!?」
「そうか、ガイアフレームがあるのか・・・よし!」
「おい! なんで逆にやる気出してんだよ?! 正気かコージ!」
すごく慌てるエド。僕を凄く心配してくれてるようだ。
「エド、聞いて。僕ね、貴族に会うまでは凄く楽しい事ばかりだったんだ。セリナに会えたのもそうだし、エドとも仲良くなれた。ガイアフレームにも乗れたしね」
「・・・お、おう」
若干、顔を赤くするエド。照れてるんだね。
「だけど、あの貴族が出てきてから全部滅茶苦茶になった! あいつはここらへんじゃ我が物顔で振舞って、誰も止める事ができないってのも分かってる。だけど!」
悔しい。悔しくて悔しくてたまらない。エドもあの貴族に逆らえずにセリナをさらったんだろう。だから夢の中に僕を呼んで、教えてくれたんだ。
「僕はもう我慢しない! 正直めちゃくちゃ怒ってる! あいつを懲らしめてセリナを絶対に取り戻す!」
「お、おい・・・」
「勿論、エドも助ける! 僕の友達だから」
「い、いや俺は・・・」
「何か事情があるなら、今は何もしない。だけど、いつか必ず自由になれるように助ける!」
「・・・自由・・・」
「よし、そうと決まればすぐに起きて反撃だ! エド、いつか事情をちゃんと話してよ? じゃないと上手にできないからね」
「お、俺の事はとりあえず良いから、無茶するなよ?」
「分かった、行って来る!」
宿を飛び出し、急いで向かった先はハーベイさんのお店。
頼れるのはここしかない。
「夜分すみません、ハーベイさん! 昨日来たコージです、いませんか?」
ドンドンと、門を叩きハーベイさんを大声で呼ぶ。いまは形振り構っていられない。
「おいコージ、そんなに慌ててどうした? こんな時間に来てもフレームには乗れんぞ?」
ゆったりとして出てきてくれたハーベイさんは僕の慌てた様子にびっくりした様子だった。
すぐに土下座をして、今まで狩って来た素材を全てハーベイさんの前に出す。
「ホワイトファング・・・いえ、デストロイヤーをこの素材で譲って欲しいんです。足りないのは分かってます。これはとりあえずの手付金として、残りは必ずお支払いします!
ですから、これでどうか譲って貰えないでしょうか!」
僕の出した素材では、ホワイトファングの値段にまったく足りない。普通こんなお願いなど聞いてない貰えないだろう。だけど、ホワイトファングが居なければ太刀打ちできないのは分かりきっているので、こうするしか手が無かった。
「ふむ・・・」
何か考え込んでいるハーベイさん。お願い、僕を信じて下さい!
必死に祈っていると、ハーベイさんがおもむろに何かを書き出した。
「あー眠いのぉ。いやぁ全くもって眠くて仕方ないわい・・・おぉコージ、デストロイヤーなおまえさんが欲しいんじゃったなぁ・・・あれなぁもう売れてしまってのぉ」
「えぇ!?」
僕の唯一の手段が・・・
でも、落ち込んでる暇はない。こうしている間にもセリナは貴族の屋敷に・・・
「まぁ、待て待てコージよ」
脇目も振らず駆け出そうとする僕を引き止めるハーベイさん。
「何を隠そう、あれを買ったのはワシでなぁ。じゃが、知っての通りワシだとあれには乗れんじゃろ? なんであれに乗ってくれる奴を探しとるんじゃ」
「え?」
「察しの悪い奴じゃのぉ。ほれ、あいつの倉庫の鍵じゃ。これにサインして持ってけ」
事態を飲み込めず、ぽかんとしてる僕に書類に名前をかかせて、鍵を渡して倉庫の方へと蹴りだすハーベイさん。痛さのおかげで目が覚めた。
「あ、ありがとうございます、ハーベイさん! お金はきっと返します!」
「おーおー、はよいけ。わしゃ眠いんじゃ。とっとと行ってくれ」
ひらひら~と手を振ってお店に戻っていくハーベイさん。
去っていくハーベイさんの背中に向かって、感謝を込めてお辞儀をする。
ありがとうございます。このご恩は必ず!
「待っててね、セリナ!」
突っ走る
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