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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
ステップ!
174/293

試練? そういや忘れてた

ドワーフ。


小説やゲームでも良く出てくる、手先が器用な鍛冶や細工をさせればぴかいちの腕を誇る種族。厳つい見た目でだいたい背も低い。で、ドワーフの女性っていうのはあまり聞いた事がない。よくある説明としてはだいたいそんな感じ。


「うぉおおおお、次、おれっ! おれっ!」

「俺もホームラン」

「ぴゅーって消えたよ! 消えたっ!」

「お~…」

「どんだけ飛ぶんだよ、すっげぇ!」


飛んでいったミーシャちゃんは帰ってきません。だけど、遠くで笑い声が聞こえてくるので大丈夫でしょう。加減を忘れて打ち抜いたホームランストライカーは、ものの見事に放物線を描いて山に激突したようだ。たぶん、乗り物も壊れたなあれは。元の世界であれば重大事故間違いなしのこの出来事も、ドワーフのお子様達には人気アトラクションでしかないようで、今の一発で目を輝かせて乗り物をガタガタ揺らして催促してきた。


「ロンダ、用意は良いか?」

「おう、はやくしろコージ!」

「よーし、ぶっとべおらぁ!」


口汚く掛け声をかけてロンダをべノア村の空へと打ち上げる。いってらっしゃい、加減はせずにむしろフルパワーで行ったから存分に楽しんでくれ。そして、目を輝かせる子供たちを待たせるわけにはいかず、どんどん子供たちを空へ打ち上げていった。


「コージ! 乗り物壊れた!」


ミーシャちゃんが、勢いよく帰ってきた。予想通り泥だらけである。怪我も打ち身もまったくない様子はちょっと想定外だけど。子供って体が柔らかいからある意味大人より頑丈なのかもしれない。


「壊れても持って帰って来てよ?! 作るより修理の方が簡単なんだから」

「また飛ばしてくれたら、次持って帰ってくる!」

「予備なんて無いからっ!?」


はぁ仕方ない、ちょっと行って帰ってくるか。ちょっと弾みをつけて空へジャンプし、そのまま魔法を唱える。


「“炎よ! 我が身を助け我が意のままに天を駆け登れっ! ツインジェット!”」

「あっ! コージ、飛んでる!」

「ちょっと取ってくるから、大人しく待っててよ」


まっすぐ、ホームランストライカーの着地点に向かって加速する。山肌に残骸が転がってるのを見つけたので、魔法を解除しあとは慣性で現場に到達。勢いが良すぎてちょっと土煙が上がったのはご愛嬌。うん、あいつら壊れたらそのままほったらかしだ。ぽいぽいと指輪に収納し、転移魔法で戻る。


「ただいま」

「あれっ? なんで、どうして? コージどこから出てきたの???」

「おーいコージ、乗り物こわれたーーー!」


急に現れた僕にびっくりするミーシャちゃん。そして大声を上げながら戻ってきたロンダくん。力任せに打ち上げたけど、どこも怪我無いね。頑丈すぎるやつめ。とりあえず、壊れた乗り物を指輪から取り出し、修理する。フレイムの魔法で焼きを入れ、次は壊れにくいように強化魔法を刻み込んで耐久性をぐんと上げてみた。


「ん?」


気付けば子供たちが興味津々で僕を見ていた。そうか、ドワーフって魔力はあっても魔法を使える人って居ないらしいから魔法が珍しいんだね。うむ、尊敬の眼差しで見てくれたまえ。


「コージ、魔法見せて」

「うん、もっと派手なやつが良い」

「さっき空飛んでた! 足から火がぼーぼーだった!」

「魔法初めて見た」

「空飛びたい!」


シャトラが魔法を見せてと言い出し、ミーシャちゃんが僕が空を飛んでたとバラしたせいで、順番に魔法で空を飛ぶ事になった。せっかく強化したホームランストライカーが…まぁ、こっちの方が楽といえば楽なんだけどね。十メートルぐらいの高さまで上がって落とすだけだし。うん、間違いじゃないよ? なんでか高く飛んだら子供達は皆落ちたがるんだよね。痛くないのかなぁ…


「そろそろご飯の時間だね。皆お家に帰りなさい」

「えぇ~!? まだだって! もっと飛びたい」

「ご飯より飛ぶ」

「お昼ご飯なにかなぁ~」

「おう! じゃあ食ってくる、逃げるなよコージ!」

「あ、待ってお兄ちゃん!」


自分が空腹だったことに気付いて勢い良く走り出す子や、まだまだ遊びが優先な子、なぜかそのままへたり込んで眠りそうになる子がいたけど、全員家に帰るように促した。よし、次は食堂へ行くぞ!





「ゴドックさん、お待たせ!」

「おせーぞ、コージ! はやく入りやがれ」


普通ならここですいませーんと謝る所なんだけど、前に謝ったら何謝ってんだと不思議そうな顔をされた。なんというかドワーフの人たちって常に文句を言ってるような口調なんだけど、単純に口が悪いだけで怒ったりしないみたい。


「来たな! ピリ辛を食わせろ!」

「そうだそうだ! はやくしろぉ~」


昼間から酒飲みさんばかり。うん、酒場はないんだけど食堂がある意味酒場みたいなもんなんだよね。だって、お酒を出さない店って無いんだもん。なので、お酒に合いそうなピリ辛のつまみをあれこれ作ったら好評だったので、昼間はここで大量に料理をする事にしている。


「みんな仕事はどうしたのさ、仕事は」

「こないだの恵みのおかげで、たんまり働いたじゃねーか! こまけぇなコージは」

「まだ掘ってる奴もいるけど、エドガーはなんか注文受けてるんだっけか?」

「あーあいつは酒も飲まんと、仕事ばっかりしおってからに。たまには飲みに来いってんだ! あの偏屈野郎め!」


いえ、ゼンルトさん。世間一般的にはエドガーさんの方が褒められる事はあっても非難される謂れは無いと思いますよ。肉と野菜のピリ辛炒めをつくりつつ、すっぱ辛いスープも仕込んでおいたので、仕上げていく。ドワーフさん達って肉ばっか食ってるイメージがあるから、野菜もこういった形で取らせないと早死にしそうだ。


こうやって騒いでいる人達ばかりだけど、なんだかんだ言って不眠不休でさっきまで働いていたのだ。思い切り働いて酒を飲んで、死んだように寝るというのが生活パターンのようでエドガーさんのように、毎日ちゃんと酒もちょっとしか飲まずに働く人はごく少数だ。でも本当、酒を水みたいにがばがば飲んでるなぁ。


「コージ、お前も飲め! ガキじゃあるめぇに、酒も飲まんでどうする! うちのロンダですらもう飲んどるんだぞ?!」

「ちょっ、何飲ませてるんですかぁっ!? ロンダはまだ子供でしょうが!」

「あいたっ! 客に手をあげるたぁ良い度胸だ! お、やるかぁ?!」


ロンダの父ちゃんガバックさんがロンダに酒を飲ませてると知って、思わず頭を叩いてしまう。でも、ガツンと言っておかないと駄目だよね?


「そんな事を言うならシラフに戻しますよ? 良いんですか?」

「すまんかった」


酔っ払ってるのをシラフに戻されるのは、すごく辛いらしい。毒消しの魔法では酔いは醒めないけどパーフェクトヒールなら醒めるんだよね。酔い覚ましの為にかけるとか僕ぐらいしか居ないと思うけど。


「はい、できたよ。食べて食べて」


できたピリ辛炒めを、素早く配膳する。みんな嬉しそうに食いついてくれるから、作った甲斐がある。なんかがっついてすぐに食べてしまう感じに見える人達ばかりだけど、意外とそうでもなくてつまみをパクッとして、酒を飲んでうまそうにしてる人や、ちょこちょこつまみを食べて、思い出したかのように酒をあおる人。見た目は荒っぽい人ばっかりなんだけど、じっくりと楽しみながら食べたり飲んだりしてるようだ。


まぁ、こんな見た目の人達だけど細工物とかは本当に凄いものを作る。小さい物から大き目の物までなんでも作るんだけど、そのどれもが非常に細かい造りで繊細な作品ばかりだった。人によって得意分野は違うんだけど、どの人も恐ろしく精緻な物を作り出す。お酒を飲んでる時は、本当にダメオヤジっぽい人にしか見えないんだけどなぁ。


「おいコージ、しみじみした目でこっちみんな。酒がまずくなる」

「はっは、大方ガバックの細工でも思い出してんじゃねーか? その顔であれができるんだから、コージが不思議がるのも無理はねぇって」

「おめぇも似たような顔をして何言いやがる! それに、こまけぇやつはおめぇの方がうめぇじゃねぇかよ!」

「そこはほれ、徳の差って奴か? はっはっは!」


うん、どっちもそんな顔であんな凄い物を作れるとか見るまで信じられなかったからね。ガドさんにしても、ドゥエーリンを使ったとはいえあれだけの物を作れるんだからなぁ。なんか、この人たちが本気で作った武器とかを見てみたい気がする。いわゆる伝説の武器って感じの物ができあがりそうだし。


「あ~酔ってきた。もう駄目だ、俺は俺は…おかわりっ! だーっはっはっは」

「だから、おまえは細けぇ事を気にしすぎだっての。だれがわざわざそんな所まで見るってんだ? あ、あら? また口で負けそうになったからって分身すんなってぇの!」

「おーい、この不味くてすっぱい奴おかわり!」


…駄目な方に伝説を残せるかもしれない。


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