試練のためのその一
やってきましたべノア村。くそとかげ事竜王の試練をクリアする為に、とにかく毎日村に来ては適当にうろうろして、困ってる人を見つけては一緒に解決するようにしてる。だけど基本的にここの人ってお酒があれば幸せな所があるので、酒絡みの問題が多い。
飲む相手がいないだのつまみがないだの、飲むネタがないだのそんなのばっかりだ。でも仕事も鬼のようにするからこの人達は、どこか憎めない。
僕の試練の為に竜王が村にやってきた事を知っている村の人たちは、気軽に試練がんばれよーと声をかけてくる。なんというか、竜王の試練を受けるという事はある意味仲間だと認められている事のようで、どの人もえらくフレンドリーだ。フレンドリーすぎて酒をすすめるのは止めて欲しいけども。
「おーし、そこで素早く炉に入れろ。そうだ」
そして話の流れで、ハンマー片手にカンカンカンと鋼を鍛えている。
「で、素早くいけ。金属におまえが求めるものをぶつけろ」
よく切れますように、よく切れますように! 力を込めて同じ方向へ流れるようにハンマーで鋼を整えていく。熱しては叩き、熱しては叩き。臨時師匠のエンジさんの工房にいる事も忘れて一心不乱に鍛えていく。叩いているとなんとなく、鋼に隙間があるのが分かってきたので、隙間を無くすようにガンガン行く。
「ふむ」
「こんな感じでどうでしょうか」
「悪かないな。ただもう少し繊細に扱え。叩いてる間は気を抜くな」
「はい、わかりました」
そうしてエンジさんの指導の下、鍛冶の手伝いを続けていった。
「で、ついでだ。ドワーフの技というのを見せてやる」
「はいっ」
エンジさんが持ってきたのはチタンの鉱石。しかも山ほど持ってきた。そして、おもむろに鉱石を叩き出す。ん? 炉にくべなくてもいいの??? 僕の疑問をよそに真剣な表情でコンコンと鉱石を叩く。しばらく、そうやって叩いてエンジさんは満足したように僕のほうに鉱石をつきつけた。
「ほれ」
「はい。…えっとこれがなにか?」
「よく見てみろ。それが分かれば大したもんだ」
とは言っても、なんだべさ? コンコンコンコン叩いてただけで、これといって特に変化は見られない。至って普通のチタン鉱石だよね。あれっ? こんなに偏って集まってたっけ? 不思議なものを見る目でエンジさんと鉱石を見比べる。
「ま、そういうこった。こうやって石の声を聞いて動かせる。ただ指先が器用なだけじゃないってこった。がっはっは」
「ほへー…こいつぁファンタジーだなぁ」
いったいどういう物理現象なんだろうねぇ? めっちゃ不思議。ゲームで言うなら種族特性とでも言う所でしょうか。鉱物から狙った物だけ寄せるとか便利だよね。
「でも、これは僕には真似しろって言われてもできません!」
「当たり前だ! ただの自慢だ」
「エンジさんひどいっ」
わしよりハンマーさばきが上手いからだ、とか言ってがははと笑う。なんか適当な事言って誤魔化された。でもうらやましいなぁ。まぁ、僕はチタン鉱石を大量に集めて持ってくればここの人達が、じゃんじゃん精錬してくれるのは間違いないね。というか、仕事を持ってきたほうがここの人達もお酒を飲む時間がほどよく減って良いかもしれない。
「コージ! もういいか? はやくいこうぜ!」
ドバンと扉を勢い良く開けて入ってきたのは、いたずら小僧のドワーフ。
「シャトラ! こっちに来んなって言ってるだろうが! おいコージ行っていいぞ」
「はいエンジさん。シャトラ行こっか」
エンジさんは声が大きくて乱暴な口調だけど、特に怒っていません。これがデフォです。ちなみにドワーフには幼名というのがあるらしく、成人の儀をするまではその名前を名乗っているそうだ。ちなみにエンジさんの幼名はペシャ。なんというか幼名って可愛い感じのが多いみたい。
「おい早くいくぞコージ」
シャトラ君は生意気そうな顔をしているドワーフだ。実際、すっごく生意気なんだけどちょっとお馬鹿なところがあるから憎めない仕様になっている。というか、基本的に口調が悪い人しかいないよね。
「はいはい、慌てて行くとこけるぞー?」
「そんな鈍臭くねーよ! あっ!?」
うん、こけてないけど家にぶつかってるね。思い切り肩をぶつけて泣きそうになっているシャトラをおぶって村はずれに向かう。そこで悪がき達が待っているはずなのだ。
「おーい、お待たせぇ~」
「おそいっ!」
こちらを見つけて駆け寄ってきて、怒り出すミーシャちゃん。悪がき達のボスはこの子だったりするから驚きだ。ドワーフの女性って意外と可愛いのでこのミーシャちゃんも小さいし中々可愛らしい。でも、態度も物凄く可愛い過ぎるので、あまりの可愛さにぶんぶん振り回して放り投げたら懐かれた。
「はやく抱っこしろ! シャトラは捨てろ!」
「そんな悪いことを言う口はこの口かぁ!」
「いらいいらいっ!」
「あ、コージが来たぞ! おーい! 遊ぼうぜぇ~!」
パワフルな子供たちがわらわらと寄ってきた。子供といって侮ることなかれ。力は強いわ頑丈だわ、すばしっこいだわで複数まとめて相手するのはかなり疲れるのだ。
「おいシャトラ、なんでおんぶして貰ってるんだよ? 変われよ」
「コージなんでシャトラおんぶしてんだ? 鬼ごっこのハンデか?」
「はやく抱っこ! はやく! はやく!」
「おれ、走るの苦手だ。石投げたい」
「あーそーぼーーーーー!」
子供たちが口々に騒ぎ出す。これがカオス状態ってやつだね、いっせいにあれこれ言われても僕は聖徳太子じゃないんだから聞き取れる訳が無い。
「ストーップ! すこし静かにしなさい! いいか、これから君達に試練を与える!」
「お、なんだなんだ? 新しいな」
「試練って、竜王様の?」
「コージの試練はわたしを抱っこする事だ、はやく!」
「俺できるかな?」
「あーそーぶーーーーー!」
こいつら人の話をろくに聞かない。だけどそれが普通だから怒らない。そして、ガキんちょ達が耳を傾けるように小声で指令を与える。
「綺麗な石を探してくる事、制限時間は三十分。一番綺麗な石を持ってきた子は、ぐるんぐるんどかんだ」
ひゃーだのひゅーだの、きゃーだのと僕の指令を聞いた子供達は一斉に山や川へと向かっていく。ぐるんぐるんどかんとは、文字通りぐるぐるジャイアントスイングで振り回し四十五度の角度で空へ打ち出すダイナミックな技だ。ドワーフバリスタなんてできるぐらいだから、子供の頃からこれぐらい飛ばしても大丈夫なのだ。僕にとってドワーフの子供は軽いので、勢い良くすっ飛んでいく。
「シャトラ、まだ痛いか?」
「んー…もうちょっと」
すこしうったぐらいで回復魔法とかしてたら、過保護かなと思って自然治癒に任せてるんだけど、シャトラもこれで中々甘えん坊なのだ。普通ならあれぐらいの打ち身なんて、すぐに忘れて遊びまわる筈だからねぇ。
そして、子供達が探し回っている間にちょっとぐるんぐるんどかんの替わりになりそうなものを作る事にする。倒木をずるずると持ってきて適当な大きさに切り出し、子供が座れそうな程度くり抜く。適当な太さの枝をこれまた適当に切り分け、くり抜いた木に突き刺す。これで簡単だけど乗り物の完成だ。
そして乗り物より少し大きめの倒木を使って台を作る。台の上に乗り物を乗せて、倒木でぶっ叩くと、勢い良く飛んでいくはず。少々荒っぽいけど、それがまた喜ばれるのを知っているので、これでいいのだ。
事実、作業中ずっと背中に貼り付いていたシャトラは、目を輝かせてわくわくしている。
「コージ! はやく抱っ…シャトラずるい! 降りろ!」
「いやだ! 今日は降りない!」
「ボスの命令だぞ!」
「う…ボスの命令は絶対だもんな。ちぇ」
なにかそういうお約束事があるみたいで、カオスで奔放な子供達だけどしっかりと守るべきルールはあるようだ。というか、ボスの命令ってどこで覚えてくるんだろうね。
「さぁ! 抱っこすると良いぞ!」
「はいはい。ミーシャちゃんは青い石持って来たのか。中々綺麗だねぇ」
「当たり前だ。宝物だからな!」
鼻高々なミーシャちゃん。さすがドワーフの子供って事かな。普段からやっぱり石とかを探してたりするんだねぇ。ミーシャちゃんが帰ってきてからぞろぞろと続いてほかの子供たちも帰ってきた。そして、僕が作った乗り物を見て一様に期待した眼差しを向けている。良かった、気に入ってくれてるようだ。だけど、飛んで行ったらもっと楽しいよ?
「さて、みんな綺麗な石を集めてきてくれたようで、お兄さんはとても嬉しい。そこで今日はぐるんぐるんどかんじゃなくて、ホームランストライカーに乗せてあげよう!」
「「「「「おー!」」」」」
よく分かってないけどとりあえず乗ってくれる子供たち。うん、空気読んでくれる子達でよかったよ。そして、石を持ってきた順番にホームランストライカーに乗せる。
「じゃあ、行くからしっかり捕まってろよー!」
「はーい!」
「そおりゃっ!」
ゴスッ! ヒューーーーーーーーーーー…
あ、ちょっとやり過ぎた。