変形! 合体!
北ブロックは多脚型がさかんという事もあって東ブロックとは違うパーツが多彩にある。驚いたのが戦車みたいに砲塔をのっけてる奴があった事だった。砲台という概念が無いのか、砲塔は正面を向いたままだけども。売り文句も“きみも重装型をぶちのこう”と物騒なんだかのんびりしているのか良く分からない文句になっている。あれだけの大口径だと確かに当たれば、とんでもないだろう。ちょっと萌えるね。
あと人気があるのがドリルパーツ。大小さまざまのドリルパーツがあり、多脚型だと尻尾をつけてその先にドリルを付けるのが人気だそうだ。やっぱりドリルって凄いね。そして、ドリルを取り付けるのにフレキシブルに動く尻尾も色々と取り揃えている。ほかにも隠し腕用の折り畳みが可能な腕部や、長大なブレードが一体化している腕や、逆間接の脚部などのパーツが見受けられた。
で、気になったのがセンサーの類を見かけない事だった。そういえばエレメンタルフレアにもそういった物が無かったので、自分で後付けしたんだけどそもそもフレームには無いものらしい。それだと完全に有視界戦闘しかできなくない…? 店員さんに聞いてみた所、魔道フレームにはフレームの魔力を感知する物が積んでるそうだけど、魔道フレーム以外はそういった物は積んでいるのは少ないそうだ。
「うーん…見える位置からのがちんこ勝負が主流って事かぁ」
やばい。レーダーで視界外からのミサイル攻撃なんてする僕は外道も外道じゃない? 確かにレーダーに頼らずに戦う事もできるけど、結構遠距離からチマチマするのも好きなんだよねぇ。で、接近戦が苦手だと思わせておいて敵が近づいてきたらガンガン接近戦で戦うというのが僕のスタイルだ。
「でも、変形して一気に離脱するとかも萌えるんだよなぁ」
「ですよね! 変形って素敵ですよねっ?」
「へっ!?」
急に話しかけられたかと思えば、さっきこけてた女の子が興奮した様子で話しかけてきた。
「でも、変形するフレームってほとんど無いんですよ。たまに変形フレームありますとか書いてあるお店に行っても、脚が折り畳めるとか、腕が折り畳めるとかその程度なんですよね。がっかりです」
「え、でも脚が折り畳めるならそれは凄いんじゃないの? そのまま二脚型になれそう」
「いえ、脚が折り畳めるのは単純に長時間移動する時に使う脚をローテーションする為だったりですとか、急な斜面を登る時に使うための予備脚だったりで名ばかりの物なんです」
大胆な変形とかは無いって事なのね。だとしたら今考えてるフレームなんかは、かなり珍しいだろうなぁ。人型から飛行機形態に変形するし。
「それじゃあ、フレームが合体して超巨大フレームになるとかは夢のまた夢かぁ」
「ががが合体っ!? 変形なら分かりますけど合体ってなんです?!」
「え? 五体ぐらいのフレームが変形して、一体の巨大フレームに変形して戦う感じ?」
「どういう感じなのでしょうか…?」
イメージできないのか、腕を組んで悩みだす女の子。
「フレームが脚に変形したり腕に変形したり、胴体と頭に変形してくっつくんだよ。だからでっかいフレームになるの」
「おぉっ! なるほどぉ! そんな大胆な変形をするフレームは見た事ないです!」
「いや、僕も見た事は無いんだけどね。で、君だれ?」
なんだか興奮して、ぐいぐい近づいてくる女の子。僕と同じぐらいの年かな? ローブで顔があまり見えないようにしてるけど、凄く距離が近いので今はよく見える。シルバーブロンドを長く伸ばしていて、澄んだ水色の瞳が忙しくなく動いている。すっとした鼻筋は高すぎず低すぎず、すこし薄めだけど小さな唇は綺麗な桃色で可愛らしい。体型は…スレンダーですね。
「あぁ、すいません。初めまして、サラって言います。フレームが好きで良くお店を見に来るんですが、あまり話しできる人が居なくなってつい…」
「僕は光…アースって言います、よろしくです。えっと、サラさんってフレームが好きなんだ?」
「はい、自分でも作ったりしてるんですけど中々うまくいかないんです。変形できないんです。それに中々同士も見つかりませんし…」
自分でも作るってこの子って、どういう子なんだろ?
「どんな変形をしたいの?」
「最高なのは人型から鳥型なんですけど、四足型から人型になって、最近発明された飛行ユニットで空を飛べたら最高です」
「それぐらいなら、売ってたりするんじゃないの?」
「いえいえ、とんでもない! 二桁のルーツにはそういうのもあるのですけど、市販のフレームではそんな変形する物は無いです」
「二桁のルーツとか見た事ないんだけど、そういうのあるんだ…」
父ちゃんのは三桁だしね。二桁のルーツってのはどんだけ強いんだろうか。しかも変形機構がついてるとか、羨ましいね。
「ルーツ自体珍しい物ですからね。でもこの国には王様がお持ちの「777」がありますし、五桁とはいえルーツが売られてますよ。これって凄く珍しいんですよ」
あ、ホワイトファングってやっぱりルーツだけあって有名なんだ。今まで誰も動かせてないから、駄目な意味で有名なのかもしれないけれども。
「隣のハイローディスですら四桁が二機あるぐらいですからね。でも、その隣の国のエルディバには先程言った変形する二桁のルーツがあるんですよ!」
「へぇ…ある所にはあるんだねぇ。変形する所とか見た事ある?」
「いいえ、絵で見た事があるだけです。で、その絵に人型から鳥型に変わっていたのを見て凄くときめいたんです!」
なるほど、エルディバとやらの二桁ルーツは僕の考えている機体と似てるみたいだね。スペックはまったく分からないけどきっと桁違いなんだろう。
「で、コージさんは変形するフレームを探してるのですか?」
「ううん、フレームを作るのに何か良いアイデアが無いかなって、売り場をうろうろしてるだけなんだ。資金も中々貯まらないしね」
「あううう…普通はそうですよねぇ…」
僕の言葉に何か落ち込む様子を見せるサラさん。今の話のどこに落ち込む要素があったんだろうか?
「あ、いえ! そのぉ…変形するフレームを知ってる人がいて嬉しかったんで、私と同じように変形するフレームを探したり作ろうとしてるのかなぁって勝手に思い込んじゃってて…」
「え? いや、作ろうとしてるフレームは変形する予定だよ?」
「えぇっ! 本当ですかぁっ!?」
僕の言葉に物凄く食いついてくるサラさん。いろんな形のフレームはあるけれど、変形とか合体とかするフレームって無いもんね。だから、凄い食いついてくるんだろうけど、近い、物凄く近いよ?!
「あ、すみません。つい…」
「うん、ちょっと落ち着いて欲しいなぁ」
セリナ達には耐性がついてるんだけど、やっぱり知らない女の子だと恥ずかしい。話はできるんだよ? だけど、近づかれるとそれもままならなくなるんだよね。いやはや。
「えっと、良かったら私の家に来ませんか? できればで良いんですけど、私の設計しているフレームを見て貰いたいのと、アースさんの設計したフレームの設計図を見せて貰いたいなぁって思うんですけども」
駄目でしょうか、と上目遣いで物凄く期待の篭った目で訴えられる。いや、知らない人についてっちゃ駄目って言われてるし、まぁ話しするぐらいならそこら辺のお店に入ればできるんじゃないかなぁ?
「えっと、そこら辺のお店で話をするっていうのじゃ駄目、かな?」
「いいえ、全然オッケーです! ありがとうございます! じゃあ早速行きましょう!」
「って、ちょっと待って落ち着いて? 行く、行くからっ!」
逃がしません、と鼻息荒く僕の腕をしっかり抱え込み手近なお店へと引っ張っていくサラさん。うん、スレンダーだけど無いって訳じゃないんですね。でも恥ずかしいからちょっと離して欲しいです、はい。
「せっかく見つけた同士ですから、逃がしませんよぉ?」
「聞いてないよね、僕の話っ」
結局、ぐいぐいと引っ張られながらお店に入った。どこにでもありそうな普通な軽食屋に見えるんだけど、まだ早い時間なのに結構お客さんが入っている。
「はい、二名様ご案内~」
なんか、カップルを見るような微笑ましい視線を投げかけないで下さい。さっき知り合ったばかりの人なんですからね?
「え、なんで隣に座るの?」
「ん? おかしいですか? こっちの方がお話しやすいじゃないですか」
「いや、それで良いなら別にいいんだけど…」
最初のおどおどした感じが嘘のように人懐っこい。そして、サラさんに通路側に座られるとなんというか捕まった気分になる。
「で、アースさん。これちょっと見て貰えますか?」
そういって、どこからともなく設計図をテーブルに置く。どこかに圧縮してしまってたのかな? サラさんの顔を見るとすごくうれしそうである。
「…これは、フレームの設計図かな? 所々抜けがあるみたいだけど…」
「はい、私が考えました。小型エンジンを三基搭載しています。なんで三基も積むかといいますと、これ内緒なんですけどね」
そういって周りを見渡して、さらに近づいてくるサラさん。
「三位一体理論と名づけたんですけど、三基のエンジンをこう配置すると莫大なエネルギーを生み出すんですよ。しかも小型エンジンの八型でないと効果がでないのでほとんど知られてないんです」
「小型八型ってほとんど出回ってないんじゃなかったっけ…」
「ですね。なので知ってる人が居ないんだと思います」
サラさんの設計図をよく見てみる。確かに小型エンジンが入るスペースが三箇所ある。胴体部分に三角形の頂点を下にする感じで配置している。むむむ。何かあった時に胴体と足にエンジンを分散する案を考えていたんだけど、せっかく三基積むならそれは勿体無いのかな。
「でも、普通に八型が三基あるだけで結構な出力になると思うんだけど、どうしてさらに出力を求めるわけ?」
何か大きな武装を積むのかなぁ? と疑問に思った事をサラさんに聞く。するとサラさんはなぜか恐る恐る答えてくれた。
「…それはこの翼です。これを鳥みたいに羽ばたかせる事によって空を飛ぶ予定なんですけどどうしても機体の重さを軽減できないので、出力はあればあるほどありがたいんです」
「なるほどぉ…」
羽でフレームを飛ばそうとするなら、確かに出力はどれだけあっても足りないぐらいだよねぇ。ていうか、この子飛行フレームは見た事ないのかな?
「アースさんは笑わないんですね」
「何か笑う所あった…?」
「フレームに羽を付けて飛ばそうと考えているって言ったら、皆が皆それは無理とか頭のおかしい子みたいに言って笑うのです」
「空を飛びたいから、鳥の形を真似するっていうのは別におかしくないと思うんだけどなぁ」
「やっぱり同士ですね! 話して良かったぁ」
よっぽど嬉しかったのか、僕に飛びついてくるサラさん。そして、そんなタイミングで注文した飲み物を持ってくるさっきの店員さん。並んで座って抱きあってる僕たちを見て、ほどほどにねという視線を投げかけてくる。
「ごゆっくりぃ」
誤解なんです、店員さん。
その後は、さらにフレームについて話をした。操縦方法の議論や、パーツの組み合わせによる相乗効果などをサラさんが教えてくれたので、僕も”ドゥエーリン“の事を教えてあげた。どうもサラさんはかなりフレームのお店に通っていろいろ試しているようで、僕よりかなりの知識を持っているようだった。
おかげで僕のフレームの改良案も色々出てきた。そして、僕を家に招待しようとするサラさんにまた明日設計図を見せる約束をしてその日はなんとか別れた。