夜の夢の後
ガガァン!
デカブツの足元でエネルギースピアが爆発する。とはいえ、デカブツの大きさからすればほんの少しの爆発でしかない。だけど、デカブツには爆発が効くようで慌てて回避していた。カノン方を避けていた事もあって、実弾系が苦手なのかもしれない。
デカブツが慌てたように塊を大量に吐き出す。そして、さらに塊の存在に構わずに指先からレーザーをばらまいてくる。いや、むしろ塊を狙ってる…?
「っ!?」
その理由はすぐに分かった。塊はデカブツのレーザーを偏向、拡散させる効果があるようで、五本のレーザーはあっというまに十本、二十本と増えていきホワイトファングを取り囲むようにレーザーの雨が降り注ぐ。
デカブツのレーザーはホワイトファングにとってかすれば装甲を融解させてしまう威力がある。エナジーフィストを使ってある程度はいなす事もできるけど、これだけの数のレーザーともなると被弾率も高くなる。
「ちょっとうっとうしいな、これ!」
レーザーの雨はやむ事無く降り注ぎ、塊の数もいや増す一方だ。回避に手が一杯で攻撃することができないせいで塊の数を減らす事もできず、レーザーも撃たれるがままなのでこのままだとジリ貧だ。ここは強引だけど接近する方が被弾率も下がる筈。少々の被弾は覚悟の上で、まっすぐひたすらまっすぐにデカブツを目指す!
「少し我慢してくれよホワイトファング!」
「うむっ!」
地表すれすれを地面を削るように駆け抜ける。機体の修復が追いつかず右手は肘から先が溶けて無くなり、左腕も肩の装甲が剥がれ落ちている。脚部も似たり寄ったりで満身創痍といったところである。だけど、近づいて近接攻撃で内部から切り裂いていけば、こちらの勝ちだ!
だけど、デカブツに近づいた僕をあざ笑うかのように僕の目の前に、多数のフレームが姿を現した。どうやらデカブツの足元に潜んでいたようだ。
「ちょおっと卑怯くさくないこれ?!」
「ケージ解除じゃ! 逃げるぞ主!」
だがしかし、逃亡を図ろうにも周りには塊が所狭しとひしめき合い、デカブツの近くから数え切れないフレームが多数こちらへと殺到してきている。
「ライフル!」
「おう!」
と、ライフルを出したけどすかさず撃ち落されてしまう。降り注ぐレーザーの雨にフレームからの弾幕。隙在らば押し寄せてくる塊の一群。すでに回避も追いつかず被弾するがままになっている。
「これはちょっとまずいかな…」
あらゆる警戒音が鳴り響く中、冷静になろうと努める。これが万全の体制であれば、対多数戦もなんとかなるんだろうけど、デカブツの足元に来るまでにすでに満身創痍の状態だ。こうなってしまうと、反撃もままならない。なんとか動く左腕を使い最後のあがきをしながら、逃亡ルートを模索する。一番、弾幕が薄い所はどこだ…
「上じゃ! デカブツに向かって抜けるのはどうじゃ!」
「よしっ!」
塊と極太レーザーが来るとはいえ、大量のフレームからの弾幕などに比べると確かに一番マシなルートと言える。一気に駆け抜ける為にデカブツにギリギリまで近づいてから、上昇を開始する。
だけど、それは一番の下策だった。
「うわぁっ!!!」
「しまっ…」
脚部、胸部と順調に上昇をしてもうすぐ突破出来る所で僕が見たもの。それは大きく口を広げて、ホワイトファングを飲み込まんと迫り来るデカブツの大きな顔だった…
「うわぁあああああああああああっ!」
目が覚めた。いや、これは凄い悪夢だね…夢で良かったよ。さすがにまだ動悸が早い。そうだよね、あんなでっかいフレームなんて無いよねぇ。戦ってみたい気はするけども、あそこまで差があるとちょっとだけ厄介だろうね。まぁ、夢だから色々おかしな点があったから、実際にあんな大きなフレームと戦う事になっても大丈夫だろう。
何時頃からか、何故か皆と同じベッドで寝るのが当たり前となってきている。今日は僕の横でセリナとミミがぐっすりと眠っている。結構凄い勢いで飛び起きたけど二人は起きなかったようだ。よかった。
「でも、夢の中でも一人で戦うとか駄目だなぁ…」
ホワイトファングがいたから厳密には違うのかもしれないけど、やっぱりどこかで僕の味方は居ないと思ってるのかな。セリナもミミもフレームに乗るのは苦手だけど、あんなデカブツと戦うと知ったら何か援護してくれるだろう。
「…マスター?」
「あれ? ヒロコ起こしちゃった?」
ちょっと離れた所にいたヒロコが声を掛けてきた。さっきまで横になっていたからてっきり眠ってると思ってたよ。
「ううん、寝てないからねボクは。精霊だからか別に無理に寝なくても良いんだよ」
その割にはしっかり食べるものは食べてる気がするんだけど、それはどうなんだろうか。
「じゃあ別にセリナ達とどこで寝るか争わなくても良かったんじゃないの?」
「やれやれ。マスターは駄目だねぇ、乙女心をなんと心得る!」
「乙女ってこんなに大胆なものなの…? もっとこう恥じらいを持ってる物かと…」
なんというか、手をつなぐだけで顔を赤らめると言いますか…見詰め合うと頬を赤く染めてくれるとか、かいがいしく世話をしてくれるとか…
「そんな乙女はファンタジーだよ! 食べたら出すし、おっさんくさい所もあるよ!」
「いやそこは聞きたく無かった、というか考えたくなかったなぁ…」
いや、どこかで理解はしてるんだよ? 理解してるんだけど聞きたくない現実ってあるでしょ? あるよね?
「というか、何を言わせるかなマスターは。叫びながら起きるから、心配してあげたのに。しかもうんうんうなされ過ぎだよ?」
「途中までは良かったんだけど、どんどん追い詰められたからなぁ。ていうか、うなされてたなら、たたき起こしてよ?!」
最初は巨大フレームと戦うぜ! って意気込んでたんだけど、なんかどんどん不利になってきてえらい目にあったよねぇ。最後の方はボコボコにされちゃったし。
「何か不安があるから悪夢を見るんだよ。ボクでよかったら相談のるよ?」
「不安…ねぇ。貴族が何してくるかさっぱり分からない事かなぁ。一応、分身を使って警戒はしてるけど、結局数で押されたらどうしようもないんじゃないかって、不安になる」
この世界に来て一年程になるけど、知り合いはそこそこ増えてきたんだけど仲間と胸を張って言えるのって、一緒に住んでる皆ぐらいだ。ハルト達は友達だとは思ってはいるけど。
「セリナもミミも居るじゃない」
「そこはボクも居るってアピールしてよ、ヒロコ」
ヒロコは色々できるとは思うんだけど、絶対に戦おうとはしない。遺跡に潜ってる時も応援がほとんどで、たまに治癒魔法を使ったりするそうだ。でもヒロコってゲームがあれだけ得意だったから、フレームに乗って貰えれば良いコンビプレイができる気がするんだけど。
「ボクは応援係だからね。でもマスターがどうしてもって言うなら力を貸すけど?」
そういって何時に無く真剣な面持ちで、まっすぐ僕を見つめてくるヒロコ。
「ううん、ヒロコはそのままでいいよ。いつも通りふんぞり返ってくれたらそれで」
「えー!? ふんぞり返ったりしてないよぉ!失礼しちゃうな!」
「あはは、ごめんごめん。なんにせよいつも通りで良いよ、うん」
まったくもぉ、とぶつぶつと怒ってるヒロコ。だけど、口元は笑っているから別に本気で怒ってるわけじゃないんだろう。それにヒロコが力を使うという事は、きっと王の印の力を使う事になるだろうから、なるべくなら控えて置きたい気持ちもある。時々ちくちくと痛くなる事もあるけども、印があるから特に何かあるとかは無い。それに中の人が居るって父ちゃんが言ってたけど、そんな人が出てくる印って本当に謎過ぎる。
「まだ早いから、寝るね」
「うん、おやすみマスター」
「おやすみ」
そして悪夢のことはすっかり忘れて、また夢の中へ誘われて行った。