貴族の暗躍
狩りがひと段落ついて、今日は早めに帰途についた僕たち。
今回の狩りは前回の狩りと違い、新しい種類を探すことを優先した。なにせ、一度でも高級素材を手に入れる事ができれば、次からは同じモンスターを探す事が格段に楽に成るからだ。おかげで、ホーングロウという一本角の鹿や、レインボウバードという見た目は地味なんだけどお肉がとても綺麗な鳥などの新しい高級食材を、手に入れることができた。
狩りは順調だったけど、心は晴れない。まぁ、あんな貴族に目を付けられたら誰でも憂鬱になるよね?
帰ってから、あの貴族に対してどう動くかを考えていた。
なんだかんだと強引に素材を持っていくので、素材のほとんどを指輪にしまっておき、指輪にも少し安全装置を仕込む事にした。まぁ、単純に本人しか出し入れできないのと、指輪をはずすのも本人か、本人が認めた人しか外す事ができないようにしただけである。
「うーん、あの貴族に取られる分を考えないとねぇ。ていうか、素材を横取りされるのも嫌だし、いっその事ロバス目指しちゃうってのも手だよね」
「そうですねぇ。このままヒューイックの町にいても、狙われそうですしそれも良いかもしれません」
「ボクは早く違う所に行きたいな。あの人ヤダ」
とりあえず、今回の素材をある程度換金したらロバスを目指すことにした。ロバスまで行くお金は充分にあるから、なんとかなるしロバスについてからまたお金儲けすればいい。
今はとにかく、貴族から離れてしまいたい。
そんなこんなで、町に戻ってきた僕たちはエリカさんの店に顔を出した。
「こんにちはエリカさん。また買い取って欲しいんだけど・・・?」
なんだか様子がおかしい。いつも愛想の良いエリカさんが僕たちが来た途端、暗い雰囲気になった。
「悪い。買い取りはできないんだ」
と、言葉少なに語るエリカさん。そしてセリナを見ながら何か紙を渡した。
「・・・はい、分かりました。お邪魔しましたエリカさん」
紙を渡されたセリナは一瞬はっとしたが、すぐに何もなかったようにそう言って、店の外に出て行った。
ちょいちょいと、セリナにひっぱられて店の外から裏の路地へ向かった。
「この分だと、今日はどこも買い取りはしてくれなさそうですコージ」
「ひょっとして・・・?」
と僕が言うと、こっくりとうなづくセリナ。
「はい、その想像で間違いないかと。わたしちょっと町を見てきますね」
「どうしたの? 何か気になることがあるの?」
「はい、少しひっかかる事があるんです。先に宿に戻って貰えますか?」
「うん、わかった。何かあったらすぐに連絡して? すぐに行くから」
「はいっ、わかりましたコージ。では、さよなら」
すごい笑顔で答えてくれたセリナ。バイバイと手を振って町の中へと消えていった。
とりあえず、あの貴族に渡す分を鞄にいれて宿にもどるとしよう。
「ずいぶんと遅かったな、ガキ」
宿に帰るなりこれだよ。僕を待ってるなんて相当に暇なんだなこの貴族は。
「今日は獲物が中々少なくて、ぎりぎりまで粘ってたんですよ貴族様」
敬語とか良くわかんないけど、最後に貴族様といえば問題ない。指摘されたら田舎者だから言葉使いが分からないと言って誤魔化そう。
「まぁいい。はやく出せ」
本当に嫌な奴だなぁ。とりあえず、鞄から素材を取り出した・・・んだけど、取り巻きに鞄を奪われ、がさがさと中身をテーブルの上にぶちまけられた。鞄をくまなく漁ってる所をみると、僕がちょろまかすと思ってるようだ。
まぁそれは間違いないんだけどもね。
「これで全部か。しけてやがるなぁ、おまえふざけてんのか?」
いやこれでも全部売ったら100ゴールド近いんだけど何言ってんだ、こいつ?
「ぎりぎり頑張ってこれだけなんですよ。勘弁して貰えませんか?」
「ちっ、仕方ない奴め。まぁいい。だが、ちょろまかせると思うなよ?」
貴族は嫌な目で僕を見る。なんだろう、常に人を見下し蔑み自分以外の人間はどう扱っても良いと思ってるのが、ありありと分かる目だ。
「でも、このままだと僕も宿代が払えなくなってしまいます・・・」
とりあえず、少しは金を渡せよこんちくしょう。
「俺が知るか。宿代が無いなら外で寝てろ。おい、行くぞ」
と、ぞろぞろと取り巻きを連れて出て行った。うわ、鞄が踏まれてぼろぼろだ・・・
わがままな上にケチだなぁ、あの貴族。だけど、何かひっかかる。
はぁ・・・
ため息をつくと幸せが逃げるって分かってるけども、ため息をつかずにはおれなかった。
そして、その日。セリナが帰ってくる事がなかった。
わかりやすい。そして、話の斬り方はお約束?
次週につづく。
うそです。もうちょっと早いです。