地味な二人、いや一人?
「一号」
「んー?」
通称、エドを見つけてなし崩し的にあほ次男坊も見つけて制裁する為の監視部屋で、僕たち二人は監視作業にいそしんでいる。衛星から特徴が少しでも一致している人間の写真を片っ端から確認していき、確率
の高そうな物をどんどんチェックしていく。ついでと言ってはなんだけど、周辺国の様子も念のため監視してもいる。ハイローディスだっけ? またあそこがちょっかい掛けてこないとも限らないし。
「僕達って、なんというか地味だよね」
「いやいやこれぞ縁の下の力持ちだよ。これで僕が一人だけなら、心の平穏も満たされるんだけどねぇ」
「まぁ、自分が二人以上いるとか異常事態でしかないしね。ドッペルゲンガーも真っ青だね」
僕としては一人でコツコツとする事は好きだし、人の目が無い所はなんか落ち着く。どっちかというと僕の根っこは、一人で居る事が好きなんだよね。それは自分であっても居ないほうが良い。
「だけど、僕もそろそろ仲間というか信頼できる人を増やす必要があるんじゃないかなぁ? なんていうの物語の展開的にってやつ?」
「何、藪から棒に」
「いや別に突飛な話でもないでしょ。こういう作業も仲間がいればツテを頼って人探しもできるだろうし、貴族と戦うときでも一緒に戦ってくれる人がいれば心強いじゃない?」
そういうと一号は苦い顔をしている。まぁ理由はわからなくも無い。
「友達とか仲間ってどうやってできるんだろうねぇ・・・」
「自分から作ろうとか、無理ゲーだよね」
友達を作るぐらいなら、こうやって地味な作業をしている方が気が楽だ。楽なんだけどもやっぱり仲間を作りたい。だけど、こんな打算的な理由で仲間を作って良いんだろうか。僕にはそういった割り切り方ができない。だから仲間を作るという事がすごく難しく感じる。具体的にどうすれば良いか、全然分かんないもんなぁ。
「「はぁ・・・」」
同時にため息をつく僕達。正直、セリナ達が仲間になってくれたのだって奇跡みたいなも
のである。ハルトたちも向こうから声をかけてくれたから、仲間になれたのであって自分から進んで仲良くできるとか考えてなかった。話をするだけなら別になんとも無いんだけどなぁ。あとはテンションが上がってるとなんかそういった事もできる気がする。
「とりあえず、自分から声を掛けていかないと駄目なんだろうなぁ」
「でも、なんて声を掛ける? 仲間になりませんかーとかじゃ駄目でしょ?」
それに誰でも彼でも声を掛ければ良いって訳じゃないし。すごい人当たりが良くて優しそうな人でも、実はすごい詐欺師だったとか、なんかめちゃくちゃ威張ってるから強い人かと思ったら、見栄を張ってるだけの人だったら、どういう事になるか見当もつかない。
「うーん・・・本当に僕って自分から友達になったのってエドぐらいじゃない?」
「それにしたって切欠はエドが作ってくれたみたいなもんだし。ふんがー!」
三人寄れば文殊の知恵といいますが、ここに居るのは残念ながら二人というか実質一人。でもこんな事を相談するとかちょっと恥ずかしいからできないよね。
「というわけでうさぎさんの出番なのですよ!」
うんうん唸っている僕達の前にコスプレイヤーが居た。ど、どどどどうやって入ってきましたかっ!?
「んもぉう。せっかく光ちゃんが二人もいるから、一人ぐらい母さんの所に来てくれると思ってわくわくしてたのに、いつまで経っても来ないから気合入れてきたよ!」
「いや、気合入れる方向が違うから。それは父さん用の気合の入れ方でしょ!」
僕たちに向かって無駄にお色気を振りまかれても正直困る。
「そこはそれ気分の問題ね。で、光ちゃんは友達ができなくて困ってるの?」
ビキリッ!
「そんなことあるわけないじゃない、やだなぁかあさん」
「ともだちができないなんてそんな、ひとをひきこもりみたいに」
必死に反論している僕たちをなんだか、きらきらした目でみつめてくるうさ・・・母さん。なんだろう、あのきらきらした目を見ていると言い知れない不安と期待が入り混じった複雑な気持ちが湧き上がってくる。いや期待しちゃ駄目だ、母さんだぞ?!
「まぁまぁ、そんなに警戒しなくても平気よぉ? 今はミミちゃん達は家に居ないからさっきの話は母さんしか聞いてないわよ」
そんな大きな声で話ししてたっけ? って、えぇっ?!
「そんなにびっくりしなくても。うさぎさんの耳は伊達じゃないもの、聞こえて当然でしょ???」
「いや、その耳は間違いなく伊達でしょっ?」
「あんっ」
「ええぇっ?!」
母さんのうさみみを引っ張ったら変な声だされた。いやそれはどうでも良いんだけど、なんかうさみみが生暖かった・・・なにこれ。一号も触ってびっくりしてる。
「伊達じゃないって言ったでしょ? せっかく魔法が使えるんだから半端な作りこみはしてないわよっ!」
なんか凄く胸を張って得意そうにそう言い放つ母さん。あたまいたい。
「母さんってコスプレ好きな人だっけ?」
「いや、そんなのは知らないんだけど。父ちゃんの趣味じゃなかったのかな?」
「そんな話題は良いから光ちゃんの悩みを解決よ!」
ちっ。さすがは迷惑ハリケーン。人の弱みを突っ込むのが得意なだけあって、こんな事ぐらいじゃ誤魔化されないよね。
「で、じっくり話してみんしゃい。勇司さんには内緒にしてあげるから」
ぴこぴことうさみみを動かしながら、にっこりと僕たちに詰め寄る母さん。ばれてるなら仕方ないか。観念してちょっと相談してみようかな、僕たちじゃ悩むばかりでちっとも前に進まないしね。
キンッ!キキキキキキキンッ!
まだコージはレイピアを弾き続けている。ときどき、切っ先を支点にしてグリップを叩き付けたりもしてはいるけど、それですらうまく弾いてくる。コージの動きの早さばかりに目がいってたけども目もかなり良いのね。コージが弾いてどんどん回転が加速しているのに、いまだに綺麗にさばいている。
「よしっ!」
何か思いついたのか、コージがレイピアを受けずに回避しだす。レイピアの回転もかなりのものになり、風が渦巻くほどにまでなっている。これだけ早くなれば十分ね。まぁ十分どころかここまで加速したのは初めてだから、問題は私がしっかり制御できるかどうかね。
コージが何か次の手を打つ前に、こちらからさらに仕掛けましょう。右手のレイピアを後方にかざし、左手のレイピアをコージに向かって振り上げる。あらっ? コージが凄い勢いで顔を逸らしたわね。戦闘中に余所見とか余裕じゃない!
「“シルバーレイン!”」
回転するレイピアの切っ先から無数の銀光がコージに降り注ぐ。
「うっくっ!?」
咄嗟にガードしながら距離を取るコージ。殺気には凄い反応を示すみたいね? 余所見をしていた割にはうまく防御しつつ銀光の範囲から逃れようと動いている。だけど、この雨はまっすぐ進むだけじゃないのよ?
「ちょっ!? なにこれっ?!」
あなたの魔力のおかげよ、コージ。あなたが弾くたびに少しずつ魔力を貰っておいたの。で、同じ魔力へ帰っていくように銀光を誘導してるわけ。そして、雨はまだまだ降り注ぎますわよ?
ですが、これだけ大量の雨を降らす事は初めてです。うまく拡散してしまわないように制御しませんと・・・正直コージの魔力は重い。おかげで私の魔力が弾き飛ばされそうになります。・・・欲張って集めすぎましたわね。
表面は冷静な顔を保ちつつその実必死に制御していますが、その間もコージは銀光をいなし、叩き落し、たまには食らってはいるものの、いまだに動きにキレがある。ほぼ全方位から襲い掛かるそれをここまで見事に反応するとは、正直コージを侮りすぎてました。普通ならこれでだいぶ弱らせる事ができるのですが・・・
「なるほどなるほど!」
なにやら、納得した顔で頷いているコージ。見れば銀光を手や足でうまく誘導し、見事に相殺したりしている。回避するならまだしも、相殺していくとか嫌らしい対処の仕方をしますわね! ならば、そんな事をする暇も与えないようにしましょう!
「“ストーム!”」
温存していた右手のレイピアも同時に解放する。右手と左手から銀光がとめどなく撃ちだされ、中にはくっつきあって大きくなって飛んでいくのもある。ストームは大小さまざまな大きさの銀光が相手を撃ちぬく技なのです。
これで駄目なら・・・いえ、今はそんな事を考えずに、ストームをしっかり制御してコージを降参させる事だけを考えましょう。