本命
ゴスゥッ! ゴッガッゴッ!
うぅーん・・・気をしっかり持っていても、やっぱり頭突き痛い。師匠も結構血が出てるけどまだ手を出そうとしない。まったく強情だなぁ、手を出して反撃すればこの態勢からすぐに抜け出せるのに、あくまで手を出そうとしない。おかげでこっちもフラフラしてきた。そんな事を考えつつ、大きく背を反らしてもういっちょ頭突きをしようとした。
「せっ!」
僕が背を反らすのに合わせて師匠も勢い良く背を反らしてそのままバク転をしながら脱出していった。肩を抑えていた手が緩んでいたみたいで逃げられてしまった。
「いい加減手を出して戦いましょうよ、師匠」
「負けそうになればな」
この程度ではまだ出さないって事ですか。じゃあもっと本気出して貰わないとね! 腰を低く落とした体勢のまま滑るように間合いを詰める。
「しっ!」
間合いに入った所で後ろ回し蹴りを放つ、だけど師匠は僕の蹴りを無駄に飛び上がりながら回避する。空中戦を誘ってるね!
「せいやっ!」
蹴り足をすぐさま引き直し、空中の師匠に向かってやくざキックの要領で蹴りを放つ。だけど、待ち構えていた師匠は僕の蹴りを蹴りで合わせて更に上へと昇っていく。僕は手も使ってジグザグに師匠を追いかけ同じく駆け昇る。
「ふっ」
追いかけてくる僕を叩き落とすかのように、師匠が急に仕掛けてきた。回転とひねりを加えた蹴りは重く、とっさにガードした腕が一瞬痺れるほどのものだった。そして、ガードされたと知るやすぐさま距離を取る師匠。常に僕より上の位置の間取りを崩さない。
足をぶらぶらとさせ右へ左へゆらゆらとしながら、僕を見下ろす師匠。僕が上がれば同じように上がり、降りれば降りる。そして隙があれば仕掛けてくるという嫌らしい攻撃をしてくる師匠。空中戦を誘ってくるだけあって、その動きは無駄がないように見える。そして常に上を取られてるので、僕は不利だ。なんとかしないと。
「どうしたコージ。俺に手を出させるんじゃなかったのか?」
そういって挑発してくる師匠。うぬぬぬ。関節技に持っていけば手を出させるんだろうけど、空中戦だと逃げられちゃうんだよねぇ。何かいい手はないだろうか。よく考えろ! ・・・って、ロクでもない手を思いついた。これがうまくいけば手を出させる事ができるはずだ。
「うるさーーーい!」
僕は無策のまま突っ込むと思わせる為に、挑発にのって突っ込んで行く。ゆらゆらと浮いている師匠はそんな僕を冷静に見つめている。そして、蹴りの間合いに入った瞬間に師匠は鋭く僕に蹴りを放つ。それに対して僕は右手で横へ逸らしつつ、足をそのまま左脇に挟みこむ。
「ぬっ?!」
何か関節技を仕掛けられると思ったのか焦った様子で、反対の足で僕の肩を狙って蹴りを放ってくる師匠。思った通り! 蹴りを肘でブロックして浮かせ、すかさず右手を絡ませ脇に挟みこむ。さぁ両足はこれで封じたよ。
ニヤリ
「おまえっまさかっ!?」
「そのまさかですよ師匠! 食らえ電気アンマ!」
なんとか逃げ出そうと身を捩るけど、うまく動きをカウンター気味に合わせる事で押さえ込む。そして、必殺の電気アンマ!
「まじかぁあああああ!」
真剣な勝負にこれをするのもどうかと思うけど、勝負とは非情なものでもあるのですよ。下手に動けば動くほどダメージがいく。さぁ、手を出して足をどけない限りこの痛みはずっと続きますよ、師匠!
「さぁさぁ! 観念して手を出せぇー!」
「だぁっ!」
気合を入れて手を出して僕の足をどける師匠。どけると同時に足を引っこ抜いて間合いを取る。うん、いくら空中とは言え手を出せば電気アンマなんてすぐ抜け出せるんだよね。
「手を出しましたね師匠」
「・・・反則気味だが仕方ない。一旦降りるぞ」
そういって、地面に向かって落ちて行く師匠。あ、またポッケに手を突っ込んでるし。そんな師匠を追いかけ僕も地面に向かって落ちて行く。よっと。
「で、コージよ。今日ここに呼んだのは他でもないおまえに戦って貰いたい相手がいる」
「え、あれ? 新技を試したいだけじゃなかったんですか?」
「ん、それもある。だが本命はこっちだ。セシリア!」
えぇええ? 師匠がセシリアを呼ぶと演習場にゆっくりと姿を現す。しっかり武装している所をみると戦うって事なのね。ていうか、連戦ですか。
「お前たちは最近喧嘩したと聞く。そのわだかまりを決闘でぶつけてすっきりしろ」
「えっと喧嘩してるのに決闘したら余計こじれませんか、普通?」
僕の言葉にぴくっと動く師匠。その顔にはありありとそれは考えていなかったという表情が貼り付いていた。・・・ししょぉう・・・ それにセシリアも入ってきたは良いけどずっと黙ってこっちを見てるし。
「ぶつかり合って分かるものもある! 四の五の言わずにやれ!」
あ、誤魔化したし。
「コージ」
「は、はいっ!」
久しぶりにセシリアに名前を呼ばれた気がする。いや気のせいじゃないけども。
「ヴァイスのいう事も一理あるわ。それに私はやる気で来てるの」
そう言って、レイピアを静かに構えるセシリア。なんかストレスのはけ口にされそうな予感をひしひしと感じるんだけど・・・
「コージは魔格闘だけで戦うように。おまえの強さを俺に見せろ」
「・・・了解」
「はじめっ」
ヴァイスの合図と共に間合いを取る。そういえばコージと戦うのは久しぶりね。しかも今日は良くわからない魔格闘で戦うし。ヴァイスが考えた技術だから、今一つ情報が少ない。ただ、ありえない角度から攻撃してきたり、いつまでも連撃が止まらないとも聞く。
でも、本当をいうと決闘などせずにコージに謝りたい。ハルトに我慢しろと言われてたけどここでコージに勝てば謝っても良いと言ってくれた。だから、是が非でも勝たないといけない。でも、謝るために勝つというのもおかしな話よね。
「“風よ! 我が敵を斬る力を貸せ! カッター!”」
レイピアに風の属性を付与する。動きのすばやいコージ相手には、スピードと正確性が必要だ。そして属性を付与した瞬間、コージが飛び込んでくる。
予備動作無しにいきなり飛び込んできたコージに右手で斬りかかる。私の剣を見切っているようで、紙一重で軌道から逸れるコージ。だけど、その目は私の剣をまったく見ていない。さらに懐に迫るコージに左手で横なぎに剣をふるう。
その攻撃を後ろに倒れながら回避するコージ。そんな体勢じゃ突いてくれと言わんばかりね!
「“穿光”」
一瞬で六回の突きを放つこの技。以前は四回しかできなかったが、ここ最近の遺跡めぐりのおかげでここまで放つ事ができる。だけど、コージは普通ならバランスを崩してもおかしくない体勢のまま、私の右側に回りこみ難なく回避してしまう。噂には聞いていたけど実際に見ると気持ち悪い動きねっ!
「“炎よ! 我が前に踊りて其をしめせ! バーンウォール!」
コージに攻撃されるより先に炎の壁で動きを封じてから、間合いを取る。炎の壁なんてコージにはダメージにもならないだろうけど、目くらましにはなるはず。
ボッ!
と安堵したのも束の間、コージは炎の壁は回転しながら突き抜けてくる。そして回転したままこちらへと殺到する。
そして回転しながら蹴りを放ってくる。すごい回転のせいか風が勢い良く吹き付けてくる。蹴りをハンドガードでなんとかブロックしながら反撃の機会を伺う。あんなにくるくる回って目が回らないのが不思議。ふと、攻撃が止みあわてたように間合いをとるコージ。心なしか顔が赤い。やっぱりこの攻撃は負荷がかかるようね。ふとヴァイスを見るとヴァイスも顔が赤い。おかしいわね?
「“風よ! 我が敵を戒める力を貸せ! ヘティス!”」
すばしっこい上に変な動きで翻弄してくるから、少しでも動きを鈍らせないと攻撃が当たりそうにない。右手のレイピアの属性はそのままにして、左手の方を動きを鈍くする属性を与える。まぁどっちにしても当てないと意味がない。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン・・・
レイピアをくるくると回転させながらコージへと歩み寄る。ちょっと大道芸っぽいけど、この技は意外と侮れないのよ? コージもどういう意図で回転させているのか理解しかねているようで様子を伺うようにじりじりと時計周りに移動し始める。
キンッ!
くるくると回転するレイピアがコージに弾かれる。だけど、弾かれたレイピアはまた元の軌道に戻りさらに加速して回り続ける。さぁ、もっと弾いて下さいな。
不思議そうな顔でこちらを見ているコージ。それはそうよね、確かに横に弾いた筈がまた縦にくるくると回り始めるんですものね? コージは確かに強いのかもしれない。ですがこと対人戦においては私も中々の物ですのよ。
キンッキキキキン!
一回で駄目なら、さらに数で回るレイピアを止めようと弾きまくるコージ。うん、術中にはまってくれました。少し痛い目を見て貰いますわよコージ。