ミミのターン!
昨夜の事件はさっそくアップしといた。その内他の僕も気づいて記憶を共有するだろう。共有して鼻血を出すと良い。僕からのサービスだ。今もちらっと昨日の事を思い出すと鼻に込み上げてくるものがある。とくにミミはやばい。駄目だ思い出しちゃ駄目だ。
「朝から真っ赤な顔してどしたの? ゆうべはオタノシミデシタ?」
「おはようございます先輩。朝から何を言ってるんですか」
今日に限っては当たってるんだけどね。この先輩にそんなそぶりを見せたら同じ事をするとか言い出しかねないのが怖い。
「え、楽しくなかったのコージ?」
「ミミ!」
「なになになに? やっぱりお楽しみがあったの、ミミちゃん?」
そんな先輩の生態をよく理解していないのかミミが口を滑らす。とっさにセリナが嗜めたけど後の祭りだよね。先輩の顔が生き生きとして鼻息も荒くなってるよ。さぁどうやって誤魔化そう・・・
「コージと仲良くない人には教えてあげない」
騒がしくミミから聞き出そうとしているエイジス先輩に向かってミミがそう言い放つ。あれ? ミミって意外とエイジス先輩を嫌ってる?
「えぇ、ミミちゃんひどぉい!? こんなにコージ君と仲が良いのに、なんでそんな事言うの?」
「ちょっ、離して下さいよっ?!」
仲が良いアピールのつもりか、腕を絡めて寄りかかってくる先輩を引き離そうと頑張る僕。だけど力負けしてて引き剥がせない・・・とほほ。
「ううん、仲良くしようとしてない。あなたは自分を納得させる理由を探してるだけにしか見えない。そんなあなたにコージはなびかない」
そういって僕から先輩を引き剥がして距離をとって、あかんべをするミミ。なんだろ、ミミってエイジス先輩が嫌いだったのかな? 今まで特に何も言わなかったのは実は嫌いで無視してただけだった?
「うーん、嫌われちゃったかな? コージ君ごめんね、お姉さん先に行ってるね! またね!」
「あ、はい。それではまた」
子供みたいに敵愾心をむき出しにするミミを見て、苦笑しつつ去っていく先輩。さすがに居た堪れなくなったみたいだね。でもミミがあそこまではっきり物を言うとは思わなかったなぁ。
「ミミは先輩が嫌いなの?」
「うん。あの人がコージの事を好きなら別に嫌いじゃないけど、あの人はそうじゃないから嫌い。きっとコージがあの人を好きになったら離れていくよ」
「なんというか厄介な人なんだね。でも、なんでそんな事がわかるの?」
時々ミミは普通じゃ思いつかない事を言うけど、僕が見る限り先輩はそんな風に悪意を持って接してたようには見えないんだけどなぁ。セリナも特に何も言って来なかったし。
「だって、あの人コージに自分の事を話した事ないもん。それにコージの事も特に知ろうともしないし。おかしいって思ってからずっと見てたから間違いないよ」
「そういえば先輩の事ってろくに知らないなぁ」
というかミミは本当によく見てるのね。急にこんな事を言われてもピンとこないんだけどミミがここまで言うので、少し気をつける事にしよう。
「でもミミの話が本当なら女の人って怖いよねぇ。いつもあんな笑顔を見せてくれてるのに、腹の中では悪巧みしてたとか。もし知らずに好きになってたら女性不信になるよね」
「ミミとセリナは大丈夫だから安心して!」
そういって笑顔で飛びついてくるミミ。反対側にはセリナがさも当然という顔で寄り添ってきた。うん、この二人がそんな事をしないっていうのは信じられる。というか信じたい。もしこの二人に嫌われたら僕はどうなるんだろ?
「で、ボクの事を空気扱いにしていい度胸だ!」
どーんとミミを突き飛ばすヒロコ。うん、ずっと黙ってるからそういう話は苦手なのかなって思ってたんだけど、つっこみを入れるタイミングを待ってたのね。
「なによ! ヒロコはおいしい物食べてたら幸せでしょ?」
「ふふーん、マスターが作ってくれる物限定でぇーす。それにボクは君たちが知らないマスターの事も色々知ってるもんね。なのでアドバンテージはボクにある!」
「そんなの関係ないもん!」
ていうか、最近おとなしかったヒロコがまた活性化してきた! 君は暖かくなると活動的になるとかそういう変温動物的な所があるの? というかミミと普通にやりあえるとかおかしいよね、ヒロコ。
「さぁさ、うるさい二人は放っておいて二人きりで静かに行きましょ、コージ」
ごくさりげなく。それでいて有無を言わせない笑顔で僕を誘導するセリナ。ミミとヒロコが争っている間に漁夫の利を狙っているね。でも、あのままほっといたらヒートアップして危ないと思うんだけども・・・あと白夜が・・・
「ん? 身体の調子はすこぶる良いぞ主よ。身体をすみずみまで見てもらったからの」
「お願いだからその姿のままでそういう事を言うの止めて下さい白夜さん・・・」
身体の調子がすごく良いせいか、白夜はすごい勢いであちこち走り回っている。走ってる間も「おお!」とか「はっはっは!」とか凄く嬉しそうである。なんか今日に限って言えば凄いカオスな空間と化している。
「あ! セリナがまた抜け駆けしてる! ずるい!」
「本当だ! セリナはいつもボク達を争わせて抜け駆けしてるよね! どろぼう猫めっ!」
僕とセリナの状態に気づいたらしいヒロコ達がぎゃーぎゃー騒ぎ出した。うん、先輩が居なくなった途端にはっちゃけ出したよねこの娘達。やっぱり先輩がいるとどこか遠慮しちゃうって事なのかな? 普段静かなのは嬉しいんだけど、みんなに我慢させてるっていうのはあんまり良くないよねぇ。
「はいはい、ストーップ! 今日の順番はヒロコと白夜でしょ。セリナとミミはちゃんと後ろから付いてきてよ」
「ちぇ」
「・・・はぁい」
なんか本気で戦いだしそうな雰囲気になってきたので、慌てて止めに入る。みんながみんな一騎当千の能力を持ってるだけに、騒ぎ出すと段々ヒートアップして周りの被害が凄い事になっちゃうんだよね。
「ふふーん」
ヒロコは満足げに僕の腕を掴む。腕を組むとかじゃなく掴む。で、時々かじる。なんだろうヒロコの様子がいつも通りと言えばいつも通りな筈なんだけど、何かひっかかる。こんな姿のヒロコが久しぶりで前はもっと違ったはずなんだけど・・・なぜか思い出せない。
「マスターどしたの?」
「え、あのね・・・あれっ? 何考えてたんだっけ?」
ヒロコに話しかけられて、ふと夢から覚めたみたいに、直前に考えていた事が霧散してしまう。んんん? 大事な事を考えてた気がするんだけどなぁ。
「いやボクにはわかんないよ???」
「なにかヒロコに関係する事だったと思うんだけど、なんだっけ?」
「なになに? またおいしい物作ってくれるの?」
えーっと、そんな感じじゃなくてもっと違う事の気がするんだけど???
「ま、いっか」
「ぱっと思い出せないなら、たいした事じゃないんだよきっと。それよりミソとかショーユって何? いま作ってるんだよね?」
「調味料だよ。あれがあると料理の幅が広がるんだよね」
作業メカが暇を持て余してたので、ずっと作らせているんだけどようやくできそうなのである。アナライズ魔法を覚えて麹菌を必死で探して、色々試した末にようやくここまでこぎつけたので、感動もひとしおだ。おいしい物を食べたいという執念は凄いよね。さすがは三大欲求の一つだ。
「おいしい物食べさせてくれるならなんだっていいよ!」
「僕の苦労なんて知ったこっちゃないって顔して・・・大変だったんだよ?」
「おいしかったら褒めたげる。なんならセリナ達みたいに一緒にお風呂にはいったげよっか?」
ニマニマと余計な事を口走るヒロコ。いや、提案自体は嬉しいけども誰が聞いてるか分かんないのに大声で言っちゃ駄目でしょうが?!
「いやいやマスター? お風呂って何か知ってる人がいると思う?」
「・・・おおっ! ヒロコのくせに賢いな!」
「くせには余計だよっ! えいやっ!」
「ぬわっ!?」
「主は本当に馬鹿じゃなぁ」
いらん事を言っていつも痛い目にあうんだけど、止められないんだよね。白夜が呆れるのも無理はないよね。今日は先輩が居ないおかげで、いつもより騒がしかったけど楽しい登校となりました。たまにはこういう感じも良いよね。・・・たまには。
えーっと、やっぱり気まずいままなんですけどいい加減仲直りして仲良くしたいんですけどまだ駄目でしょうかハルトさん。
「まだや。まだまだきたえ・・・反省が足りん!」
「反省とかより僕の心が持たないよ・・・」
最近、なんだか覇気があるハルトはきっぱりと言い切った。なんか言ってる事は別になんてことない言葉な筈なんだけど、妙に言いくるめられてしまう。ふと視線を感じてそちらを見てみるとレイとエリーがこっちを見て強く頷いていた。
「まぁ、そうしょんぼりすんなや。そろそろ何か動きがあるはずよってに。そやけどおまえさんが先に動いてもうたら全部パーや。そやから黙って待っとけ」
ええな、と強く念を押されてしまう。ちらりとセシリアを覗き見てみると、向こうは向こうで聞き耳を立ててる感じだ。セシリアも仲直りしたいよね? したいと言って?
「その事だがな、ハルト。ちょっといいか?」
「お、なんやヴァイス。どうした?」
なんか師匠が急に出てきてハルトを引っ張っていった。なんだろ、師匠もなにか考えてるんだろうか? そういえば朝錬の時に今日は放課後残れって言ってたけど、それも関係あるのかな?
「ふぅん、あのヴァイスがのぉ。ええわ、その話のった!」
「その含みのある視線に抗議したい所だが、まぁ良い。じゃあよろしく頼む」
「おう、任せとき!」
なにやら話はまとまったようで師匠とハルトはがっちり握手を交わしている。なんかすっごく気になるなぁ・・・でも、放課後になればはっきり分かるはずだしそれまでは我慢しよう。