スーパー湯煙タイム
湯煙です。なんといいますか現代人としてお風呂は毎日欠かさず入らないと気持ち悪いんですよね。でもこっちの風習では特に湯を貯めてつかるという習慣はなく、普通の人は水で体を拭くぐらいのようです。ロバスだと体を綺麗にする魔道具が流行っているみたいだけど、それは簡易シャワーみたいな道具でやっぱり湯船につかるという事はなかった。やっぱり綺麗な水というのは貴重品だから、無駄にできないって事なんだろうね。魔法を使えば綺麗な水をいくらでも出せるとはいえ、お水が貴重な事には変わりがない。
「コージ、どこを見てるんです? ぼーっとしてたら危ないですよ?」
「ひょっとしてのぼせちゃったのぉ? 大丈夫?」
そういってこちらに近づいてくるミミ。待って! せっかく現実逃避してたのに何かいろいろと駄目になるから待って!
「大丈夫、大丈夫だからこっち来ちゃ駄目だよ? 本当に大丈夫だよ?」
「でも、顔真っ赤だよ?」
「それはそのっ当たり前じゃないっ!」
えぇ。まさか女の子とお風呂に入るとか想定外だよ。直視したいけど、直視できないこの辛さ。しかも、なるべく考えないようにしているのに、こうやって声を掛けられるとついそっちを見てしまいそうになって、ちらっと見えた白い肌から何か色々と想像しちゃって鼻血もそうだけど、もう一箇所にも血が集まってきそうで非常にやばい。
「どうしてぇ? ミミに教えて? ね?」
「私も聞きたいですコージィ」
妙に色艶のある声で尋ねて来る二人。僕が目をつぶったせいかなんだか余計に色っぽい声に聞こえてしまって無駄に興奮してしまう。絶対この二人分かってて聞いてるよねっ!?
「そ、それはほら女の子と一緒にお風呂なんて恥ずかしいというか・・・」
「川で一緒に泳ぐようなものじゃないですか。何も恥ずかしくないですよ?」
そういってふにょっと背中に何かが当たる感触。
「ほわぁああああっ!?」
「きゃっ」
「だぁめ」
とっさに退避したけど、すぐさまミミに捕まってしまう。そう、ミミは文字通りがっちり僕をホールドしてきました。そして僕の肩に頭を乗せてきてすりすりしてきます。
「もうコージは恥ずかしがり屋さんですね。ミミが後ろなら私は前からにしますね」
「!?」
そういってするりと横から前に密着してくるセリナ。そうするとミミが身をさらに乗り出してくる。動かないで!? 血が! 血が集中するっ!?
「セリナずるい。次変わってよ」
「次ですよ。ほら今はこのままで良いでしょ? せっかく捕まえた事ですし」
「捕まえたのはミミなのに」
捕まえなくて良かったですよ、はい。だけど、なんでこうなった! パーティしてたはずなのに!? いや、パーティがすべての元凶だったか・・・ミミに誕生日プレゼントを渡そうと思ってたんだけど、ミミがそんなの要らないから一つだけお願い聞いてと言うんで、できる事ならと答えてしまったのが全ての原因。
「で、コージはいつまで恥ずかしがってるんですか? せっかくですから楽しみましょうよ? こんな機会は滅多にないですよ?」
「そうそう。こんな美少女と一緒にお風呂に入れる機会なんて絶対ないよ?」
ええ確かに二人ともとんでもない美少女ですしお風呂に入るという事で髪は下ろしていて雰囲気もいつもと違うから余計にどきどきするといいますか、下ろした髪だけでもどきどきするのにピンク系の白い肌が惜しげもなくさらされている様は、正直ガン見したい気持ちでいっぱいです。時よ止まれ! だけど、じっくり見てしまうと二人に嫌われてしまうかもしれないし、逆に襲われる羽目になるかもしれない。どっちに転んでも大変なめにあうのは分かりきっているというか。
「ねぇねぇ。コージってフレーム作る為にお金を貯めてるんだよね?」
「え、うん。白夜がいるからフレームに乗れるんだけどやっぱり自分で考えたフレームに乗りたい気持ちはあるからね」
ちらりとミミに視線を動かすと正面のセリナの白い肩と綺麗な首すじがちらりと見えてしまう。鎖骨ってなんかどきどきするな・・・
「でも、フレームってそんな簡単に作れるものなんですか?」
「一から全部自分で作るとなると、面倒くさいだろうけど僕は売ってる部品を組み合わせて自分のアイデアをさらに組み込む形だからそう難しくないよ。でっかいプラモデルみたいなもんかな」
構造を一から考え直して新しい形を作るならともかく既製品を組み合わせるなら、素材を変えたりする事でもだいぶ違うものができると思う。
「はい、こーたーい」
「はいはーい」
僕が自分の考えに少し没頭してる瞬間を狙ってか、ミミとセリナが位置を入れ替える。待って!? ミミ、今確実に見えるようにゆっくり動いたよね? セリナも体から離れずにむしろ押し付けるように移動したよね?!
「ぶふっ!」
あわててこみ上げて来る鼻血を必死に耐える。耐えろ。ここで耐えないとこの素晴らしい時間が終わってしまう! 時間は止まらないんだ! ・・・待てよ。ここでアクセルをこっそり唱えればどうだろうか。気づかれずにじっくりと見れるんじゃないか?
「ありゃ」
「大丈夫ですかコージ?」
僕が急に鼻を押さえたので、なんかしてやったりという表情で僕を伺う二人。セリナなんて心配してくれてるかと思えば、凄いニコニコしてる。良し。今なら僕を心配して二人とも僕の前にいる。視線を動かせば二人ともじっくり見れる位置に来た。そっちがそういうつもりなら、僕だって遠慮しないぞ!
“光よ!我が思考にその光を分け与えたまえ! クロックアップ!”
鼻を押さえてる手で口元も押さえ、呪文が聞かれないようにそっと呟く。よぉおおおし! ガン見タイムだっ! まずは元祖いけない身体のセリナからだ! 洗い髪がしっとりとしていてやっぱりいつもより色っぽい。しかも笑顔でこっちを見てるから余計にどきどきする。やばい、顔だけでもこれ結構くる。さらにここから下を見て僕は生き残れるのか?
いや男には引けない戦いがある。今、見ないでいつ見るって言うんだ! まさに据え膳とも言える状況なのにアクセルを使ってまでばれないようにしてる僕が言うのもなんだけどここまでおいしい状況で躊躇ってる場合じゃない!
ゆっくりと視線を下へと移動していく。細くて華奢な首としみ一つない肌。やわらかそうな肩とその白さに興奮してしまう。そしてさらにゆっくりと視線を移動していくとセリナの大きな胸元と谷間が見えてくる。押し当ててくるから分かってたんだけど、やっぱりセリナって大きい。それも予想外に大きい。いつもは服の下に隠されているので分かりにくいんだけど今は隠すものが何一つない。さぁいよいよだ! さらにじっくり見ようと視線を移していく。そして綺麗な色の二つの何かが見えてきそうになった所で僕の意識は途絶えてしまいつつある。
うん、じわじわと鼻血が昇ってきてたのは分かってたんだ・・・あと少しだったのに・・・
バシャン!
「え、コージ?! 急にどうしたんです?コージ? コージ!」
「コージ!? セリナお水で冷やそう!」
ぼんやりとした意識の中であられもない格好で慌てる二人の姿が見えたような気がしたけどきっと気のせいだろう。こうしてしまらない形でパーティは終わりました。
「コージ、最近ハルト達と喧嘩でもしたのか?」
師匠にそう問われたのは、パーティの次の日の朝錬が終わってからで、ハルト達と喧嘩して何日か経ってからだった。えっと、喧嘩してすぐにそう聞かれるかと思ってたけど、聞かれなかったので安心してたら今頃聞いてくるとか時間差攻撃すぎるよ師匠。
「えっと、まぁそんな感じです」
「やはりそうか。だが何が原因なんだ?」
「それはそのぉ・・・遺跡に入る時の心構えについて見解の相違があったといいますか・・・」
セシリアの戦い方の悪い点を指摘したら喧嘩になっちゃいましたっていうか。気になったからつい注意しちゃったら喧嘩になってたというか。
「歯切れの悪いやつだな。はっきり言えばいい、戦闘で駄目な所を指摘しただけなんだろ。問題をあいまいにしていては、謝罪するにしても的外れな事になるぞ」
なんというか、師匠は僕とハルト達を仲直りさせたいと考えてるみたいだ。
「でも、ハルトに今はそっとしといてくれと言われてるんですよね」
「それでコージがいつまで経ってもぐずぐずとしていたのか。正直、見ててギクシャクしすぎだぞ。特にセシリアとお前が」
だって喧嘩したのはセシリアとだし、席は隣だしギクシャクしない方がおかしいよね?
「それに、僕から謝るのは駄目だってエリーもレイもハルトも言うんです。向こうから謝ってくるのをどっしり構えて待っておけって・・・」
「ふーむ・・・何か考えがあるんだろうが、それで良いのかコージは」
「え、良いも何も僕もほとほと困ってるんですよ。女の子と喧嘩なんかした事ないからどうやって仲直りしたらいいかさっぱり見当もつかないんです」
僕がそう愚痴るとぴくっと眉を上げ、じっと僕をみる師匠。
「そうか、では今日の放課後第七演習場に来い。いいな」
「え、なんです薮から棒に」
「わかったか?」
「え、はい」
久しぶりに威圧感たっぷりにそう断言されて僕はうなづかざるを得なかった。ふがいない僕にまた鬼の猛特訓が待ち受けてるんだろうか・・・それか新しい技の練習台とか? なんにせよ放課後は気を引き締めておかないと駄目だろうね。