コミュニケーションは大事です
鼻唄まじりに大空を飛翔する。フレームで空を飛ぶときと違って、風をそのまま体感できるのと鳥になったかのような、開放感があった。生身で空を飛ぶというのは、なんというか五感を刺激してくる。青い空に浮かぶ白い雲、ときおり雲に突っ込んでみたりして空にいるという事を実感する。風の香りも高さと場所によって、少しずつ異なっている。時々急に暖かくなったり寒くなったりするのは気流のせいなのかな?
こうやって生身で空を飛んでいると、なんだかんだでフレームで空を飛ぶのはコックピットに守られているんだなぁって、しみじみ思う。
“ぐぬぬぬぬぬ・・・・”
後ろから追いかけてくる奴がこんな竜王じゃなきゃ、もっと楽しかっただろうなぁ。なんというか竜王は風竜という事で、自分の空を飛ぶ能力に絶対の自信を持っていたみたいだったんだけど飛ぶ速度はそんなでもなかった。だって、風魔法で空を飛ぶというのが一般的だったみたいだから負けそうになったら、風を司る竜王は相手の風魔法を封じ込めれば良いんだからそりゃぁ負ける訳ないよね。
「おーい、そろそろ慣れてきたからジェットを一本にしてあげようか? 本気だしてそれじゃあいつまでも勝負にならないよー」
僕の揶揄する言葉にも返事をしない竜王。そのかわりと言ってはなんだけどブレスをかましてきた。遅い遅い。腕を頭に組んだまま、ブレスを紙一重でかわしてみせる。
“くっ・・・”
いまのブレスが最後っ屁だったのか、悔しそうにどんどん失速していく竜王。なにか様子がおかしい。力を使いすぎちゃったんだろうか? このまま竜王が地面に叩きつけられても寝覚めが悪いので、僕も急降下して竜王を追いかける。先に落下地点へ着陸し、竜王が降りて来るのを待つ。
「“風よ! 全てを舞い上げる風よ! 吹き荒れろ! トーネード!”」
そして、もう少しで地面に着くまえに風魔法で落下の衝撃を軽減する。すこし呪文を変えてるからうまく軽減できるだろう。でも竜王は結構大きいので範囲がすこし足りなかったようで、尻尾だけダランと先に地面についてしまった。でも、本体は無事だったから良しとして貰おう。
「僕のほうが速く飛べるって事で良いよね?」
しかも今回、まだ本気を出していないからね。ジェットの本数はあと二本は増やせるし意外と速いスピードで空を駆け抜ける事ができそうだ。
“・・・認めよう、お主は速い。だが、これだけではミスリルを渡す事はできん”
「えぇっ?! なんで? スピード勝負に勝てばミスリル掘っても良いんじゃなかったの?」
“それは鈍重なドワーフ達への試練であって、人間にはいくつか試練を受けて貰わねばならん”
こいつ僕に勝負で負けたからそんな事言うんじゃないだろうね・・・?
“これに関してはわしが掟じゃ。苦手な事を克服して覚悟を見せて貰う為の試練でな。人間は特にこれといって苦手な物がない分、試練も多くしてるのじゃ”
僕の疑いのまなざしを受けて、慌てて弁解するかのようにそう付け足す竜王。本当かなぁ・・・?
「でも、それにしたっていきなりあんな風に威圧的につっかかってくる事は無いんじゃないの? 普通あんな事されたらびっくりして逃げちゃうよ?」
“あれも試練の一環じゃ。わしの治める土地でわしの姿を見て驚いているようでは、ミスリルを採掘するなぞできるわけ無いじゃろうが。まぁ、手加減なしでやったのは許せ”
そんな事するからブラックな僕が出てきたんじゃないか。暴言吐くのが快感になっちゃったらどうしてくれるんだ、僕のキャラが崩壊しちゃうよっ!
「で、ほかの試練は?」
“お主を見せて貰う為にドワーフ達と仲良くなって貰う。他にもこの地に住まう生き物とも打ち解けて見せろ。それができれば認めてやろう”
「期限はいつまで?」
“できるまでじゃ。期限が無いから慌てなくて良かろう? まぁ諦めても別に構わんぞ。その場合は二度と試練を受ける事はできぬがな”
そうやって意地の悪そうな声音で僕を脅す。認めた者しか採掘できないミスリルだけに条件を飲むしか無いんだけど、本当に認めてくれるのかなぁ。なんか僕の事嫌ってるみたいに見えるんだよねぇ。
“ではさらばじゃ。せいぜい頑張って仲良くなるんじゃな”
竜王はそう言い残してふわりと浮き上がって、翼をはばたかせもせず飛んでいってしまった。横着しないで翼を羽ばたかせようよ。何の為の翼なんだよ。
だけど、仲良くしろって言われても友達を作るのが苦手な僕にはとっても嫌な試練だ。ひょっとして、最初の頭痛のときに竜王は僕の過去を覗いたのかな? 苦手な事を克服して貰う為とか言ってたし。うー・・・ミスリルを採掘できるようになるまで物凄く時間がかかりそうだよ。とほほ。
とりあえず転移魔法でべノア村へ帰り、ガドさんの家に向かう。なんだか、騒々しいけど何かあったのかな?
「お、コージ悪いがこれから仕事だ。竜王様がだいぶ恵みを降らせてくれたからな、かきいれ時なんじゃ!」
ヘルメットをかぶってつるはしと道具を入れた手押し車を押しているガドさんがほくほくした顔で僕にそう叫ぶ。
「そうなんだ。頑張ってたくさん掘ってきてね! 僕たくさん買うからね!」
「任せろ! って試練はどうした? 認めて貰ったんじゃないのか?」
「えっとまだ試練があったんだ。まぁそれはともかく行ってきたら?」
「おう、じゃあ行ってくる! リックにも宜しくな!」
「うん、分かった! またね!」
えっちらおっちらといった感じで山へ向かうガドさんを見送って、僕は町に戻ることにした。この様子だとドワーフさん達は忙しくなりそうだしね。
「そういえば光ちゃん、誕生日はお祝いしないの?」
事の発端は母さんのその一言だった。そういえばこっちに着てからだいぶ経つから、僕も一つ歳を取っていてもおかしくないんだけど、こっちって一ヶ月が二十日で十八も月があるもんだから、よく分からないんだよね。
「ちなみに母さんは永遠の十七歳だから」
だからなんだと言うんだ。そんななりでも母さんがすでに○十を超えているのは事実だ! あ、あれっ? ○十。おかしい母さんの歳を考えようとすると何故か言えない。
「十七歳っ☆」
息子と変わらない年とかどうなのさ。でも女性の年齢はこれ以上つっこまないでおこう。母さんが相手だと何が起こるか分かんないし。そう思い母さんから目を離すと、セリナとミミが何か言いたそうな顔をしてこちらを見上げている。そうだよね、二人の誕生日を聞いてないよね僕。やべぇ。
「えっと僕の誕生日は置いといて、二人の誕生日はいつ?」
僕がそう聞くと二人はもじもじしながら答えてくれる。ちなみに四年に一度、隠し月というのがあるらしくその月はお祭りをして過ごすらしい。
「私は四月七日です。もう少しです」
「ミミは十一月六日だよぉ~」
「「え?」」
ミミの言葉に驚く僕と母さん。僕と誕生日が一緒だ、あ、いやこっちの世界の日付だから一緒じゃないか。ていうかミミはいつの間にか十九歳になってたのかっ?! なんだかセリナは驚いてないけど知ってたのかな? それにミミも別に拗ねてるように見えないし。誕生日を祝って貰えないって怒って良い所だよミミ。
「先ほどお義母様が言ってましたけど、コージの所では誕生日にお祝いするんですか?」
「うん、いつもより豪華な食事とケーキを食べてプレゼントも貰える日だよ」
「「ええっ?!」」
あ、今度はセリナとミミが驚いた。こっちじゃ誕生日を祝うという事はしないのかな? でもおめでとうぐらいは言うよね? いくらなんでも。
「こちらでは誕生日には親に感謝をする日なんですよ」
「あ! 前にミミちゃんが母さんとデートしてくれたのはそれでなの?」
「うん、えへへ」
母さんは思い当たる事があったようだ。いつの間にそんな事してたんだ。でも、親に感謝するっていうのは、それはそれで良い風習だよね。それなら、親に感謝しつつプレゼントも貰えて豪華な食事をしてケーキも食べる日って事にしようか。ていうか、母さんが感極まってミミをがっちりホールドしている。どっちもスタイルが良いから目のやり場に凄く困るよ?!
「で、コージさんの誕生日は?」
そう言って僕の顔を手で柔らかく挟み込んで余所見ができないようにして、セリナが笑顔で尋ねてくる。セリナお願いだから、さりげなく僕の顔を自分の胸を見るように角度を調整しないで?
「えっと、それが計算がややこしいというか・・・日付でいえば僕も十一月六日なんだけどこっちの日付に直すとすると・・・えぇっと・・・」
「え、ミミと同じ日なんですか?」
落ち着いて計算しよう。僕の誕生日だと何日目になるのかな? ん~・・・あ、切がいいなぁ三百十日目だ。という事はこっちの日付でいうと十五月十日になるのか。あ、僕も過ぎてるし。
「僕は十五月十日だね。僕も過ぎてた。あははのは」
「じゃあケーキは?」
僕の誕生日が過ぎてると知って、ケーキが食べられないって嘆きだす母さん。うん、それは間違ってるからね。子供の誕生日を祝ってあげられないって嘆く所じゃないかな?
「ミミも誕生日が過ぎてたし、遅ればせながら僕の分もまとめて作るよ」
でも、いつの間にかセリナと同い年になってたんだね。あ、どうせだから父ちゃんも帰ってきて貰ってパーティしよう。うん。そう思ってたら母さんが父ちゃんに電話してる。今頃気づいたんだけど、母さんって凄い魔力だ。下手するとセリナより多いんじゃない?
「勇司さんも帰ってきて貰うわね。今日はパーティよっ!」
料理は頑張るから飾りつけとかは任せたよ母さん。こっちの世界で初めてする誕生パーティなんだから張り切ってやっちゃってください。
「ケーキは三種類ね!」
そんなの無理って言いかけたけど、セリナとミミの目が半端なく輝いてしまったのでそんな事は言えなくなってしまった。仕方ない二号とフレーマーにも手伝って貰うとするか。