これは母さんの遺伝でしょうか?
ザリッ!
「っつ!?」
ガドさんと商談が成立して、ご馳走を頂いてさぁ帰ろうとした時に頭に痛みが走った。頭の中にやすりをかけられたかのような、骨に響くような痛みだ。急になんだ? なんか誰かが無理やり頭の中に入ろうとしている感じがする。
「おい、どうしたコージ? 頭が痛いのか? おいっ大丈夫かっ?!」
急に頭を抑えてうずくまった僕をすごく焦った様子でガドさんが尋ねてくる。でもなんか普通の頭痛と違ってすんごく痛いから碌に返事もできない。
「あんた! 竜王様が外に!」
「あぁ?! なんだって?!」
え、竜王? なんでまた僕が来てる時に竜王が来るの?
“出て来い。招かれざる客よ。誰の許しを得てこの地に留まっておるか”
「あいたぁっ!?」
「なんじゃ?! どうなっとる」
なんか凄い威圧感のある声が頭の中に響き、さっきの頭痛が余計に酷くなった。とにかく、家の外にでて竜王とやらを拝む事にしよう。いきなり取って食いやしないだろう。でもこの頭痛は竜王の思念波のせいっぽいので、魔法防壁を張ってみる。うん、痛くなくなった。
“ほぉ、臆せず出てきたか。我が治める地に何用で踏み入った人間よ”
外に出ると、羽ばたきもせず空に浮いている竜がいた。翼を威圧するかのように広げ、首をぐいっと、もたげてこちらを睥睨している。うん。睨むというのではなく睥睨という感じだ。王者の威厳たっぷり。だけど、のっけから攻撃的な奴にびびってなんかやらない。
「空飛ぶトカゲが偉そうに。いきなり頭をかき回すように思念を飛ばすとか何考えてるの? それにこの土地に入って欲しくないならちゃんと立て札立てとけばーか」
きっぱりと竜王らしき竜に向かって言い放つ僕。えーっと自分で言っておいてなんだけどキャラ変わってね? さっきの頭痛攻撃が効いてたって事だろうか。無礼とかもうそういう次元じゃないよね、これ。
“生意気な人間風情が。そんなに食われたいか”
「そっちこそ。古来ドラゴンスレイヤーは人間がなるって相場が決まってるんだ。僕の刀のさびになりたいのか? 生意気なトカゲめ!」
あーれー? なんか僕の意思に反して暴言がぽんぽん飛び出してくよ? うん、手は動く足も動く。ちょっと待て、待って欲しい竜王さん。何か変な魔法を僕にかけてない?
“良かろう。あくまでわしをトカゲ扱いか小僧。楽に死ねると思うなよ・・・”
そう言うやいなや翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こす。その風の中にはカマイタチが潜み僕にむかって無数の見えない刃が迫り来る。
「ちょぉおおおっとお! なんでこうなるのさぁ!」
たったかさーと見えないカマイタチを「ギル」で丁寧にさばいていく。だけど、さばいてもさばいても一向に翼を止めようとしない竜王。ちょおぉっと黙らせる必要があるかなぁ。ガドさん達は、ちゃんと退避したみたいだし。そろそろ本気だすとしましょうか。
「・・・って、戦いに来たんじゃないんだって! 僕はミスリルが欲しいだけなんだって!」
思わず出してしまった「ギル」をまたぞろ仕舞いながら、竜王に待ったをかける。
“散々好き放題言っておきながら、そんな言い訳をするのか情けない奴め! 吐いたつばは飲み込めないが道理。ミスリルが欲しくば実力でわしを黙らせてみろ!”
頭上から見下ろして、偉そうな態度でそう言い放つ竜王。まぁここら辺を治めてるから偉いのは偉いんだろうけど、ちょこぉっとお邪魔しただけでここまでひどい対応するのはちょっと大人げないんじゃない? よーし・・・ここは開発中の魔法を使う場面かな。空を飛べるのが自分だけだと思ったら大間違いだよ?
“魔法を使うつもりか小僧。だが、風の魔法で空は飛べぬぞ。わしが風を支配しておるのだからな。人間は人間らしく地を這いつくばるがよいわ!”
そういってはばたきをさらに強めてカマイタチを飛ばしてくる竜王。でもドワーフ達には一応配慮しているようで、カマイタチがドワーフ達の家に当たる事はなかった。
「風の魔法を使わなくても、速く飛んでやるさ! 本邦初公開! 空飛ぶ炎の魔法だ! “炎よ! 我が身が天駆ける手助けをし我が意のままに迸れっ! ジェットファイア!”」
あ、しまった一本しか炎が出てない。
「“炎よ! もう一本出せ!ジェットファイア!”」
右手の先から勢い良く噴出し始めた炎を見て焦った僕は、勢い良く浮き上がっていく身体のバランスを取りながら適当にもう一本出す魔法を唱える。うん、左手にも炎が出た。
「って、手じゃなくて足に出せばよかったぁあああ?!」
まさに後悔先に立たず。でもこれで、まっすぐ竜王に向かって飛んでいける!
“炎の魔法だと?! 何故風魔法を使わずに飛べるのだ?!”
「頭を使って考えたからね! トカゲのちっちゃいおつむじゃ分かんないかなぁ?」
“ぬぅううううう! 馬鹿にしおってぇええええ!!!”
おおお、しまったなんか素で馬鹿にしてしまった。なんだろう、この毒を吐くとすっきりする気持ち。これ快感になりそうでやばい。はばたきながらもまったく動かない竜王に向かって一直線に向かったけど、そのまま蹴り飛ばしても楽しくないので思い切り通り過ぎてやった。
「追いつけるもんなら、追いついてみな! 追いつけなかったら竜王なんて大層な名前を名乗るのは禁止ね!」
“ふざけるな! 空で風が炎に負けるものか!!! 目に物見せてやる!”
あっはっは、愉快愉快。挑発に簡単に乗ってきてくれたね。竜王って割りになんか落ち着きが足りないよね。僕が言うのもなんだけど。
「じゃあ、ついてこい! 本当の速さを見せてやる!」
ただし、ジェットは手から出る。いやこれはビジュアル的にちょっと駄目でしょ。足に移動させようか。右手のジェットを一旦中止し、右足の裏から出るように念じながらもう一度魔法を唱える。
「“炎よ! 我が身が天駆ける手助けをし我が意のままに迸れっ! ジェットファイア!”」
って、うぎゃぁああああ!? バランスが! バランスが?! 手と足からジェットを出してると、あらぬ方向へぐりぐりキリモミしながら飛んでしまう。とりあえず左手のジェットを止めろ、止めるんだ! よし、次は左足にジェットを!
「“炎よ! 我が身が天駆ける手助けをし我が意のままに迸れっ! ジェットファイア!”」
あっぶない危ない。もう少しで地面に頭から突っ込む所だったよ。でもこれで足からジェットを出しているので手がフリーになって、すっきりできた。
“くぉぉおぉ! 待たんかぁああああああ!”
僕が手から足へジェットを移動してる間も僕に追いつく事ができていない竜王。まだまだトップスピードを出してないのに、追いつけないとかちょっと鈍ってるんじゃないの?
「ねぇ、それで本気なの? 本当に? 風を司る竜王ならもっと本気だしてかないと駄目なんじゃない?」
ごおごおと風の音がうるさいので、大きな声で竜王に聞こえるように伝える。まだマッハを出してないのに付いてこれないとかちょっとがっかりなんですけど。
“言わせておけば・・・ぬおおぉおおおおおお!”
竜王が僕の発破に反応して、気合をこめだすと竜王の身体が光り出しぐんぐんスピードが上がっていく。おおっ! なんかそれっぽくなってきたぁ!
「そうそう! そういうのあるんじゃない! さっきのが本気かと思ってびっくりしたよぉ」
“抜かせ、この姿になったからには貴様をあっという間に追い抜いてやるぞ”
光の粒子を撒き散らしながら、空を突き進んでくる竜王。さすがに気合をいれているだけあって、ぐいぐいと僕に接近してくる。僕もこれ以上のスピードを出すなら前面に障壁を出さないと辛くなってきた。障壁展開! よしこれでもっと速く行ける!
「・・・あんた、あのぼっちゃんは何者なんだい?」
「俺が知るか」
ぐるぐると家の真上で追いかけっこをしていたコージと竜王が、まっすぐ飛び去っていく姿をぼんやりと眺めながら唖然とする二人だった。