ミスリル欲しい
ドワーフの村べノア村。山すそに細々と家らしき物が建ち、採掘と鍛冶、細工物で生計を立てている。僕がよく買うミスリルはほとんどがここから採掘されたものらしい。でもあれだけのミスリルや武器や防具を作って売ってるはずなのに、なんというかべノア村は控えめに言ってもみすぼらしい。どこにお金が消えてるんだろ???
「おい小僧、村になんの用だ」
「あ、こんにちは」
ガドさんとは違うドワーフが村に近づいた僕に誰何してきた。口調が荒いのはそれが普通なんだろう。現にドワーフは特段怒っている雰囲気じゃない。
「ガドさんは居ますか? コージが来たと言えば分かって貰えると思うんですが」
「あぁガドか? 酒かっくらってまだ寝てるんじゃないか?」
「ありゃぁ。ガドさんの家教えて貰っていいですか」
まっすぐ行った先に井戸があるのでそこから北に行き、山にへばりついてる赤い屋根の家から東に三軒目にあるボロイ家だと教えてくれた。ぶつぶつと復唱してようやく覚えた。
「ガドさんこんちわー!」
「ぐごっ」
ガドさんの家に辿り着き、挨拶をした僕を出迎えたのは大きなイビキだった。外まで響くイビキって凄い。
「はいはい、ガドはまだ寝てるよ」
「へ」
そんな声と共に出てきたのは、小さい女の子?だった。いやいやよく見ると背こそ小さいが立派な女性のようだ。僕を確認するように見上げて、顔に見覚えが無いと分かるや即座に、不審げな表情になる。
「あんた誰さ?」
「えっと、昨日リックさんの紹介で知り合いになりましたコージって言います。今日はガドさんにお願いがあって来たんですけども」
「昨日、フレームで飛んできたって子かい? ほぉほぉおまえさんがねぇ。ま、あがりな」
「はい、お邪魔します」
見かけは人懐っこそうで元気な感じな女の子に見えるけど、ガドさんの娘さんなのかな? なんか凄く若く見えるけども。僕を家の中に案内したガドさんの家族はそのまま家の奥へと姿を消した。
「ほらあんた! お客さんだよ! しゃきっとしな!」
ガスッ! ゴスッ! ドンゴドンッ
えーっとここまでなんか凄い音が聞こえるんだけど、大丈夫・・・? 聞こえてきた声から衝撃の情報が分かったけど、その後の殴打音も僕の警戒心を揺さぶるのに十分だった。なんというかパワフルだよねドワーフって。
「おぉー・・・コージか。今日はどうした?」
「こんにちはガドさん。今日はお願いがあって来ました」
のそっと部屋から出てきたガドさんは、特に痛がるそぶりも見せずにゆっくりと椅子に腰を下ろした。かと思うと奥に向かって大声で叫ぶ。
「おいミーム! 酒持ってきて・・・おぉそうそうそれだ」
「それだじゃないよ! リックさんとこに持ってく分は採ってきたのかい?!」
「その前に酒を飲まんでどうする? あ、こいつにも出してやってくれ」
「え、いやっ僕はお酒飲めないんでおかまいなくっ!」
「「え???」」
ガドさんはともかくミームさん? までなんで不思議そうな顔をするのっ?
「酒が飲めないなら、何飲んで生きてるんだい? 水なんか飲んでも気合出ないでしょ」
「あぁ、コージももう良い年だろ? そんなこっちゃ立派な大人になれんぞ?」
「いやっ大丈夫ですからっ、ほんと水で十分ですからっ!」
「・・・そうかい? じゃあ茶でも持ってきてやろうかね」
「茶だぁ・・・? そんなのあったのかよ」
ガドさん、そんなのって言う・・・? なんかドワーフのお金の使い方が分かってきた。明らかにお酒だよね。朝昼晩とのべつまくなしに飲みまくってるから凄い勢いでお金が無くなっていくんだろうなぁ。
「ほれっ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ミームさんが新しくジョッキを持ってきて、僕の前に勢い良くドンッと置かれる。コップなんて無いのね・・・と思いつつ一口頂く。
「ぶほっ!?」
「だははははははは! やっぱそうかっ! ミームよくやった!」
「ふふん、うちに来て酒を飲まないなんて馬鹿な事言うからねぇ」
茶色の液体に見えたので、お茶だと思って油断して飲んだら見事にお酒だった! おおっ?! なんかこれ喉が一瞬で熱くなったんだけどひどくね?!
「おまいらおにかっ!」
「コージの顔のほうが赤鬼だな。真っ赤になっちまってまぁ。弱いにもほどがあるぞぉ」
「だねぇ。人間はたいがい酒に弱いんだねぇ。情けない」
好き勝手言う人達だなぁ。こんな強い酒なんて飲めるわけないじゃないかっ!
「“彼の者を害する源を浄化せん クリア”」
「おぉ? 魔法か。毒消しの魔法で酔いが覚めるのか?」
「そうですよ。程よく酔っ払ってる人には効かないみたいですけどね」
ふぅんわしには関係ない魔法じゃなぁ、とかっかっかと笑うガドさん。
「まぁ、これぐらいで勘弁してやるか。で、今日は竜王に会いに行くのか?」
「いえそれは今度の機会で。今日はガドさんに新しい素材を紹介しようかなと思いまして」
「新しい素材だと・・・?」
怪訝そうな表情で僕を見るガドさん。そんなガドさんの前に大きな鉱石とチタンの板を取り出した。
「ん? これは・・・?」
「チタンって言う素材です。この鉱石に入ってるんですけど、取り出すのに手間暇かかるんですけど、鋼鉄より軽くて強い素材なんですよ」
確か不純物がめっちゃ多くてそれを取り除くに凄い手間暇が掛かるって聞いた覚えがある。
「ほぉ・・・見ても構わんか?」
「はい、どうぞどうぞ」
そう薦めると、鉱石と板を交互に持ちつぶさに鉱石を観察し、板を持ってその軽さと強さを確認している。
「おい、これは本当にめんどくさいな。この鉱石にチタンは少ししかねぇじゃねぇか」
「あ、分かります? だけどそれに見合うだけの強さはありますよ」
やっぱりドワーフって凄いんだなぁ。こんなの見ただけでそういうの分かるんだから、うまく抽出してチタンを少しずつ生産してくれそうだ。
「で、どうです? チタンは作れそうですか?」
「あぁ、石を集めるのに時間はかかるだろうが、集めて固めるのに何も問題はねぇな。でもこんな良い物を教えて貰ってもわしには返すもんはねぇぞ?」
いやいや。返して貰う必要は無いんですよ。チタンって結構色々な所にゴロゴロしてるから僕でも集められるんだよね。ミスリルはその点、竜王に認められないと採掘すらできないんだから、もし僕が竜王に認められなかった場合でもチタン鉱石と交換でミスリルをゲットできるように手を打つ必要があった。
「僕はチタンよりミスリルが欲しいんですよ。だけど僕が集められるのはチタン鉱石なんですよね。だから、竜王に認められなかった時の保険としてチタンを教えたんですよ」
「そういえば、”ドゥエーリン“を創るのにミスリルが居るんだったな。すまんがもう一度見せて貰っていいか?」
「ええ、かまいませんよ」
今日はこんな事もあろうかとインゴットもちゃんと持ってきている。そっとガドさんに手渡すと感動した面持ちで、インゴットを受け取る。
「この軽さでこの強さ・・・しかも粘りがあって、何にも侵されないまさに理想の金属。まさか本当にあったとはなぁ・・・」
「良かったらそれは差し上げますよ」
「ええのかっ!?」
「少量で申し訳ないんですが」
「そんな事はないぞっ、いや感謝する!」
ガドさんの喜びメーターが吹っ切れたみたいで、口調がちょっと変だ。見るからに大興奮している。そんなに珍しい金属だったのね。
「じゃが、”ドゥエーリン“で何を創る気なんじゃ? 武器はもう持っとるから防具か?」
「いえ、フレームをちょいとね」
「はぁっ?! おまえっなんつー無茶で贅沢なもんを創ろうとしとんじゃっ?!」
「ちょっ、落ち着いて下さいよっ!? そもそもそれが”ドゥエーリン“なんて知らずに創ったから仕方ないでしょう?! それ加工がめっちゃ便利なんですからっ」
頭の血管から血がでそうな勢いで怒り出すガドさん。目を輝かせていっちょ噛ませろって言うかと思ったけど想定外だ。
「この意思ある鋼で、フレームをなぁ・・・まぁ確かに理想的ではあるがな。だが、なんというか武器には間違いないんだが・・・」
ぶつぶつと納得いかない様子で呟いているガドさん。まぁまぁ金属は金属なんですからちゃんと使って上げないと可哀想じゃないですか。それこそ、飾っておくなんて論外です。
「・・・そうじゃな。わしらにしか分からんこの金属の美しさを誰もが認める物に、作りかえていくのがわしらの使命じゃったな」
そういって手の中の”ドゥエーリン“をじっとみつめるガドさん。見ていると一瞬でブローチができあがっていた。え? 今なにしたの???
「ふふ、これは中々ええもんじゃな。これで細工物を作ってばかりじゃと鍛冶の腕が落ちそうじゃが、イメージ通りに造れるのはまさに理想の金属だ」
楕円の土台の周囲に細かい模様がついていて中心には竜が今にも襲い掛からんと口をあけて威嚇している様子が立体的に浮かび上がっている。その前には勇者と思われる人物が対峙しているという実に細かいものだ。しかも彩色までしっかりされているので、物凄く綺麗で売れば凄い値段が付きそうだった。
「す、すごいですね! ガドさんってそんな繊細で格好良いものが作れるんですね!」
「どあほう。これで生きてるんじゃからこれぐらい当たり前じゃ。まぁ、普通に造るならここまでの物は簡単にはできんがな」
てか、時間が掛かればできるんだ。ドワーフって手先が器用っていうのは知ってたけどここまで凄いとは思わなかった。まさに百聞は一見にしかずってやつだね。
「ほれっ」
「おぉ?!」
気軽な声と共にガドさんが作ったブローチが僕に飛んできた。あ、あぶあぶっ?!
「やる」
「はぁっ?! え、駄目ですってこんな凄いもの貰えませんって!」
「じゃあ”ドゥエーリン“をまた売ってくれんか? それが代金代わりって事じゃ駄目かの?」
「ミスリルが無ければそもそも作れないですし、僕もフレームに使いたいんでそんなにたくさんは売れないですけど、良いです?」
フレームが出来上がってしまえば、あとは自由に使えるから大丈夫なんだけど六機ぐらい作る予定みたいだから、かなりミスリルが必要なんだよねぇ。だはー・・・
「おう、また売ってくれるなら文句はないぞ! しかし、”ドゥエーリン“はドワーフ泣かせじゃなぁ・・・」
「え、なんでです? こんな凄いものドワーフの人にしか作れませんって」
「イメージしただけで、思った通りに変わってくれるんじゃぞ? 人間でもできるじゃろう?」
「ううん、ここまで凄い物をはっきりイメージできないと思いますよ。確かにある程度は”ドゥエーリン“が補正してくれるとは言っても、もともとのデザインを逸脱するほど良くはなりませんし。こんな凄いものドワーフの人にしか無理だと思いますよ」
「・・・そうか」
僕の力説が心に届いたのか、ガドさんは少し照れたように静かにうなづいてくれた。
「柄にも無く照れてんじゃないよ、気持ち悪い!」
「なっ、おまえ言うに事欠いて気持ち悪いってのはなんだ! そこは黙って見てる所だろっ!」
「はいはい、お邪魔虫は退散するよ。コージゆっくりしていきな」
僕達が話をしている間もかいがいしく摘む物や飲み物(さすがに魔法で酔いを醒まされるのは勿体無いと思ってくれたのかちゃんと水をくれた)を持ってきてくれていたミームさん。口調はああだけど、なんか肝っ玉母ちゃんって感じがしてうちの母さんとは大違いだ。でもこれで、ミスリルゲットの道がさらに開いたね。良かった良かった。