それぞれの戦い
マスターを守らなきゃ。
ボクにできる事なんてたかがしれてるけれど、それでもこのまま印の力をあまり使わせないようになるべく離れておくぐらいはできる。最近になって少しずつ思い出してきた。ボクは王の印の下僕。王の印を持つ人に仕える精霊なのだ。マスターが変わると普通は前の記憶なんて思い出さない筈なんだけど、今回は何故か思い出せた。
いつまで経っても力を求めないマスターのおかげで、王の印が弱っているせいなのかもしれない。
今まで印を受け取った人は、例外なくあいつに力を求めていた。だけど、それは必ず代償がつきまとう。一見、害の無いような代償に見えるんだけど、そこがあいつの狡猾な所で力を求めた人にとって辛い経験をさせるようになっていて、印を持った人は皆ひどい目にあったのを見てきた。今度のマスターにはそんな風になって欲しくない。
最近、実体化するのが難しくなってきたのでマスターの部屋から魔力カートリッジを拝借した所を見つかってしまった。とっさに誤魔化したから気づいてないと思うけど。そしてマスターの部屋に行って偶然判ったんだけど、あいつが何か仕掛けたらしい事。だけど、それが何か判らない。
「ヒロコどうしたの? ぼーっとして」
「ぼーっとしてるように見せ掛けて、油断させてるのだ! とやっ!」
「あっ?!」
とっさにマスターのお茶菓子を一個奪う。危ない危ない、考えすぎるとマスターが不審がるよね。なんだかんだいって、マスターって結構気がつくからボクから意識を逸らすのって大変なんだよねぇ。こそっと認識阻害をかけてても、ふとした拍子にこっちを気にかけるぐらいなのだ。
「・・・まったくヒロコは相変わらずだねぇ」
「おいひいものはいふらへもはいるよ」
もぐもぐと咀嚼しながらしゃべる。そして、ボクを優しい顔をして見つめるマスターの笑顔を見ると、絶対に守らなきゃって思う。
「でも、こっちの世界に来てからヒロコにはお世話になりっぱなしだよね」
「ほぇっ?!」
「なんでそんなにびっくりするのさ。この世界に来た時からヒロコが居てくれたおかげで僕は、なんとかやってこれたんだと思うよ。本当に感謝してる」
あ、照れてる照れてる。あんまりこんな事を言わないマスターだけど、最近ボクがあまり構って上げてないせいでつい言葉に出ちゃったのかな? なんだかんだで、ずっと一緒にいるもんね。
「そんな事言われても何も出ませんよーだ。ちなみにお礼はおいしい物が良い」
「今更こんな事を言うのもなんだけど、ヒロコが居なかったら僕どうなってたんだろうなぁ」
「ほえ?」
マスターなら一人でも色々できるから、どうもなってないんじゃないかな?
「だってさ、変な所に来たのは分かってるけどどうすれば良いか分かんないし、母さんとははぐれたし。それに魔法があるなんて知らなかったし、たぶん一人だと野生化してたような気がするよ」
なるほど。教える人が居ないとそうなってたかもしれないのか。そう考えるとボクはマスターの役に立ったと言えるのかな?
「野生化したマスターはちょっと見てみたいかも。餌付けしてお家で飼うんだ!」
「いや野性化してないからね? それに人間を飼わないでくださいよ、ヒロコさん」
「うひひ、冗談だよマスター、ボクがそんな事するわけないじゃないか」
「なんかヒロコが言うと冗談に聞こえないんだよねぇ。でもまぁ僕が野生化したらその時はちゃんと見つけてよ? 餌付けでもなんでもしてくれて良いからさ」
「了解だよ! その時はヒロコさまって呼ばせるからね」
「はいはい、ヒロコさま」
マスターと目を合わせるとなんだか可笑しくって、二人とも吹きだしてしまった。なんだか久しぶりに笑った気がする。
「最近、母さんが心配してたけどそんだけ元気なら大丈夫だね。よし、今まで甘いお菓子ばっかだったからポテチを作ってあげよう。きっとハマると思う」
「うむ、よきにはからえ! あ、マスター! そこのオーブって何?」
ふと目にとまったんだけど、あのオーブにあいつの気配が残ってる気がする。
「あ、これ? これは僕達の記憶を保存と呼び出しができるオーブなんだ。ほら、今って五人の僕がいるでしょ? いちいち会って話ししてたら誰が誰に何を話したかこんがらがりそうだったから、皆がこれに保存してこれから話を聞けば効率的かなぁって作ってみた訳なのさ。でももうすぐこれも要らなくなるんだけどね」
「マスターって時々頭良いよね。やる事はめちゃくちゃだけど」
「ヒロコに言われたくないよ?!」
ぷんぷん、失礼しちゃうなぁ。でも、あのオーブはマスターの記録が入ってるだけって事だよね。てっきりマスターのとんでも兵器かと思って心配しちゃったよ。
「そんな事よりぽてちを下さい。ボクは早く食べたいのです」
「はいはい。ちょっと時間掛かるから大人しくゲームして待っててね」
そういって、ゲームをボクに渡して部屋を出て行った。今まで我慢してたから今日はもうちょっとマスターと一緒に居たい。うん、ちょっとだけだから今日だけだから許して貰おう。
「これはヒーローパワーって奴なのかな?」
苦戦するかと思われたストレートベリーに、簡単に勝ててしまった。常に瘴気を撒き散らし精神汚染をかます奴だけど、このスーツにはまったく効き目が無かった。むしろ逆に瘴気を浄化していく始末で、近づくと瘴気が綺麗に吹き飛んでしまった。それで判ったんだけどストレートベリーはどうも瘴気で体を構成していたらしく、瘴気が無くなってそこに残っていたのは骨。なので、倒すのは非常にあっけなかったのだ。なぜか次元斬りもしてこなかったし。ストレートベリーにはこのスーツが相性良いみたいだね。まぁそのせいで、スーツを着た時の僕の能力が良くわからないんだけど。仕方ない、次いってみよう。
次も、その次も、またまたその次も。
何故かストレートベリーばかり寄ってくる。こいつって倒すのが面倒だから、普通は逃げるらしいんだけど、僕は突っ込んで行くだけで勝てるので逃げはしない。でもこいつって高額アイテムを出す奴じゃないから、倒すだけ無駄なんだよねぇ。
「あれ?」
五体目を倒した時にそれが出た。ストレートベリーには似つかわしくない綺麗な水晶がころりと落ちていた。手にとって見てみると、中に星が散らばっているみたいにきらきらしていて非常に綺麗な水晶みたいな石だった。しかもテニスボールぐらいあるからでかいし。なんかこれって非常にお宝な予感がする。
それならそれで、余計にストレートベリーを倒さなきゃ。お宝じゃなくても見た目が綺麗なんでセリナ達へのおみやげになるしね。
キュパッ
背後で聞き覚えのある音がしたかと思ったら、僕は見事に吹き飛ばされていた。カオティックブラウンの登場だ。ぼけーっと突っ立っていたせいで、組みし易しと思われたのだろう、擬態化を解いて襲い掛かってきたのだ。魔石獣はほんっっとに分かんないなぁ!
グァアォオオゥッ!
一吼えしたかと思うと、酸をはき散らかしてくるカオティック。
「“光よ!この掌に魔法の盾を! マテクト!”」
すかさず防御魔法で酸を防ぐ。最初はこれが酸だと気付かなくて凄い量のよだれだなぁとびっくりしてたんだよね。少しだけ避け損なって腕に掛かったときは驚いた。
「バーストガン!」
ダララララララララッ!!!
さてさて反撃開始です。二丁拳銃をフルオートでぶっぱなす。何か叫びながら撃ったけど気にしないで。バーストガンの弾丸は無限生成なわけで引き金を引きっぱなしで、次々と凶悪な弾丸を吐き出す。いくらカオティックが素早いとはいえ、二つの火線から逃げ切れる訳が無かった。一度直撃して動きが鈍れば後は無造作にカオティックに弾丸を次々に叩き込む。そして、実弾をたらふく食らったカオティックは流石に動きが止まった。
「シャイニングスタースラァアアアッシュ!」
なんというか、止めを刺そうと思うと体が勝手にこの技を繰り出してしまう。もう一つ必殺技があるんだけど、もっと経験を積まないと出せないんだろうか。いつも次こそやろうと考えてるんだけどどうしてもシャイニングしか出せないんだよね。ヒーロースーツは強いけどお約束が色々ありそうで、中々使いこなすのに時間がかかりそうだ。
だけどこのヒーロースーツは強いんだけど、むらがある。今の場合は普通に使いこなせたんだけど、場合によっては同じ敵でも苦戦する事がある。なんというかピンチを演出するために力を抑えられてるような感じがする時があるのだ。結局は勝てるんだけど、なんというか危なっかしい。
「でもとりあえず、カオティックブラウンも楽に撃破できたなぁ」
これなら魔物を倒しながら、遺跡探索ができる。百階層までくれば、まだ荒らされてない区画があるはずだからね。ひょっとするとフレームが見つかるかもしれない。にひひ、ちょっとワクワクしてきた!