油断
今日はヒロコもセリナも買い物して町を見て回って楽しみ、僕もガイアフレームを見ることができて非常に満足のいく1日でした。
なので、今後の換金をどうしようか? と宿屋の食堂でみんなでお茶を飲みながら、テーブルに素材を広げていた。
この日、僕はガイアフレームを見ることが出来て浮かれていたんだと思う。この日のちょっとした油断で後々大変な事になるとは、この時は思ってもいなかった。
「んー、ホーババードってどれも高額で売れるけど、これってロバスとかの大きな町で売ったほうが、高くなるのかなぁ?」
人が多い所だと、金に糸目をつけない人とかいそうな気もするし。
「んー・・・そこらへんは、わたしにも分かりませんねぇ。ロバスなんて1年に1度行くか行かないかなんで、あまり詳しくは無いんです」
「当然、ボクはわかんないよー。あはは」
「じゃあ、キラースネークの肝とかを中心に売るほうが・・・」
「そこのがき共。何をしている?」
ほえ? 気付けばテーブルの傍になんか着飾ったお兄さんが居た。だけど、なんか偉そうにしてていけ好かない感じだ。
「いえ、素材を売る相談をしているんです、貴族様」
何か見分けるコツがあるんだろうか? セリナはそのいやーなお兄さんを貴族と呼んだ。
「ガキが一丁前に。ふん、丁度良い全部1ゴールドで買ってやる。おい」
と言うやいなや、取り巻きの人があっという間にテーブルの上にあった素材をかっさらい1ゴールドを投げてきた。
「って、そんな金で売るわけ無いだろ?! かえ・・・」
「コージッ、駄目っ!」
正直、捨て値で売っても100ゴールドは越す素材だ。だから、文句を言おうとしたのにセリナに強く止められてしまった。
「あ、何か文句あるのか?」
「いえ、何もありません貴族様」
あくまでも下手に出るセリナをじっと見る貴族。ふと、何かに気付いたようでセリナの顎を持ちまじまじと顔を見る。
「ふん・・・娘。中々の器量よしじゃないか。俺と・・・」
「素材は全部上げますから、お引取り願いますか、貴族様」
何かやばそうな事を言いそうな雰囲気だったので、言い切る前に言葉を重ねる。
なんか、すっごく嫌な奴だ。
「・・・っち、まぁいいか。よし、引き上げるぞお前達」
と取り巻き達にそう言い放ち、部屋に引き上げていく貴族。とりあえず引いてくれたようで良かった。
と、安心した瞬間。
「あ、そうそうお前達。明日も素材を持って来い。こづかいぐらいはくれてやる。いいな?」
・・・言わせておけばっ!
「・・・分かった」
悔しかったけど、セリナがふるふると首を振りながら僕を見るので、強くでれなかった。
貴族ってなんだ? この世界の貴族はあんな奴ばかりなのか・・・?
高笑いしながら、ようやっと貴族が部屋に戻っていった後、セリナを見るとまだ脅えて震えていた。相当怖かったようだ。
「セリナ、大丈夫?」
「・・・はい、すみませんコージ・・・こんな事になってしまって」
「とりあえず、部屋に戻ろう。ここだと・・・まずい」
「はい、そうですね」
周りの同情するような視線をうけながら、僕たちは食堂を出て行った。
一旦、僕の部屋に集まって、落ち着く為にお茶を淹れてお茶菓子も出した。
「すみません、コージ。あの貴族に逆らうと本当に大変なんです。さっきの貴族はこの近くに土地を持っているエディン家の次男なんです。名前はヒューイといいます」
落ち着いたのか、セリナが淡々と説明してくれる。
「あの人はここら辺で有名で、何人も同じように脅されているんですが、貴族という事もあって町の自警団も手が出せず、逆らおうものなら兵が乗り込んできて報復するんで、みんな見て見ぬ振りをしているんです」
いわゆる鼻つまみ者って奴なのか。しかも暴力を背景にしているので、普通の人はされるがままに居るしかないみたいだ。一度、逆らった事があるみたいだけどガイアフレームまで持ち出し、逆らった人の家族をみせしめとして、奴隷にして売り払ったり、逆らう奴が居るのはこの町が悪いせいだといちゃもんをつけて、町から金をせしめたりした事もあったそうだ。いっそ清々しいほど悪い奴だなぁ・・・
「なんとかできないかなぁ・・・」
「コージ、気持ちは嬉しいんですけど、気にしないで下さい」
むむむ。なんとかするなら、根こそぎやっちゃわないと駄目だろうし、根こそぎやったらやったで、今度は国を相手にしないと駄目になるのか・・・
うーん。駄目ループをなんとかしたいなぁ。国王に直訴? したらひょっとしたら大丈夫なのかなぁ?
そこら辺も考えて、今後の行動を決めないと駄目だね。
いつもは元気なヒロコも、貴族の負の気持ちをぶつけられたせいで、まったく元気が無い。
ヒロコって精霊っぽくないけど、こんな風に滅入っているのを見てしまうと、精霊ってつくづく精神にひきづられる生き物なんだなぁって思った。
今日はついていた。
いい加減、何か箔を付けろと親に言われてギルドのランクを上げるべく、魔物を手下に狩ってこさせていたのだがどうにも、ランクを上げる為の素材が集まらない。
そう、逃げ足が速くて有名なホーババードなんぞをランクアップ素材にしてやがるせいで、中々ランクを上げることができなかったのだ。
くそ、あのギルドめ捕まりにくいのを分かってて、規則を盾にそんな素材を指定してきやがった。いずれ、ぶっつぶしてやる・・・
最近は町の連中も、小賢しい知恵をつけたのか俺の前では目立つことをせず、裏でこそこそと儲け話をしてやがるから、俺にうまい話が中々来ない。
それが、今日はよそ者のガキ共がたまたま持っていたホーババードの尾羽のおかげでランクアップの目処がたったので、ようやく家に帰れるので気分が良い。
明日も持って来いと言ってるので、きっと喜んで持ってくるだろう。そもそもガキが持ってて良いもんじゃないしな。俺が有効に活用してやらないとなぁ。
ガキといえば、あの娘は意外と良さそうだったな。また印持ちのガキにさらわせて来ようか・・・生意気なガキは痛い目に合わせれば言うことを聞くだろう。
あぁ、ガキが勝手に素材を店に売ったりしないように手を回しておくか。
くくく、あのガキ共がつぶれるまでは、この町で遊んでやるとするか。
ランクアップは確実だから家には、いつでも帰れるしな・・・
偉ぶってる人って嫌ですよね、うん。
コージ君はどうする気でしょうか。頭は回るみたいだけど、そのせいで
自縄自縛になってる気もします。
気にせずブットバセバイイノニ!